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エッセイ289.センチメンタル・ヴァリュー(2)折り紙の薔薇
2022年6月に100歳を目前に亡くなった義母が、92歳の時に1人で日本に遊びに来ました。周りは反対したし、航空会社はびびって、ファーストクラスで、移動が車椅子ならば、ということを言ってきました。
義妹が、
tamadoca本当に大丈夫? 大変だったら断って
と言ってきましたが、私と夫は、なんかあったとしても、どこにいてもあるときはあるので、いいんじゃない? と思って、来てもらいました。
いつも明るい彼女は、「大丈夫大丈夫」「やっぱり心配よね、申し訳ないわ〜」と言いつつも、お土産をいっぱい持って、名古屋に軽やかにやってきたのです。
その1ヶ月の滞在中、地元の馴染みのバーや居酒屋、京都、日進市美術館や、トヨタ・テクノ・ミュージアム、ノリタケ・ミュージアムなど、いろいろなところに一緒に行きました。知多半島の魚市場は特に気に入ったそうです。
クリスマスは一緒に料理して、お正月は義母の初体験のお節料理。
本当に楽しかったです。
あるとき、郡上おどりで有名な、郡上市八幡に義母と行き、ランチのお店に入りました。義母はその時すでに片目が見えませんで、遠近感がなわからなくなっていました。それでテーブルにつく際、床のタイル模様が座席に見えてしまって座りかけ、倒れてしまいました。幸い怪我も打身もありませんでしたが、かわいそうに、ものすごく気まり悪がり、
tamadoda,みなさんにごめんなさいと言ってね
と何度も何度も言いました。
それを伝えるとお店の方が、
お母様に、どうぞもうお気になさらずに、
お怪我がなくて何よりでした、とお伝えください。
とおっしゃって、倒れた植木などを手早く直す前に、奥の別のテーブルに案内してくれました。
その後、いつの間に折ったのか、この薔薇の花を義母に手渡して、
日本は・・郡上はどうですか?
気に入っていただけましたか?
はるばる来てくださってありがとうございます。
本当に、お元気ですばらしいですね。
と言ってくれました。
義母はとても喜び、そうっと折り紙の薔薇をバッグにしまって、大事に持ち帰りました。
NZに彼女が帰国したあと、ピアノの上に、NZから持ってきてくれたおみやげが並べてあったのですが、折り紙の薔薇もそこに残されていました。
帰省のたびに、持って行ってあげようかなと思ったのですが、彼女があのときの思い出を、私たちの家に残していってくれたような気がしましたので、薔薇は我が家で預かることにしました。
この先も、香りのしないこの薔薇は、義母と美味しい物を食べまくり、ワインを飲みまくったあの1ヶ月や、いつも優しい郡上のみなさんのことを思うよすがになると思います。
当然、絶対捨てられないです。
小さいから ま、いいか!
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