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銭湯の廃業を食い止めろ!閉店の理由と経営改善のヒント

私が大学生だった昭和の終わりの頃は、昔ながらのお風呂屋さんが町のあちらこちに見られたものです。

その当時、風呂なしアパートに住んでいた私は、そうした銭湯によく通った思い出があります。

しかし、あれから30年余りが経った現在、経営難によって閉店に追いやられる銭湯が後を絶ちません。

何よりも、昔に比べて客足が遠のいてしまった事が廃業の主な理由になる訳ですが、

これを、ただ時代の流れだといって見過ごしてしまうのも、どこか寂しい気がします。

そこで今回は、町に一件でも多くの銭湯が生き残るための、経営改善のヒントになりそうな情報をお伝えしたいと思います。


(1)銭湯を閉店に追いやる客離れの理由

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年々、銭湯を廃業に追いやる客離れが進んでいる理由は大きく2つあります。

まず、その1つ目が家風呂普及率が増加した事です。

私は、学生時代を大阪の町で過ごしていたのですが、当時はまだ風呂無しの文化住宅や木造アパートなどがたくさん残っていたので、

私も含めて、そうした住居に住んでいた人たちは、銭湯通いが習慣になっていた訳です。

しかし、風呂無し住居は老朽化と共にどんどんと取り壊されていき、その跡地には風呂付のマンションやハイツなどが建設されるようになりました。

つまり、身体を洗って清潔を保つのが目的であれば、銭湯に通わなくても家の風呂で事足りる時代になったのです。

ちなみに、1963年に59,1%だった家風呂普及率は、2008年には95,1%となり、2013年にはほぼ全世帯に達したとされています。


そして、銭湯の客離れが進んでいる2つ目の理由が、スーパー銭湯などの新しい温浴施設が増加した事です。

もともと銭湯というのは、主に風呂無し住居に住んでいる人にとって重宝した場所でありました。

しかし、家風呂普及率の増加に伴って、浴場そのものに娯楽施設としてのニーズが高まってくると、

健康ランドやスーパー銭湯といった、レジャー志向の強い浴場が人気を集めるようになってきたのです。

そうした中で、銭湯の客離れがますます加速すると、経営難による閉店の件数も増えていく一方となりました。


ちなみに、厚生労働省の調査によると、全国の銭湯の件数は次のように推移しています。

【銭湯の件数】

・1980年→15,696件

・1990年→11,725件

・2000年→8,117件

・2010年→5449件

・2020年→3,398件

ご覧の通り、ここ40年の間に1万件以上の銭湯が閉店し、その数は約5分の1にまで減少している事が分かります。

一方で、銭湯以外の温浴施設(スーパー銭湯、ヘルスセンターなど)の場合は、逆に次のような増加傾向にあります。

【温浴施設の件数】

・1980年→8,004件

・1990年→11,597件

・2000年→17,286件

・2010年→17,949件

これらのデータを見る限りでは、銭湯は他の温浴施設にお客を食われ、閉店に追いやられていると思えるかもしれません。

しかし、銭湯と温浴施設を合わせた全体の件数は20,000件余りを保っており、今も昔もそれほど大きく変わっている訳ではありません。

つまり、浴場に通う人は今でも一定数はいる訳ですから、経営を改善すれば、銭湯にお客を呼び戻せる可能性は十分にあるという事になります。

その辺については、また後ほど詳しくお伝えしたいと思います。

(2)銭湯経営にまつわる、お金の話

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客離れが進む中で、実際のところ銭湯経営はどれくらい厳しいのか?

そこで、銭湯経営にまつわるお金の問題について見ていきましょう。

まずは銭湯の収益となる入浴料ですが、これは都道府県によって大きく幅があり、

全国平均でいうと、2021年の4月現在では、およそ422円といったところです。

ちなみに、現時点における全国の最高値は神奈川県の490円、最安値は山形県の300円です。

(※佐賀県は280円なのですが、洗髪料金が別途で50円かかるので、合計は330円になります)

では、一日当たりの収益はどれくらいあるのか?

という事になりますが、東京都内の少し前のデータを参考にすると、一浴場における一日当たりの平均入浴人数が約120人でしたので、

470円×120人=56,400円という事になり、週に6日稼働すれば入浴料だけで1カ月当たり150万円前後の収益が見込めます。

また、銭湯の収益にはこの他にも、貸しタオル、石鹸、シャンプー、あるいは飲食物などの売上も加わります。


次に、収益から差し引かれる、水道代、燃料代、電気代、メンテナンスや修理・修繕費用といった、諸々の必要経費について見てみましょう。

(※銭湯は家族経営が多いので、従業員を雇う事で発生する人件費については省略しておきます)


①水道代

浴場施設の場合、水道代にかかる経費がかなり大きいのでは?と思われがちですが、

実は銭湯に限って言うと、その用途が湯屋用の扱いとなり、水道代は驚くほど安くなっています。

その理由を簡単に言うと、基本料金の上限が低く設定されている上に、ある一定量以上からは、

いくら使っても1立方メートル当たりの料金が格安という仕組みになっているからです。

こうした優遇を受ける事により、水道の使用料は一般用よりも2倍以上、スーパー銭湯などの業務用よりも4倍以上は安くなっているようです。

ですから、月の水道代は数万円程度で収まるのではないかと思われます。


②燃料代

銭湯の湯を沸かすために必要な燃料には、重油や灯油などの油燃料、あるいは木材などの固形燃料がありますが、

火おこしに手間のかかる木材を使えば、油を使うよりも燃料費を月に15万円くらいは削減できるらしいです。

おそらく、油を使えば月に20万円以上の燃料費が必要になるでしょう。


③電気代

銭湯を営業していると、何かと電気代もかかってきます。

照明、サウナ、夏場の冷房、あるいは冬場の暖房など...

例えば、電気代を節約できないサウナを稼働させている場合には、月の電気代を10万円くらい支払っている銭湯もあるようです。


④メンテナンスや修理・修繕費

銭湯を運営していくには、光熱費だけではなく、業務用エアコン、ボイラーといった設備のメンテナンスにもお金がかかりますし、

もし、何らかの故障が発生してしまうと、更に修理代が必要になってきます。

また、建物の老朽化によって、屋根や煙突が壊れたり、水漏れなどのトラブルが発生する事もあります。

こうしたトラブルによって、実際に数百万円ものお金が必要になる事もあるそうなので、

特に古くなった銭湯の場合は、思わぬ出費も想定しておかなければなりません。


では実際のところ、閉店しないで経営を続けられるボーダーラインとしては、1日に何人くらいのお客さんに来てもらう必要があるのか?

という事になる訳ですが、業界で一般的に言われている儲かるラインというのは、1日の客数が120人であり、

普通の銭湯であれば、1日の客数が平均で80~90人といったところが多く、それで何とか営業を続けていけるようです。

(3)銭湯が閉店してしまう4つの理由

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私が住んでいる町でも、銭湯の閉店は後を絶たず、つい最近も自宅から少し歩いて行ける場所にあった1軒が廃業していました。

住人にとってみれば、こうした銭湯の閉店は、ある日の突然の出来事であり、

”なんだか寂しいな~”という思いに駆られます。

こうして銭湯が閉店する理由はいくつかありますが、大きくは次の4つになります。


①収支が赤字で営業が続けられない

どんな業種であれ、赤字収支が続くと経営は成り立たなくなります。

銭湯によっては、経営を維持できる客数のボーダーラインは異なってきますが、

いくら経費を最小限に抑えたとしても、そのボーダーラインを下回ってしまえば、

赤字が膨らんでしまう前に閉店するというのも、最良の選択であると言えるかもしれません。


②建物が損壊してしまった

銭湯は古い建物が多く、自然災害などで大きな被害を受けてしまうと、やむなく閉店という場合も少なくはありません。

例えば、2018年に発生した台風21号は、近畿地方を中心に猛威をふるい、

その影響で、私の住んでいる町では、少なくとも2軒の銭湯で大きな損壊が発生し、その後に閉店のお知らせがありました。

被害としては、1軒は外壁がめくれて中の木枠がむき出し状態になっていて、もう1軒は、なんと煙突が倒れてしまったのです。

修繕費はかなり高額になると予想できましたが、どちらの銭湯もその費用が大きな負担となる為に、やむなく閉店という事になったようです。

また、ある銭湯では、ボイラーを新品に交換して間もなく、自然災害で建物が損壊した為にやむなく閉店し、

後にはボイラーの借金だけが残ってしまったという話もあります。

いずれにしても、何とか営業を続けているような銭湯の場合には、こうした建物の大きな損壊が生じると、

修繕費用の問題で、やむなく廃業に追いやられてしまう事がある訳です。


③設備が故障してしまった

銭湯を稼働させるために必要なボイラーやポンプ、あるいは業務用エアコンといった大型の設備に、

もし何らかの故障が発生したとすれば、営業そのものが困難になってしまいます。

簡単な修理で直せるならまだしも、大掛かりな修理が必要であったり、あるいは交換という事になれば、

それだけで何十万円、何百万円といった費用が発生してしまいます。

そこそこ儲かっている銭湯であれば、そうした費用を工面する事も可能かもしれませんが、

そうでなければ、設備の老朽化が理由でやむなく廃業という事も起こります。


④後継ぎがいない

銭湯の多くは、先代から次の代へと経営が受け継がれていますが、今は業界自体が厳しい時代なので、

後を継ぐ人が見つからず、やむなく閉店という場合もあります。

実際に7年ほど前に、私の家の近くにあった銭湯が、店主の急逝を理由に閉店してしまった事がありました。

その銭湯は4階建てで、カラオケや宴会コーナーもある、けっこう大きな施設だったので気にはなっていたのですが、

突然の廃業によって、残念ながら私は一度も訪れる事ができませんでした。

このように、銭湯の閉店というのは、ある日突然にやってくるのです。

(4)廃業しない銭湯経営の具体例と秘策!

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銭湯の客離れが進んで行く中で、廃業しないで営業を続けていく為には何が必要なのか?

そこで今度は、銭湯経営の改善につながる具体例と、ある秘策についてお伝えしたいと思います。

①経費の削減

銭湯経営を改善させる為に、まず最初に取り組めるのが経費の見直しですが、その具体例としては以下のような方法があります。

・既にお伝えしましたが、湯を沸かす燃料を、油燃料から固形燃料に変えるだけで、月に約15万円の削減に成功した事例があります。

・夏場にエアコンの温度を1度上げるだけで、約10%の電気代の削減につながります。

・エアコンの内部を清掃する事で、10~15%のコスト削減につながった事例があります。

・LED照明は、蛍光灯に比べると電力消費量が少なく寿命も長いので、長期的に見ればコストの削減につながります。

・ボイラーを閉店時間の少し前に止める事で、トータルすれば燃料代の大幅な削減につながります。

・営業時間内は、お客さんの人数には関係なく、ボイラーや空調を稼働させておく必要があるので、

光熱費の無駄使いを減らすためにも、来客が少ない時間帯を考慮した上で、営業時間の見直しが必要な場合があるかもしれません。

②銭湯の強みである地域性を生かす

昔ながらの銭湯の強みは、何と言ってもその地域性であり、身近な社交場としての役割は非常に大きいと思います。

例えば、お客さんと店主や番台の人が互いに顔見知りになると、自然に会話が生まれたりもします。

あるいは、お互いに親しくなってくると、何かの相談相手になる場合もあるでしょう。

そんな関係というのは、スーパー銭湯などの利益追求型のレジャー施設では、なかなか生まれてこないものです。

ですから、銭湯はレジャー施設としては大型浴場にかなわなくても、身近な社交場としてなら十分な価値がある訳です。

そんな強みを生かして、例えば正月には常連客に豚汁を振る舞うなどのイベントを開催している銭湯もあるようです。

このように、銭湯経営を長らく続けていくためには、どれだけ地域の固定客を取り込めるかが重要な鍵を握っています。

③新しい試みで話題性を作る

ひと昔前のように、店を開けていれば自ずとお客さんが来てくれていた時代ならまだしも、

今の時代には、入浴以外にも何か別の付加価値がなければ、新しいお客さんを取り込むのは難しくなります。

人気のある銭湯の多くは、新しい試みによって話題性が高まり、それが集客アップにつながっています。

具体例としては、店内にギャラリーを設置、漫画コーナーを作る、絵師による浴場壁画の創作鑑賞会の開催、オリジナルグッズの販売などがあります。

やはり、今の銭湯経営には、あの手この手の工夫が必要になってくる訳です。

④こんな秘策もある!

では、ここで私自身の、ちょっと突飛な考えをお伝えしておこうと思います。

私は猫が好きなのですが、住んでいるのが集合住宅という事もあり、残念ながら飼う事ができません。

そこで、”番台に猫が座っている銭湯があればいいのにな~”、などと勝手な空想をした事がありましたが、

全国には、そんな銭湯が実際にいくつかあって、けっこう人気らしいです。

そりゃあ、猫を飼えない猫好きの人からすれば、そんな銭湯が近くにあれば、頻繁に通いたくなるでしょう。

私は、そんな番台猫の写真を見ただけで、思わず顔がにやけてしまいました。

やっぱり、猫は見ているだけで何だか癒されますね~

という事で、冗談半分のような話になりましたが、番台猫がいてくれると、集客には絶大な効果があるのではないかと思います。

もしかすると、噂を聞きつけたお客さんが、遠方からもたくさん来てくれるかもしれません。


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