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Pinnacle/Buster Williams

この作品を手にとったきっかけは、本作品がヒップホップの代表的なアーティストであるA TRIBE CALLED QUESTやDE LA SOULの楽曲でサンプリングされていることを知ったためです。
そもそも私がジャズに関心を持ったきっかけの一つが、ヒップホップのサンプリングソースとしてのジャズでした。現代の音楽からルーツを遡っていくのは自分にとってはとてもワクワクする体験ですし、未知の音楽は新旧関係なく新鮮な驚きを与えてくれます。

本作品が発表された1975年はStrata-EastやBlack Jazz、India Navigationといったインディペンデントなジャズレーベルから新しい形のジャズが生まれた時期です。最近ではサックスプレーヤーのKamasi Washingtonの活躍などにより注目されたスピリチュアル・ジャズの要素を含む作品も、多くこういったレーベルから発表されています。フリージャズの要素やアフリカンなビート感など、従来のジャズからはみ出ようとした試行錯誤が感じられて、この頃のジャズには好きな作品が多いです。

本作品もそういった70年代の香りを強く感じさせる作品です。ベース奏者のBuster WilliamがMuse Recordsから発表した初のリーダー作です。BusterがHerbie HancockのプロジェクトであるMwandishiに参加した後に発表した作品で、そこで共演したドラマーのBilly Hartが本作品にも参加しています。Herbieが著名なアーティストということもあり、本作品はMwandishiのプロジェクトの系譜で語られることも多いようですが音楽的な質感ではかなり異なります。Mwandishiの諸作品に比べ、よりグルーブ感を強く押し出しており、特にベースの存在感が大きいです。

一曲目の「The Hump」ではBuster Williamsのタメの効いたファンキーで重たいビートの間をアフリカンなパーカッションや浮遊感のあるエレピが埋め、その上をドスの利いたバスクラリネットや切れ味の鋭いソプラノサックスが駆け抜けるような、独特のグルーブ感でとにかくかっこいいです。各々のソロに重点を当てるというよりは全体で新しいグルーブを生み出そうとしているような勢いを感じます。重心の低く重いビートリフには、ヒップホップで言うところの「煙たい」「黒い」感覚があります。同時代に活躍したベーシストにCecil Mcbee(大好きなプレーヤーです)がいますが、Buster Williamsも同じくらい好きになりました。
ジャズ・ファンクやフュージョンというにはディープでシリアスな雰囲気ですが、フリージャズほどアバンギャルドではなく聴きやすいです。新しい音楽が生まれる際の混沌としたエネルギーにあふれる魅力的な作品です。とにかくかっこいいなと思える音楽だと思います。ヒップホップ好きでジャズも聴いてみたいという人にも是非おすすめしたい作品です。

本作品のような70年代のジャズは、古さを感じさせず、現代の生活にも馴染むようなキャッチーさがあります。実際に、最近スターバックスに入ったらBlack Jazzの作品が流れていて「おっ」と思うことがありました。
こういった音楽は80年代を境に衰退していったようです。それでも現代のアーティストがサンプリングすることで生き続けるのは素晴らしいと思います。レコードで聴いていると、70年代に思いを馳せるだけではなく、ターンテーブルと向き合ってサンプリングしたビートメイカーの想いも追体験できるような気がして、自分もこのバトンを繋いでいきたいという気持ちにさせられます。


(参考)
PInnacle


A Tribe Called Quest - Mr. Incognito



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