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自分と自分以外の適度な関係を学ぶ

僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回 森田真生

はじめに

 著者の森田真生さんは最年少で小林秀雄賞を受賞した『数学する身体』の著者であり、”独立研究者”という肩書の方である。(同い年なのに。。。人類の多様性を感じます)
 本書はそんな著者がコロナ禍の四季折々で感じたことをまとめたエッセイであるが生活を見直すヒントが詰まっているだけでなく、感性を研ぎ澄まさせ、様々なことを考えさせられ、読む前とは異なる思考や行動を起こさせてくれる魔法の書だ。
 それに加えて本書は素晴らしい育児教本である。
 そしてとにかく言葉選びが秀逸で、羨ましく、たくさんメモを取った。

読書メモ

・「ぜーんぶようちえん」、「もりたのーえん」プロジェクト
・Appreciate:味わうこと、認めること、感謝すること
・「エコロジカルな自覚」 by ティモシー・モートン
自分の弱さを自覚すること(弱さは存在の欠陥ではなく、存在とはそもそも弱いものなのだ)
錯綜する関係の網(メッシュ)のなかに、自己を感覚し続けること
・「HOLD STILL」: 人間が、自分でないものに耳を澄まし始めたときの合図
・"survive"ではなく"alive"
・Umheimlich:不気味さ。「抑圧されていた家の回帰」
・本書に出てくる舩橋さんの協生農法と森田真生さんの数学的思考については、以下の動画が大変参考になります。(お二人の人柄もよく分かるトークセッションです)

出典:Benesse Artsite Naoshima  宇沢弘文フォーラム 5:Session2「とりまくものたちと生きる~生命・文化・科学~」 舩橋真俊×森田真生

・変化を隠すのではなく、正面から向き合うこと。これから起きようとしていることに、感覚を少しずつ馴染ませていくこと。
・澤田智洋さん「500歩サッカー」、不自由を楽しむことがスポーツ。
・「植物観察家」鈴木純さん
・imagine there's no repetition
・エコロジカルに生きることは、欲望を抑制することではない。それは、新たな感謝と喜びに目覚め、これを育てていくことである。
・「野の畑 みやた農園」宮田さん、「いのちに近い仕事ほどお金が動かない」
・「そしたら自由に歩けるね。アリさんとかカタツムリさんも」
・「遊び」とは・・・(中略)、まだ見ぬ意味を手探りしながら、未知の現実と付き合ってみることである。
・物を贈り合う連鎖は、「こんなにもらってしまった」という、驚きと感謝の経験からこそ動き出すのではないだろうか。
・「自己破壊に夢中な」この世界

思考メモ

 全体として大変僭越ながら「そうそう、それそれ」と何度も共感を覚えた。でも自分では言語化できなかったことを森田真生さんは見事に書き上げているところがすごい。
 またこの本を読みながら、ところどころで影山知明さんの『ゆっくり、いそげ』を思い出す。それは利他のこころである。影山さんは他者との関わりの中から『受贈者的な人格』と表現し、森田さんは自然との関わりの中から同じく「こんなにもらってしまったという驚きと感謝の経験」と表現した。またお二人とも自己の「弱さ」を自覚することでこれまでとは違う視点や行動を引き起こしている。
 都市生活者ならではコンパクト農ライフを実践するべく農との関わりを模索し、新しい出会いやご縁をいただいた2021年。年が明けた2022年はまさに「行動」の一年にしたい。それは”act”ではなく”play”でありたいと思う。
 自然への畏怖と感謝を忘れてはいけないと改めて思うとともに、自然との接点を持つことの大切さを自分なりに解釈して、試行錯誤していきたいと思う。
 子どもをもつ親として、森田さんのお子さんへの向き合い方はとても素晴らしいと感じた。コロナ禍で在宅勤務が増えてもほぼ迷わず保育園に預けさせて仕事をしているが、多感な子どもたちの近くでその感性に触れることは自らにとっても学びが多いことなのだと読みながら反省した。ましてや寒いから、暑いからと休みの日にYoutubeの虜にさせてしまっているのは親の行動として恥ずかしい。もっと子どもと自然の対話に耳を傾けようと心に決めた。そのためにももっと外に出て一緒に冒険しよう。

おわりに

 本書は不確かな今を生きる多くの人にとって道しるべになり、心に火をつけるはずだ。本書から引用させていただいた読書メモを読んだだけでは一つ一つのエピソードがどのような文脈でつながっているか分からないと思うが、それは読んでからのお楽しみとしていただきたい。
 季節の移ろいを感じながら、また自然の中に身を置きながら、少しずつじっくりと、繰り返し読んでもらえるとその時々の味わいが出てくる一冊だ。
森田さんの少年のような好奇心に触れながら心地よい新年を迎えるのはいかがだろうか。

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