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ドラマ「トロイ伝説(第2話)」感想

第1話の感想はこちら

内容

 帰国したスパルタ王メネラオスは、ヘレンの出奔を知り兄・アガメムノンに使いを出す。
 アガメムノンからの招集を受けたオデュッセウスは狂気を装って招集を逃れようとするが、赤ん坊を盾に取られ狂人の振りを続けることができずに、従軍することになる。
 一方パリスと共にトロイに到着したヘレンを迎えたトロイの王宮は対応に苦慮するが、ヘレンをトロイに留め、より高価な贈り物でその身を贖うことを決定する。
 出発地に集結したギリシャ方の軍勢だが、逆風で船が出せない。オデュッセウスの指摘で女神アルテミスへの儀式を忘れていたことに気づいたアガメムノン。改めて行われた儀式で、アルテミスはアガメムノンの娘を生贄に要求する。アキレスとの偽縁談で呼び出された王女イピゲネイアは、アガメムノン自身の手で喉を切られる。
 トロイ側とギリシャ側の最後の交渉。メネラオスに自分の意思でトロイに渡ったことを告げるヘレン。一方、オデュッセウスもアガメムノンが娘を生贄に捧げたことを伝え、妥協の余地は無いことを示す。ギリシャ側の強硬な要求に、ヘレンの返還で妥協しようとしていたトロイの人々も態度を硬化させ、交渉は決裂する。
 オデュッセウス配下のクサンティウスはトラキアの商人テラモンと名乗ってトロイに潜入する。
 パリスは戦争に参加したいが許されない。
 ヘラに加勢を頼まれるゼウスは中立を宣言する。
 緒戦、ギリシャ軍は攻撃に失敗。オデュッセウスは長期戦を覚悟し、アガメムノンも包囲戦を了承する。

時系列的感想(ドラマを見ながら思ったこと)

 プリアモスに対するヘレンの釈明。やはり近代以降でこのテーマを扱おうとすれば、女性の自由意志・自己決定という内容に触れないわけにはいかない。トロイを王プリアモスと王妃ヘカベーが共に治める国として、王妃であっても自分の意思を認められないヘレンと対比したのは印象的。
 オデュッセウス出立のエピソードは確かイリアスには無いエピソードではなかったか?
 ギリシャの英雄たちが皆ヘレンに求婚した話はサラっと出てくるのね。
 決着はすぐにつくとアガメムノン。これはあれだ「クリスマスまでには帰れる」ってヤツだ。
 アルテミスはステレオタイプに近いくらい典型的なアフリカ系の顔立ちをした女性が演じているのには驚いたが、取り合えず役者さんの人種はあまり気にならない方なので、マイナスポイントにはならない。それよりアルテミス役の役者さんが無言で怒りを表現する演技が短いシーンながら鬼気迫る。
 アガメムノンの娘を生贄にする話もイリアスには無くて、別の話が出典だった筈。娘を差し出すくらいなら自害するとか言いだして取り乱すアガメムノンが意外。僕のアガメムノンのイメージだと、そのくらい眉一つ動かさずにやりそうだった。
 プリアモスとヘカベーも恋愛結婚だったのか!しかも二人が出会った場所としてハットゥシャの名前が出てきたのは、以前ヒッタイトについて色々纏めた身には嬉しい驚き。確かに考古学的にはトロイのモデルとなった国はヒッタイトと関係が深いのだけれど。
 この感想のために2巡目見ていて気付いたけど、後でトロイに潜入するクサンティウスはここでギリシャ方陣営にいるのね。
 結婚の為に呼び出されて生贄にされるイピゲネイア、自ら娘を手にかけるアガメムノン、止めることのできないクリュタイムネストラ。アガメムノン一家の苦悩と、むつみあうヘレンとパリスの姿を交互に入れていく演出は劇的に悲劇性を盛り上げる。
 貞淑なアンドロマケがヘレンを受け入れられないのは、わかる。気が合いそうにない。
 ギリシャ軍の先鋒の軍船が3艘並んで登場のシーン。これは映画「トロイ」の方が断然良かった。トロイ側に交渉を持ちかけられる前から、ギリシャ側も交渉の使者のつもりで少数で接近したのかもしれないが、CGコピペでもいいから画面いっぱいに無数の軍船が埋め尽くしている画が欲しかった。
 トロイに乗り込んだギリシャ側の交渉役はメネラオス、オデュッセウス、アキレス。ここで騙し討ちで討ち取っちゃえば、トロイ側勝ったのでは?
 防御陣地の構築を建言するオデュッセウスに、攻撃は一日で終わるので必要ないと退けるアガメムノン。直後にオデュッセウスと妻ペネロペの別れのシーンが回想で挟まるのは、オデュッセウスの不安の描写か、続編として「オデュッセイア」映像化への布石か。
 トロイア方軍勢の中に混ざるアフロディテ、ギリシャ軍に混ざるヘラとアテナ。武将の名を次々呼びまくって祝福を与える、今どきの表現ならバフをかけてるというヤツ。全体バフのような便利な事はできないもよう。メタ的に言えば、いちいち描写していられない有名武将が参加していることを不自然なく示すことができる工夫かな。(古典文学だと参加した武将のリストで、物語の流れが止まっちゃうところ)
 両軍激突までをじっくり見せ、最後はスローにする演出は超カッコいい!その後のバトルシーンは遠景のシルエットで済ますのは、そういうシーンは次回以降にオアズケということか。バトルが続くお話で単調にならない工夫は参考になるかな。

視聴後の感想

 陸戦の陣立てから女神たちの祝福を経て両軍激突!までのシーンはとてもカッコいいです。その後のバトルはちょっと残酷シーンはあるもののあっさり描写で、カッコいいバトルシーンは次回以降のお楽しみということですね。
 オデュッセウスが狂気を装う話とか、アガメムノンの娘の話とか、イリアス以外が出典のエピソードが出てきたのも嬉しいです。王女を呼び出すダシにされたのがアガメムノンとアキレスの諍いの始まりと書いてある本もあったけど、このドラマではその描写はなし。その場にクリュタイムネストラがいたことでむしろ、クリュタイムネストラとの諍いの始まりという感じがしました。
 娘を生贄にすることに悩むアガメムノンが、今までのイメージと違って新鮮。メネラオスとオデュッセウスに突き上げられて、いやいや実行することになったあと、天に向かって「何故」と叫ぶとか、攻撃に失敗した後に悲嘆に暮れてオデュッセウスに諭されたりとか、他作品の欲望にまみれた暴君的なイメージと違う人間的なアガメムノンが描写されていました。
 トロイア戦争にミケーネとトロイの経済戦争の面があるのは映画「トロイ」でも描写されたところ。
 ヘレンはメネラオスに自分の意思でトロイに来たことをはっきりと告げます。女性が自分の人生を自分で決めることができない時代。パリスの登場はヘレンの人生に初めて現れた選択肢だったのかもしれません。ただ自由には責任が伴うもので、ヘレンにとっては無関係な人々の死、アンドロマケやカッサンドラからの視線が自由の代償となっています。少しでも責任を取りたいのに戦争にも負傷者の救護にも参加させてもらえないパリスとあわせて、針の筵の始まりです。

 第3話以降の感想はこちら
  第3話の感想
  第4話の感想

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