ケツァルコアトルスは空を飛べたか?

 昨夜、下の子に「プテラノドンって飛べなかったんでしょう?」と聞かれたので、「はて?どこで何を聞きかじってきたのだろう」と思いながら、「ちゃんと飛べたよ。鳥みたいに羽ばたいて飛ぶことはできなかったけど、紙飛行機みたいに飛ぶことはできたよ」と答えました。
 すると今朝になって、Twitterのタイムラインにこんな記事が。

これか。
 夕方のニュースか、YouTubeの動画で取り上げられていたのでしょうか。

 さてこの記事ですが、翼竜や絶滅種の鳥類の滑空能力を試算すると、ケツァルコアトルスの滑空能力は極端に低いことがわかった。という内容が中心になります。ここからケツァルコアトルスは飛べなかった。本当はは地上生活をしていた、という話になるのですが、どうでしょう。ケツァルコアトルスのあの体形は、飛行に不向きな以上に地上生活にも不向きに見えます。
 まあさすが科学についてのサイトだけあって「その結果、翼竜の中でも大型の種は、ソアリング飛行に不向きであり、ほとんど飛ばずに陸上生活を送っていたことが示されました。」という書き方には好感が持てます。一般の新聞だと、何か一つの論文が発表されただけで「〇〇ということが解った」と断定調で書いてあることが良くあるので。

 さてこの研究結果が何を意味しているか。滑空飛行の能力が低いと示されたにもかかわらず、地上生活に向いているとも思われない、それでも生きていたことは確実なわけです。そんな不完全な生き物だから絶滅したのだろう、というのでは19世紀の進化論ですね。化石が残るほど個体数がいたのなら、充分繫栄していたと言えるはずです。
 それではこの矛盾を解決する解釈はあるでしょうか。

可能性1、飛べた。復元が間違っている又は不十分である。
 ケツァルコアトルスって全身骨格の何パーセントくらい見つかっているんでしたっけ?この計算の元になった復元より、航空力学的に洗練された体型をしていた可能性はないでしょうか。また化石に残りにくい軟組織で、揚力を増やす構造(風切羽根のような)があった可能性は?

可能性2、飛べた。滑空能力が弱くても飛べる環境だった。
 気候や地形の影響で上昇気流が発生しやすい環境があり、貧弱な飛行能力でも飛ぶことができたかも。

可能性3、飛べた。今回の計算が間違っている。
 きわめて失礼な話なので、ちょっとここに書くのは心苦しいのですが・・・。検証するのは素人である僕には不可能ですので、他の研究者が検証してくれるかどうかですね。
 またかつてハチの一種について、力学的に飛べないはず、と言われていたように見落とされているファクターがあったりすると計算が変わってくるでしょう。

可能性4、地上生活していた。復元が間違っている又は不十分である。
 可能性1の逆パターンです。現在の復元ではケツァルコアトルスが地上生活していたとは信じられません。しかし現在の復元図が、空を飛ぶ翼竜という先入観に囚われて本来の姿からかけ離れたものになっているということはないでしょうか。

可能性5、飛行でも地上生活でもない特殊な生態に適応していた。
 何度も同じことを書きますが、ケツァルコアトルスの体が地上生活に適応していたとはとても思えません。空も飛べない、一般的な地上凄の動物ともかけ離れている、となると想像もつかないようなユニークな生態に適応した姿だったのかもしれません。
 自分で書いてて、あまりの可能性の低さにクラクラしますけど。

 個人的にはケツァルコアトルスが空を飛べなかったとすると、どうしてあのような姿をしているのかわけがわからなくなりますので、可能性1と可能性2の合わせ技で結局は飛べたのではないかと思っています。
 今回の研究の通り地上生活していたとすると、あの体でどんな生活をしていたのかという、より大きな問題が出てきます。
 結論こそ受け入れがたい部分もありますが、非常に興味深い研究でした。ケツァルコアトルスが飛行に向いていない体に進化した、ひょっとしたら生活の大部分を地上でくらすようになったのは、どのような生態に適応したのか、どんな淘汰圧があったのか、今後の研究に注目していきたいです。

 以上で記事一本書けたー♪とか思っていたのですが、ここでナゾロジーさんの記事の元記事で見つけてしまったんですよ。ケツァルコアトルスについての注に「本種以外にも、同クラスのサイズであったと推定される翼竜の化石がこれまで複数報告されている。しかし、いずれの巨大翼竜も全身骨格化石は見つかっていない。Q. northropiの場合、上腕を含むごく一部の骨が見つかっているのみである。Q. northropiの形態復元はその多くを、小型の近縁種Quetzalcoatlus lawsoni(推定翼開長約5.5m, 2021年に正式に命名)の化石から得た知見に拠っている。」という文章を。

 原因、これじゃね?

 どう見ても地上生活に向いていない体型をした生き物が、飛行することもできなかったという不自然な結論に至った原因は、たぶんこれじゃないかなと思います。翼開長10m前後の翼竜が、翼開長約半分の近縁種をただスケールアップしただけの姿をしているわけがありません。具体的なことは化石が発見されていない以上わかりませんが、サイズアップしたことで生じる飛行への不具合に色々な手段で対応していた筈です。
 あまり科学的とはいえませんが、僕は確信しました。ケツァルコアトルスは飛べます!飛んでました!少なくともあの体で地上生活していたというよりは無理のないはずです。

 今回の研究は非常に興味深く、また具体的に計算したことは非常に意義があったと思います。しかしながら、ケツァルコアトルスの正確な体形がわかっていない以上、どこまで行っても「小型の近縁種をスケールアップしたモデル」の特性にしかなりません。その仮定のモデルが滑空に向かなかったからと言って、ケツァルコアトルスが飛べなかったと結論したのはかなり拙速だったのではないかと思います。まあそれは百も承知で研究に注目を集めるためにやったのかもしれませんが。


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