歌集を手に取る

大学のサークルの後輩が、歌集を出すと聞いて非常に興味を惹かれた。
https://books.rakuten.co.jp/rb/16394519/
ビギナーズラック - 阿波野巧也

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僕が彼と出会ったのは短歌とは全く無関係のサークルで、彼は途中でそのサークルに来るのは辞めてしまい、その後は僕の知らない世界で活躍をはじめました。
あと5年時代が違ってTwitterもこれほど流行っていなかった時代だったら、あそこで彼との繋がりは全く切れてしまっていたかもしれません。
幸運なことに彼の呟きで彼が楽しく短歌をしているのを眺めつつ、ごくたまにリプを飛ばしてみたりという程度のつながりをこれまで保つことができました(彼のつぶやきを見て僕も短歌を作ってみたくなり、作ってみて彼に添削をお願いしたこともありました)。
そんな彼が歌集を出すということで、すわ買わねばと思いたち、購入し、この休みに読んだので、せっかくだから感想を残しておきます。

良質な詩は、見たことのない景色をうたっていても、眼前にその景色が広がっていくような経験をすることができる。この精神的開放感は経験すると病みつきになるのでぜひ色々な詩に触れて試していただきたい。
この歌集でも何度もそういう場面に出くわした。古い時代や違う世界のように、自分が触れたことがない光景が思い浮かぶのもそれは楽しい体験だが、ここで歌われている数々の場面は自分が生きている今の時代に、まさに目の前にあった世界が自分とは違った切り取られ方で生き生きと映し出されており、その世界の主人公として自分が登場できるという意味でもっと主観的な楽しさがあるように思う。自分にない視点からの切り取りではあっても、そこは同じ時代を生きている者同士、すんなりと馴染むことができる。
彼も僕も学生時代を過ごした京都を感じる「鴨川」や「上終町」、「三条木屋町」のような直接的に懐かしい言葉や、「モノレール」に感じる彼の行動範囲が自分と重なっている部分があるため、僕にとってはさらにノスタルジーが加速する。時折歌の情景が強烈に浮かんできすぎてしまい、自分で書いたのではないかと錯覚してしまうものもいくつかあった。それだけエネルギーを秘めている歌が約300首も載っているなんて。なんと素晴らしい。

短歌というものは、5,7,5,7,7の31文字で構成されているものが基本だと思うが、ビギナーズラックには自由律(という言い方でいいのかしら)のものも数多く入っており、5,7,5,7,7の慣れ親しんだリズムで読もうとすると意味の切れ目とズレて「おや?」となる。なるのだけれど、ズレを感じながら読んでみると、それはそれでそこに生じる独特のリズムがあり、そこに楽しさがある。声に出して読んでみるとなお良いかもしれない。

おそらく、彼が短歌を始めたときから今現在に至るまで、成長してきた過程がこの一冊にまとまっていて、そういう意味では冒頭の歌は「こなれた」ものではないのかもしれない。ただ、これら現代短歌に普段から慣れ親しんでいないとしたら、もっとも「僕」から近い場所にいる現代短歌であると思う。それをきっかけに、一緒に旅をしながら新しい世界を歩き始められるというのもこの歌集のおすすめポイントの一つだ。20代を過ごしたあの街にタイムスリップして、青く、淡い気持ちを感じながらふわふわと揺蕩う感覚が、少しむず痒く、心地良い。

P.18、P.25の1つ目、P.66の1つ目、P.67の2つ目、今さらさらと見返しながら心に残るものを上げていってみたけれど、結構多くなりそうなのでやめときます。気になった人は是非買うか(上のURLから買えます。アフィ的なものではないです)、書店で手にとってもらって、ピンときたらレジへどうぞ。

彼のおかげで僕の人生はまた一つ豊かさを感じられたことを感謝します。ありがとう。

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