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Communication of fear |daily

何を恐れるべきかを知ることは大事です。それは例えば進化心理学者が言うように、ヘビに似た何かを恐れるように遺伝的に組み込まれているかもしれないし、経験的に培われた、流氷に乗らないといった危機管理、また社会的に醸成される危険なエリアに近寄らない、電車内でイマジナリーパートナーと盛んに議論を交わしている人には近づかないなどといった防衛のための知識もあります。

行動経済学者が明らかにしたことの一つに、人間は得をすることよりは損失を回避することを望む傾向があります。また経済学の実験で面白かったのは、人は報復のために自分が多少の犠牲を払ってでも人を害することがあるということです。まあこれは余談ですが。

人間の恐怖の感情は快楽を求める感情より大きいのか、というのは世にはびこる不倫などを見ると判断がつけづらいですが、スリルというのが快楽や恐怖のミックスされた感覚として刺激的なのかもしれません。吊り橋効果自体は怪しいと言われておりますが、ドキドキする感覚を味わいたくて転職を繰り返すみたいな気持ちはけっこう分かりますので、まあドキドキを求める傾向はあるのでしょう。

というわけで、猟奇的な事件や未知のウイルスといった人々の恐怖を刺激する情報というのはメデイアが喧伝しやすくまた耳目を集めやすいわけです。特に今回のような時には報道することに大義名分があるかのように感じやすいのではと邪推されます。報道というのは騒ぎ立てることではないはずですが、実際には速報性を重視したり、緊急性を鑑みてなどといった理由で検証を疎かにした情報が流通しているのが現状でしょう。

かつてマイクル・クライトンが『恐怖の存在』で描いたように、恐怖を煽るというコミュニケーションは悪です。正確な情報を得るのは困難ですが、恐怖を煽る情報に踊らされるのはやめましょう。花粉症で辛いのにマスクが買えないのはとてもつらいので。


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