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秩父麦酒(埼玉)

 埼玉県秩父市・吉田地区に秩父麦酒が創業したのは、2017年のこと。仕掛け人である丹広大さんは、埼玉ではなく函館生まれの道産子です。

「高専を卒業して以来、ずっと土木業一筋で、全国の災害現場の復旧作業や橋梁設計、高速道路の補修などにあたっていました。でも、心のどこかでずっと、業界のしがらみに馴染めずにいる自分を感じていて、27歳の時に思い切って会社を辞めることにしたんです」

 お酒はもともと大好きで、「安酒を一晩で何本も空ける、いかにもガテン系な飲み方をしていました(笑)」と振り返る丹さん。それでも興味が高じて、本業の傍らバーや飲食店でアルバイトをしていた時期もあり、それがお酒に関する知見を深めるきっかけになりました。

 そんな中で出会ったのが、現在の伴侶であり、秩父麦酒の共同代表の祐夏さんでした。祐夏さんは当時、医局勤務の医師で、全国を転々とする多忙な立場。出会った直後にまた次の地域への異動が決まったことから、「だったら料理番としてついて行き、全国を巡るのもいいかもしれない」と考えたのがすべての始まりだそう。

 つまり、当初は主夫業をやるつもりで北海道を飛び出した丹さんでしたが、大学に編入して法社会学を学んだり、地域で災害ボランティアに取り組んだり、ジムでトレーナー業まで始めたり……と多彩に活動するうちに、ついには祐夏さんの仕事の都合で落ち着いた秩父市で、ビールの醸造を思い立ちます。

「たまたま地元の老舗酒蔵に、20年くらい前に地ビールメーカーが使っていた大型醸造設備が眠っているのを知って、だったらこの地域に新たな産業を作るために、自分で頑張ってみようと考えたんです」

 年代物の設備だけに、使用法の解明には苦労したそうですが、こうした秩父麦酒は産声を上げたのでした。近年では同じく秩父が生んだウイスキー、イチローズモルトの樽でビールを熟成させたり、近隣のチーズ工房で秩父麦酒の製品を練り込んだチーズを発酵させたり、地域の活性化に貢献しています。

 秩父の新たな名物、秩父麦酒にぜひご注目を。

〈Text By Satoshi Tomokiyo〉

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