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ポークヴィンダルーの歴史

初夏の晴れの日は清々しく、気持ちが良い。アナン邸の庭には梅の木が二つあり、どれも鈴なりに梅の実がなっている。辛味と酸味が効いたカレーが食べたくなるのもそんな陽気のせいなのかもしれない。



辛味と酸味を兼ね備えたカレーといえば真っ先に思い浮かぶのが「ポークヴィンダルー」という西インドのゴアのご当地カレーである。赤唐辛子とヴィネガーそして豚の脂身が絶妙に絡み合い、大量に使用するにんにくが美味しさをさらに引き上げてくれている。ポークヴィンダルーの表面に浮かぶ真っ赤な油は食欲を掻き立ててくれる。



インド内より、イギリスをはじめとする他の世界の国々でのポークヴィンダルーの人気は高く、インド料理屋さんに行くと必ずと言って良いほどメニューには記載されているそうである。

ゴア発祥のカレーとしばしば紹介されることが多いが、実は発祥の地はゴアから9,000kmも離れたマデイラ諸島だと言われてる。もともとワイン作りが盛んであったマデイラ諸島ではワインとにんにくに肉や魚などを漬け込む独特の食料の保存方法があったと言われている。ポルトガルの南方に位置するマデイラ諸島は1411年からポルトガルの統治下に敷かれマデイラワイン、ヴィネガー、塩、にんにくで作られたソースに肉や魚を漬け込み、調理した料理は「carne de vinha d’alhos」と呼ばれ、大航海時代、ポルトガルが世界各地に進出していくに連れ、様々なところに調理方法は伝わっていった。その調理方法はアメリカに渡り、パプリカやオレガノといったスパイスが加わりラテンアメリカの「vinyoo dalyge」という名前の料理に進化したそうである。16世紀にポルトガルの人々がゴアにやってきた時も、その調理方法が伝わったが南インドにはヴィネガーがなかったので現地で飲まれていたココナッツから作る酒「toddy(トディ)」からお酢を作り、南インドでよく食べられているタマリンドも加えられゴア独特の料理が誕生し、現地のスパイス、ブラックペッパー、シナモン、クローブが加えられるようになった。そしてポークヴィンダルーには欠かせない赤唐辛子はポルトガルの人々によってアメリカからインドに紹介され材料に加えられることによって現在のポークヴィンダルーは完成したのである。

ゴアには唐辛子とともにトマトやジャガイモ、トウモロコシも伝わったと言われている。インドでもともと栽培されていたロングペッパーの辛味と赤唐辛子の辛味が似ていることと、ロングペッパーよりはるかに栽培しやすいことから唐辛子は瞬く間にインド全土に広がったと言われ、当初はゴアの唐辛子という意味の「gowan mirchi」と言われていたそうである。



1,800年頃にはイギリスにポークヴィンダルーは伝わり、1,970年ごろには各地にインド料理屋ができポークヴィンダルーは辛くて人気のメニューになったと言われている。



庭にある梅の木を見ていると、そういえば数年も前に作った梅酒があることを思い出し、梅酒を使ってポークヴィンダルーを作ってみたらとても美味しくできた。もともとある調理方法をあるものとアレンジして作ってみるのがどこか大航海時代の開拓者にでもなったような気持ちにさせてくれる。

ポークヴィンダルーの足跡をたどる旅にアメリカやポルトガルそしてマデイラ諸島に行きたくなった。

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