油とスパイス
スパイスからカレーを作るのは簡単である。
好きな具材、カレーパウダー、塩、水を鍋に入れてじっくりと煮込めばさらっとしたカレーになる。カレーパウダーの辛さと具材の旨みが美味しいスープのようなカレーになるだろう。
それはそれで美味しい。
スパイスの香りを引き出せば引き出すほどカレーは美味しくなる。
スパイスの香りはスパイスに含まれている油脂が揮発して香っているのでそのままでも香っているが、熱してあげたり、すり潰したりと圧をかけてあげるとより香る。そしてエッセンシャルオイルのようなものなので水よりも油に溶けやすいという性質を持っている。スパイスの香りは油に移りやすいのでカレーをスパイスから作る場合はホールスパイスをまず油で熱することからカレー作りがスタートすることが多い。これはそれぞれのカレーの活躍するフィールドや環境を作ってあげているようなものである。
どのような舞台でこれから使う具材やスパイスを活躍させてあげたいのか。野菜が主役でちょっとスイートな物語であるのであればしっかりとしていて濃厚なギーを温めマスタードシードの香ばしさ、クミンシードの土臭さ、フェネグリークシードの甘い香りに加え刺激的なヒングを加える。これだけで香りは熱気と砂埃があふれるインドの砂漠の町が舞台になる。
舞台ができたら今度は登場人物。好きな具材を登場させる。シャキシャキとしたレンコン。全体をまとめるトマト。存在感があるひよこ豆。主張が激しいジャガイモやカリフラワー。登場人部が決まれば物語を作っていく。
これらがスパイスの役割、日常的なドラマならばレッドペッパーはあまり効かせず、ターメリック、クミン、コリアンダーに加えて深みのあるクローブやナツメグなどを加えて毎日食べたいようなカレーを作っていくのも良いし、もっと深みのある物語にするのであればそれぞれのスパイスをローストしてからパウダーにしたのを加えるのも良い。刺激が欲しいのであればレッドペッパーやブラックペッパーなども良いかもしれない。物語を劇的に終わらせるのであればテンパリングをするのも良いだろうし、華麗に終わらせるのであればハーブなどを加えるのも良いだろう。
どのような登場人物を活躍させたいかも、物語をどのようにしたいかも、舞台があってこそ。そしてその舞台を隅々まで行き渡らせてくれるのが油なのである。
油にそれぞれの物語や想いを乗せて、好きなカレーという作品を作っていくような具合であろうか。
舞台は広大で壮大な方が面白いのでついつい油は多めになってしまう。その方が物語が円滑に進むような気がする。
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