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ブランドコンサル会社が作る「思想を形にするビジュアル」ができるまで

B&H Inc.でストラテジックプランナーとディレクター・プロジェクトマネージャーをやっております金山です。今回はほぼ全ての案件で撮影を行っている弊社が作る「思想を形にするビジュアルができるまでの制作過程をご紹介したいと思います。撮影についてのやり方は各クリエイティブ会社によって異なるとは思いますが、意外とビジュアル作りにおける撮影についてフォーカスされた記事がなかったので、この記事が今後のWeb・クリエイティブ分野においての撮影スキームの参考になればと思い、書いてみることにしました。

※撮影の流れについては、出版や編集系プロダクションからすると割と当たり前のことしか書いてないかもしれませんが悪しからず。。

早速ですがプロジェクトがスタートしてからビジュアルができるまでのフローを簡単にリスト化(目次)してみました。このリストに沿って、それぞれどんなことをしているのか、どんなことに気をつけなければいけないのか、を説明していきたいと思います。

1. ブランドのアイデオロジーを探る

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※イメージ抜粋

弊社はプロジェクトスタートと同時にストラテジックプランナーやアートディレクターがクライアントとワークショップを行います。弊社の最も独自性の高いところなので詳細な内容は伏せますが、企業のルーティン・ブランドの人格・ポジショニングなど、3〜4時間かけて多岐に渡るヒアリングを行い、ブランド戦略の方向性として「ブランドのアイデオロジー(主義)」を言語化していきます。これを弊社ではブランドスプリントと呼びます。簡単にいうと、ここで策定するブランドの主義や思想を視覚表現することが弊社のビジュアル作りの肝です。



2. アートディレクターがデザインプロトタイプを作る

アイデオロジーの言語化が完了すると、次はアートディレクターにバトンタッチしブランドプロトタイプの作成に進みます。ブランドプロトタイプではデザインコンセプト、キービジュアル、ロゴ、Web UI、タイポグラフィ、ブランドブック、名刺、封筒、交通広告等、ブランドデザインとして考えうる、ありとあらゆるイメージを複合的に視野に入れながらプロトタイプの開発を進めます。ここでのプロトタイプが撮影にはかなり大きな影響を与えるので、超重要です。

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※イメージ抜粋



3. 企画・カットイメージをまとめる

ブランドプロトタイプが無事クライアント承認を通過すると、ビジュアル撮影の企画を細かく考え、カットイメージ資料を作成します。ここではできる限り理想系に近いビジュアルのリファレンスと一緒に、このビジュアルで伝えたいメッセージや使用するモデルの容姿想定や人数、スタイリングなどをまとめていきます。アートディレクターはこの段階でビジュアルOKトーンやNGトーンなどを考えつつ、フォトグラファーなどのアサインメンバーも想定していきます。

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※イメージ抜粋

またこの段階でディレクターの大きな役割として予算管理が求められます。ビジュアルを高品質なものに仕上げるためにはどのくらいの予算をみておけば良いか、現状の予算で足りるか、追加予算の交渉は必要か、など。

ちなみにリファレンスの話ですが、弊社の場合は思想を形にするデザインを大切にしているため、いわゆる日本の広告デザインなどはあまり参考にしていません。どうしても売る目線が強すぎるとブランドとしての訴求軸がブレてしまうので、リファレンスもブランド訴求を強調したものを集めることが多いです。



4. カットイメージにマッチした撮影メンバーのアサイン

続いて「この企画を高パフォーマンスで実現するチームの形成」に進みます。イメージする写真はどんなフォトグラファーなら撮れそうだろうか。もちろんフォトグラファーによって得手不得手はあります。ノスタルジックな世界観ならフィルムではどうか、コントラスト強めのパキッとした雰囲気なら、ポートレートや広告系が得意な人がよいのか。または映像であればアングルやグレーディングの癖はどうか、など。もちろんヘアメイクやスタイリストも当然向き不向きがあるので、案件によって誰をチームにアサインするかは最終的なクオリティが大きく左右される大事なフローの一つです。正直予算でフォトグラファーを渋るのが一番危険です。プロにはプロだけが持つクオリティというのがあります。

チームアサインのミーティングでは、戦略資料は必ずチームに共有します。戦略をパートナー含めたチームで理解することは、思想を形にする上でクオリティに大きく影響してきます。これ重要!

チームメンバーと役割
・Strategic Planner / ブランド戦略・監修
・Project Manager / 進行管理・アサイン・キャスティング
・Shooting Director / 撮影周りのディレクション
・Art Director / 企画策定・撮影監修
・Designer / 撮影アシスタント
・Photographer / 撮影カメラマン・レタッチ
・Hairmake / メイクアップ・ヘアスタイリング
・Stylist / 衣装手配・スタイリング
・Prop Stylist / プロップ手配・スタイリング



5. モデルキャスティング

まずはじめに複数モデル事務所に企画趣旨を伝え、コンポジ(コンポジット=モデルの簡易プロフィール資料みたいなもの)をできるだけ多く提示してもらいます。その中からイメージに沿ってチームでスクリーニングをかけ、厳選したモデルのみを対象にオーディションを行います。コンポジは多い時で100枚は超え、実際オーディションに来ていただくのは数十人まで絞ります。オーディションではコンポジだけでは見極めにくい現在のスタイルや髪の毛の状態、表情、企画に合うか、コミュニケーションはどうか、などを重点的にチェックします。オーディションにどうしても参加できないモデルなどは別途事務所の方から現在のモデルの写真や動画などを送っていただく場合もあります。

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モデルキャスティングには意外と時間がかかるため、オーディション当日にはできるだけクライアントにも立ち会いをお願いし、その場でコミュニケーションをとりながら絞っていきます。最終的にはチームの要望、クライアントの要望、モデルのスケジュールを考慮し、選定するという流れになります。

ちなみにモデルを使用する撮影についてですが、モデルは基本的に肖像権となるため買取という契約はありません。買取できたとしてもかなりの高額契約となります。またモデルによって契約期間が決まっており、契約延長する場合は契約更新料が発生することをクライアントに説明しておきましょう。業界内では通念事項ではありますが、初回の買い切りのみだと捉えるクライアントもいるので気をつけるポイントと言えます。使用範囲も事務所・モデルによって異なるため必ず確認するようにしてください。この辺りの前提条件は見積書に記載しておくか、別途ドキュメントなどを用意するのが良さそうです。



6. ロケーションアサイン

ロケーションアサインもかなり骨の折れるフローの一つです。東京都内ともなるといつからキープしてるんだよ!ってくらいどのスタジオもキープが入っています。。キャンセル待ちで第2キープという状態はとても多いです。みんな大変。通常の撮影スタジオはそこまで必要ないかもしれませんが、ハウススタジオや外ロケは必ずロケハンを行います。カットイメージ通りの撮影はできるか、アングルや画角、被写体との距離、採光、背景など、撮れ高はイメージ通り確保できそうか、などアートディレクターが指揮をとりながらフォトグラファーと共に確認を行います。

どうしてもスケジュール的にロケーションが押さえられない可能性もあるので、複数箇所ロケハンを行うのがベターです。あとこれも割と重要ですが、初めて利用するロケ地の場合、請求書払いに対応しているところは少なく、当日現金払いの可能性が高いので、現金を多めに用意しておく必要があります。

また、外ロケの場合は、ロケーションアサインのタイミングでロケバスなどの手配も動き出します。撮影当日の参加人数に応じてロケバスのサイズもいくつかあるので早めにロケバス会社に確認して手配するようにしましょう。

ロケーション探すときによく見るサイト
撮影NAVI(掲載数が多い)
[R]studio(洒落てるハウススタジオ多い)
崖ロケーション.com(まじで崖)



7. 衣装手配

「5.モデルキャスティング」のフローで確定したモデルの情報(身長・体重・スリーサイズ・足のサイズなど)と企画イメージを改めてスタイリストに共有して必要な衣装手配を進めます。リースや買取などスタイリングイメージによって集めてもらう衣装にもさまざまなので要望は細かく伝える必要があります。また、チームメンバーアサインのところで記述したように、スタイリストによっても得意不得意は少なからずあるはずなので、特に新規でスタイリストをアサインする場合は必ず実績は確認しておきましょう。



8. プロップ手配

撮影で使用するプロップ(小物や家具などの装飾品)の手配が必要な場合は、プロップスタイリストのアサインも必要になります。弊社の場合は社内メンバーで持ち寄ったり予算がある場合は自分たちで調査して購入したりもします。ハウススタジオを使う大型案件の場合はどうしても家具などのレンタルが必要なのでそのような場合は知識の豊富な美術部をアサインして手配してもらいます。

と、ここまでが撮影を迎えるにあたり、アートディレクターがかなり稼働するフェーズです。これより先はディレクターが撮影までに稼働する内容となります。



9. 香盤表・PPM資料作成

大枠の段取りが進んでくるとディレクターは撮影当日の香盤を組みます。スタッフやモデルの入り時間、機材セッティングやテストシュートの時間、ヘアメイク・スタイリングの時間、撮影時間と内容、撮影終了・片付け・撤収時間を記載したタイムスケジュールとなります。

香盤表をマスターするには、予測と時間管理能力が求められます。カットボリュームに対して時間のバッファがとれていないと撮影時間が押してしまう可能性が高まります。あとは当日この香盤表に合わせて進めるという時間管理がとても大切です。(僕も初心者の頃は時間感覚を掴むのに苦労しました。)

大型案件となるとPPM(Pre Production Meeting=撮影前オールスタッフミーティング)で使用する資料が必ず必要になります。特にタレントを起用したプロジェクトなどでは関わるスタッフの数が膨大な人数となるため、全スタッフが見て理解できる概要資料が必要です。

記載する主な内容
・概要(企画主旨と何を伝えたいかを明記)
・チーム(クライアント、スタッフなど)
・フォトグラファー紹介(実績など記載)
・モデル紹介(プロフィールなど記載)
・カット説明
・衣装(衣装のイメージを添付)
・ロケーション情報(地図や駐車場など)
・香盤表
・備品リスト

※PPMはカットイメージ作成の段階から徐々に作っていくため、最終稿が仕上がるまで何度か展開と調整を加えていくことになります。

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10. 撮影準備(ケータリング・軽食・各種資料など)

いよいよ撮影前の最終準備期間に入ります。撮影のタイムスケジュールや時間帯にもよりますが、お昼の時間帯を挟む場合は、必ずスタッフ全員分の昼食や軽食を事前に手配します。もちろんタレントの好き嫌いは事前に確認しますが、最近はヴィーガン・ペスカタリアン・ベジタリアンの方々も増えてきているため、できるだけお弁当などは複数種類手配するようにします。メインがお肉だけとかはNG。(ただ圧倒的にお肉系の弁当が大人気w)

ドリンクや早朝撮影の場合の軽食などは当日コンビニ等で購入する場合が多いです。軽食としてチョコレートやスナック菓子なども少し用意しておくのが良いです。撮影現場ではすぐにお腹減ります。

また各スタッフに配布するためのカットイメージ資料やPPM資料などは必要部数印刷して持参します。香盤表は現場でスタッフがみやすい位置に張り出すため、大きめのサイズで印刷しておきます。



11. 撮影当日

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撮影当日、アートディレクターはフォトグラファーと撮影しながら撮れ高の指揮を、ディレクターはタイムスケジュールの指揮をとります。撮りこぼしやデータ損失がないように撮影後はすぐにデータチェックとバックアップを行います。ここまでが撮影準備期間〜撮影当日のフローとなります。

お疲れ様でした!もう少し!



12. データセレクト

フォトグラファーからアタリデータ(明らかなミスショットを除いた撮影データ)が届いたら必要素材のセレクトを進めます。例えばWebの場合はデザインカンプにデータを当て込んでみて、ベストカットと予備カットをセレクトしていきます。デザインへの当て込みが完了したらクライアントへのセレクト確認に移りますが、写真データだけで送ると選ぶための要素が少なくクライアントも判断しづらいため、できる限りデザインモックを通じて確認するようにしましょう。

予備カットと合わせて展開し、セレクトの承認が完了したら次はフォトグラファーまたはレタッチャーにレタッチの依頼を投げます。当初の想定よりカット数が増えたりなどで、納品までのスケジュールがレタッチに影響されることは多々あるので、レタッチ期間は多めに確保するようにします。



13. レタッチ

レタッチは仕上がりをイメージしてもらうために、予めアタリデータでサンプルレタッチを行い全体のトーンをどこに持っていきたいかなどをレタッチする方へ共有します。コントラストやカラーバランス、彩度などサンプルを共有することでレタッチャーのスピードもあがります。



14. Webやグラフィックなどの用途に合わせた加工

レタッチ後のデータがあがってきたら、改めてデザインカンプへの当て込みなどを行い、それぞれの用途に応じた加工やトリミング、アニメーションなどの対応を行い最適化していきます。こうして出来上がったビジュアル素材はそのブランドでしか表現できない独自性の高いキービジュアルとなります。

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まとめ

さて、ここまでビジュアルが出来上がるまでのフローをご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。4〜14のフローはある程度基本的な流れなので、もしかするとみなさんの認識とも近いものだったのではないでしょうか。

そして最も独自性を高める要素は1〜3のフローです。もちろんビジュアル表現の独自性を引き出す要素は複数ありますが、一番はブランドの主義・思想・哲学にあると考えています。この核となる主義設計を行うブランドスプリントの時点でビジュアル作りが始まっているといっても過言ではないでしょう。

ここまで時間をかけてブランド設計に則ることで思想を形にするビジュアルは生まれます。ビジュアルの良し悪しはもちろん大切ですが、主義が伝わるか、誰にも真似できないか(今までにみたことないものか)、これはとても重要です。そして何度も言い続けてきましたが実現できるチーム設計はとても重要です。

これから撮影案件を増やしていきたい方や、撮影の流れについてこれまであまり理解できていなかったという方は、ぜひこの記事を参考に案件に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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