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-第4部, エヴァートンのオーナーシップとリーダーシップ;財務と資金調達- 月刊NSNO 増刊号 / エヴァートンFC ブログ


「Part IV, Everton’s ownership and leadership, finance and funding」

第4部, エヴァートンのオーナーシップとリーダーシップ;財務と資金調達

月刊NSNO 増刊号 / エヴァートンFC ブログ
 (2021年) 
Written by the esk
Translation by BF


第4部 原文は下記より↓


第1部

第2部

第3部

現地有識者であるthe esk氏の
「オーナーシップとリーダーシップについて」
シリーズ最終章となる第4部をお送りします。

クラブのガバナンス、リクルート、フットボール・ダイレクターについて、3つの現状を明らかにしてきた中で、今回はクライマックスである"財務と資金調達''のパートへ突入します。

💙

-第4部,エヴァートンのオーナーシップとリーダーシップ;財務と資金調達-
2021年11月26日 by the esk

財務と資金調達

これまでの連載では、ガバナンスの影響、不十分なリクルートのコスト、そしてフットボール・ダイレクターの役割について考察、検討してきた。

ここからは、過去5年間の資金調達方法、モシリの資金調達が可能にしたこと、そして、誤った判断が財務に与える影響に目を向けたいと思う。


まず、モシリの資金調達から始めよう。

2021年6月までの5年間で、ファルハド・モシリは、株主融資と株式発行により、総額4億5,000万ポンドを拠出した。これには、現在進めているブラムリー・ムーア・ドックの整地作業に要する、追加資金の1億ポンドは含まれていない。
なぜモシリはこれほどまでに資金を調達したのか。理由はいくつかある。

1つ目、彼は2016年11月に、TalkSport内で自らの誓約を支持した。

「支出に制限はありません。監督は完全に献身的で冷酷です。選手がダメなら別の選手を使い、最終的には選手を買います。そこに感傷的な問題はありません。監督は、自分が必要だと思う分野でチームを強化します。クーマンはクーマンだ。彼は自分のやりたいことをやり、私は彼を支持する。

オーナーや会長の仕事は、監督を雇ったり解雇したりするだけで、あとは監督次第だと思います。私たちは監督を雇ったら彼を支持します。彼には人格、オーラ、能力があり、私たちは彼を信頼しています。エヴァートンの文化では、監督が最も重要な人物なのです」。

ファルハド・モシリ(TalkSport 2016年11月号)


2つ目は、監督の補償金に少なからずお金をかけたことだ。マルティネス、クーマン、アラダイス、シシウヴァ…彼らのサポートチームを考慮せずに早期解雇にかかった費用は、合計で3,200万ポンド以上になる。

他にも2つの要素がエヴァートンの経費に貢献している。着工前から4000万ポンドを超えるブラムリー・ムーア、そして忘れてならないのは2020年3月から現在までに約8000万ポンドと見積もっているCovidの影響だ。

このような支出の増加は、計画的なものもあるが意思決定の不備によるものも大きく、ピッチ上でのパフォーマンスの低下によってさらに悪化した。
2016年12月にクーマンが明言したように、計画では2年目までにヨーロッパリーグ出場権を獲得し(達成)、3年目以降はチャンピオンズリーグ出場権を獲得することになっていた(達成できず)。その結果、欧州予選に出場できなかったことで、将来の収益が予測に対して大きく影響を受けることとなった。また、プレミアリーグでの順位が予想よりも低かったことも収益の減少につながっている。仮に5年間の平均順位が予想よりも4つ下だったとすると、4000万ポンド近くの収入が不足することに。

さらに、商業的にも低迷し、マッチデーチケットの値上げやマッチデー収入を増やすためのシーズンチケット保有者数の削減を拒否したため、収入の不足分を補う余地はほとんどなかったのである。USMの支援と、ブラムリー・ムーアの革新的なネーミングライツ・オプションの支払いだけが、クラブをより深刻な損失とキャッシュフロー(=お金の流れ)の問題から救ってくれたのだった。

損失の実績と予測


支出が大幅に増加したにもかかわらず、それに見合う収入の増加が見られないため、大幅な損失が発生している。

損失が大幅に拡大しただけでなく、キャッシュフローがマイナスになってしまった。つまり、クラブに入ってくる現金よりも出て行く現金の方が多かったのだ。これは、営業成績、予想外のコスト(上述)、そして選手への継続的な投資の結果だ。このキャッシュフローについては、モシリが現金を注入したり、第三者機関の債務提供者を利用することで相殺された。


フットボールクラブでキャッシュフローがプラスになるためには、収入が支出を上回ること(運営)と、選手のトレード(投資)からプラスのリターンが得ることが必要。成功しているすべてのクラブは、このような基準を成立させビジネスモデルを運営している。このモデルはオーナーが(負債や株式を通じて)さらなる投資を行うことを可能にするものであり、その資金調達が運営(試合日、コマーシャル、放送などがコストを上回ること)や投資(アカデミーでの選手育成を含む、利益を伴う選手の売買)からの収益を向上させると信じているからだ。

モシリや他の金融機関が提供した資金は、過剰な支出、経営陣の交代、チームの質の向上を期待しての選手購入の継続、そして選手の売却が途絶えてしまったことの直接的な結果である。

なぜ、選手の売却が滞ったのか?


私の考えでは、3つの理由がある。
①モシリが"ベストプレーヤーの維持を重要な目的としている"と発言したにもかかわらず、我々はストーンズ、ルカク、デウロフェウを入団してから丸2シーズンの間に売却してしまった。

②2020年3月以降の市場環境が変化した。

③売却可能となった選手は、市場環境から見て明らかな買い手がおらず、既存の契約が当時の市場環境を超えていた。


その結果、過去2シーズンは売却による現金収入がほとんどなく、キャッシュフローの観点からは不利であり、選手売買による利益もなく、利益と持続可能性(規制)の観点からは不利であった。

規制に関する懸念


これまで何度か述べてきたが、特に2020年7月に執筆した記事では、許可されたコストとCovidの影響を考慮した上でも累積損失があるため、エヴァートンはプレミアリーグの利益と持続可能性の規則に関して難しい立場にあり、大幅な売上がない場合、2021年夏にチームを強化する能力に影響が出ると踏んでいた。

このような状況は、2022年1月と来たる夏にも続くだろう。

ブラムリー・ムーア

計画許可が下りるまでに4,000万ポンド以上が費やされ、現在クラブが「段階的な資金調達」と呼んでいるものでは、モシリはグラウンド準備費用として最大1億ポンドの資金調達を約束し、2022年前半までの作業に資金を提供している。

今後の工事資金は、私募債市場を通じた外部負債で賄われ、最長30年で調達する予定。詳細はまだ決まっていないが(潜在的な保証を含む)、銀行筋は2022年の早い時期に完了すると見込んでいる。

また、ネーミングライツパートナーとの合意に基づき追加資金を提供する予定。

追加資金の必要性


近年の赤字幅は縮小する見込みだが、早期の収益性の回復や、黒字化することは難しいものと思われる(大規模な選手売却の不在 - 既に枯渇したチームに問題あり)。

同様に、キャッシュフローの面でも、引き続き借金に頼らざるを得ない状況が続いていく。クラブは現在、ライツ・アンド・メディア・ファンディング社との間で最高額1億ポンドの3年間のローリング・クレジット・ファシリティ(=回転信用の意)を、そしてメトロ・バンク社との間で3000万ポンドの当座貸越を行っている。

モシリが就任して間もない頃、現金を無造作に使ったことと、ピッチ内外での極めて不十分な人材採用の判断が相まって、彼が2016年2月に着任したときには予測できなかったような大きなコストと負債が発生している。

多額の資金援助にもかかわらず、競争力のないチーム、最適とは言えない監督の選択、生産性のないアカデミーなど、そのダメージは明らかだ。

すべての要因が重なって、今回のシリーズに共通する、クラブの重大な不始末を証明している。クラブに投入された資金は水の泡となり、私たちは目標を達成できていないのだ。

他のクラブが強化されたことで競争力が低下し、現実的かつ規制された財政上の制約がある中で、将来に向けて競争することはより困難になっている。

この状況に対して、(資金面でのコミットメントにかかわらず)株主、取締役会、経営陣のそれぞれが責任を負わなければならない。
最終的には大株主が取締役会と経営陣に変化を与えなければ、ピッチ内の回復、プレミアリーグの他チームに対抗し、競争上の優位性を確保するような現実的な見通しは立たないだろう。

クラブの経営に投資をしてこなかったことが、(他の場所にはお金をつぎ込んでいるが)間違った人材採用の決定や、劣悪なガバナンスの継続につながっている、それは明らかな結論である。その結果、財務成績に影響を与え、最終的には競争力にまで及んでいる。この問題を解決するには、理事会や役員レベルで経営陣を変更するしかないのだ。

"自分より優れた人を雇い、その人に任せればいい。驚くべきことを目指す人、日常に甘んじない人を探すのだ。"- デイヴィッド・オグルヴィ


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まずは、the esk氏に今回の連載に関して、翻訳に挑むことを許可いただいたことに心から感謝を述べたいと思います。ありがとうございました。

私自身、英語が得意ではない中で、またファンブログを執筆する1人のファンとして、とても有意義な1ヶ月を過ごすことができました。自分の知識や視野では掘り下げることのできない分野を、翻訳を通して何度も繰り返し読み、初めて聞く用語を調べつつ、自分の言葉を絞り出しながら、筆者のニュアンスを崩さない取り組みは、自分の拙さと向き合える成長の機会でした。

そして、これまでのエヴァートンというクラブ、オーナー、ガバナンス、リクルート、フットボールダイレクター、ファイナンス…以上のような中枢となる役割について考えることは、今後クラブを応援し、批判し、愉んでいく上で非常に貴重な蓄えになりました。

また、私の初翻訳作業にお付き合いくださり、読んでくださった皆様、ご意見・ご感想を届けてくれたフォロワーの方々にも御礼申し上げます。

この連載は、現在だけでなく今後のエヴァートンを語る中で指標となる、いくつもの重要なトピックが詰め込まれていると思います。より日本のブルース、エヴァトニアン極東支部のみなさんとの交流や議論、意見発信の手助けになれば幸いです。そう願って、チャレンジした経緯があります。

クラブは今、ピッチの内外で厳しい状況です。
知れば知るほど、考えれば考えるほど、悩ましく歯痒い心境になることは間違いありません。ですが、このような素晴らしい記事を通して、逆に言えば、どうすれば良くなるか、向けるべき希望や期待も皆さんの中で定まってくると思います。

遥か極東のファンである私たちが、これといって何かできるわけではありませんが、とにかく、今ピッチの上で戦う選手たちを応援し、このような状況だからこそ日本のファンダムを盛り上げていけたらいいなと感じています。

それでは、多くの方へ感謝を申し上げるとともに
、また12月号のNSNO本編でお会いできたらと思います。

今回も最後まで、本当にありがとうございました。

気に入ってくださり、サポートしてくださる方、ありがとうございます。 今後の執筆活動や、エヴァートンをより理解するための知識習得につなげていきたいと思います。