見出し画像

Part.4【過熱する恋とサバイバル】20-21エヴァートン中盤戦レビュー<佳境突入編>と、自分のこと。@イングランド/プレミアリーグ

▽Phase.6「佳境」

前編はこちらから↓

最近、宇多田ヒカルの新曲「One Last Kiss」を頻繁に耳にする。私の働く職場は常にラジオが垂れ流しで、流行りのプッシュされる曲を1日に数回聞くことになる。
そんな「One Last Kiss」の歌詞がふいに耳に引っかかる。

「誰かを求めることは 即ち傷つくことだった」

儚い恋の模様から紡がれる一節…
そう、エヴァートンにあらゆることを求めがちな、いや求めすぎな今季、期待して傷つくこともしばしば、裏切られることを知りながら、思わず高望みをしてしまう、エヴァートンを応援すること、即ち''恋''!!

…と、仕事中にまで考えてしまい、こんなブログを書くのだから、既に末期なのかもしれないが…。

さて…本題に移ろう。

2月17日(水)16節 ● 1 - 3 Home マン・シティ
2月20日(土)25節 ○ 2 - 0 Away リヴァプール
3月1日(月)26節 ○ 1 - 0 Home サウサンプトン
3月4日(木)29節 ○ 1 - 0 Away WBA
3月8日(月)27節 ● 0 - 2 Away チェルシー
3月13日(土)28節 ● 1 - 2 Home バーンリー
3月21日(日)FAカップ準々決勝 ● 0 - 2 マン・シティ 敗退決定


中盤戦・前編フェーズ4.5及び5では、浮かび上がる課題や、今季におけるカルロ・エヴァートンのスタイルに重きを置いて述べてきた。後編ではその点を踏まえて、中盤戦の残り6節を中心に振り返っていきたい。徐々にトップとの差を広げられ、確実に忍び寄る現実と結末。胸が高鳴る結果に相反して、足踏みする現状にいっそのこと期待することを諦めた方が気楽な思いさえする。

目標が明確だからこそ、妙にアンバランスな今シーズンも残り10節。
佳境に突入したエヴァートンとプレミアリーグもいよいよクライマックスへ。
その前に、当ブログでの振り返りで今季のエヴァートンをより応援できる機会に、そして今後エヴァートンを好きになる方も含め、備忘録として活用できるよう綴っていきたい。

▼vsマン・シティ ●1-3 Home
✳︎精度とスタイルの差は未だ大きく

前半戦で延期となった第16節、vsマン・シティ。リーグ序盤の燻りから、気味の悪さすら醸し出していたペップ・シティはすっかり元の威厳を取り戻し、プレミアリーグの優勝街道を邁進。この試合で対戦するまでに築き上げた11連勝、そこに含まれるビッグ6ですら、シティ相手に泥を塗れず。あくまでも「勝ちに行く」とインタビューで答えるアンチェロッティだったが、引き分けに持ち込むのが理想的なゲームだった。


エヴァートンは、失意のvsフラムから中2日。この試合でGKピックフォードがスタメンに復帰。引き続きアランが離脱、怪我が癒えずDCLも欠場となった。攻撃のプランが立て難い中、ここまでディフェンスラインを入れ替えながら臨んできたが、再び4CBを採用。4-4-1-1の重心が低いシステムを採用し、リシャーリソンの1トップに望みを。まずは守備からリズムを得て、強みのセットプレーや僅かなチャンスをモノにして勝ち点を奪いたかった。

前半、相手の特徴を消しつつ、現状できる守備力を維持したが、シティのレーンを行き来するお得意のパスワークにより、微妙なミスマッチが発生していた。IHのベルナウド・シウバ、フォーデンがハーフレーンを出入りする所、ドゥクレとデイビスの2セントラルでケア。マフレズが高い位置でボールに関われば、ディニュが最終ラインに入り、ゴドフリーと共に対応する。スターリングにも危険な位置に入らせないよう、ホルゲイトとイウォビが自陣スペースを埋めた。

一見、守りのスタートは順調に見られたが、1失点目は勿体ないものだった。コーナーキックの流れから、マフレズがリカバーした後、逆サイドに残ったフォーデンのマークをイウォビが外してしまった。一瞬の隙も逃さないイングランドの大器は絶好調の只中である。

更に容赦なく守備にズレを生ませるのがシティの強さの真骨頂。話題の「カンセロ・ロール」で中盤の枚数を増やす手法により、シウバとフォーデンに釣られた中央スペースへの侵入を許してしまう(それならばこちらはゴドフリー・ロールだ!と言わんばかりにディニュを追い越すストッパーらしからぬ突破を見せてくれたゴドフリー。これは実らず攻撃は単発に終わってしまう…)。加えて、G.ジェズスが偽9番の動きを見せ、ドゥクレとデイビスのギャップへ降下するなど、エヴァートンの守備陣形が次第に崩されていく。

2失点目、マフレズの拍手するべきゴラッソでは正確無比なショットに目が行くが、そこまでの流れも実にシティらしい崩しだった(※写真画像はエヴァートン公式YouTube、ハイライト動画より引用)。

ゴールシーンの元を辿ると、上記写真のタッチライン奥側中央よりシティのスローインで始まった。①の場面に至るまで、リスタートから約30秒ほど経過している。その間、自陣でボールをキープされるエヴァートン。人数自体は揃っていた。勢いよくプレスに飛び出したディニュからは、早くボールを奪いたい、という焦ったさが伝わってきた。
この時点で、シウバにプレスをかけるのは、デイビスが最も適していただろう。ディニュが自身のエリアを空けた為、スライドしてゴドフリーがマフレズを警戒。しかし、大外にはウォーカーも幅を取る。分かりやすいのは、前編の最初に挙げたvsレスター同様の2セントラルの距離感だ。エヴァートン守備陣はポゼッションを譲る中、どんどんブロック形成からかけ離れ、シティの攻撃陣に揺さぶられていることが分かる。低いラインで守備人数こそ揃っているものの、ハーフスペースを利用され相手のパス交換でマークやポジションをずらされていく。ホルゲイトとゴドフリーのチャンネル間も不自然な距離が空き、デイビスがカバーに入る様子も受け取れる。

シティはボールサイド、またその逆サイドでも3角形を維持する。オーバーロードすることなく、両サイドで幅を保つことで、エヴァートンの守備陣形を左右に分断。この場面では、画面から見切れる位置でドゥクレとコールマンが自陣右サイドでピン留めされている。デイビス⇄ドゥクレの距離感はもちろん、中央にはガラリとスペースを作られている。そして、ボールはシウバからウォーカーへ。このタイミングで一旦大外へボールを移し、またハーフスペースへスルーパスを出す、というシティ十八番の展開が頭をよぎる。マフレズもペネトレイトでしっかりアクション。

が、プレスをかけたディニュがすぐさまマフレズへのチェイシングへ切り替えた。この辺りはディニュの守備意識も流石でパスを通させなかった。ところが、ゴドフリーがウォーカーへプレスする事で状況は悪化へ。バランスとカバーを優先したデイビスはシウバへのプレスが遅れスペースが生まれる。ウォーカーはワンクッション置いてボールを戻すと、シウバは空いたスペースを前進、ディニュとデイビスが後傾になった体勢を戻して対人する。デイビスは、ようやくプレスすべきだったシウバと1on1の状況になり、ディニュが縦を切ることで対応出来るかと思われた。

ところが、縦と中を切った守備に対して、マフレズの動き直しが素晴らしかった。3vs3だった状況から、ゴドフリーが無効化されたことで2vs2へ変化するも、シウバが注意を引いたことで、オフサイドポジションからマフレズが背後を回る。

スピードに乗ったマフレズに対して、デイビスが切り替えようとするも、シウバに集中した瞬間から対象を移すのは難しい動作だった。
結果、3角形にスペースを創出され、かき回された後のスーパーゴールだった。ショットシーンのみを見るとデイビスの寄せが甘いように感じるが、ここに反応するのは難しかった。
大外とハーフスペースへの対応方法は、レスターとの試合に続き、苦戦を強いられた要因。ゴドフリーが大外に引き出され、デイビスが注意していたIHのシウバにアタック出来なかったことが起点になってしまった。
そうさせないシティのポゼッションも見事だった。


攻撃面では同点に追いついたシーンを含め、ドゥクレがポジティヴトランジションのスイッチに。しかし、一縷の望みをかけたいセットプレーも機会がなくコーナーキックは0本。最前線のターゲットがいない中、リシャーリソンを起点にできた回数も僅かで、ルベン・ディアスの屈強な対人の前に完敗。ドリブル時には3人に囲まれるなど脅威を発揮できなかった。

優勝候補として名乗りを挙げるシティの強さは確かで、後半から登場するデ・ブライネの姿にチーム力の差を痛感した。

▼vsリヴァプール ○2-0 Away
✳︎待望のダービー勝利は新たな始まりの一歩

またも失速の匂いが漂う中、この試合の期待値は低かったが、それまでの状況を打ち消し、リフレッシュされることはダービーの利点だろう。

歴史的な勝利を掴んだマージーサイド・ダービー。先制点は、個人的に文字として記憶に刻みたい衝動から、前編の冒頭に記すことにした。

今季のエヴァートンがライバルに負けていない事実だけでも、既に今季は十分だというファンもいるかもしれない。

※上記リンク動画、1999年、アンフィールドで勝利したマージーサイド・ダービーのハイライト。ダーティーで古き良きイングランドのフットボールを垣間見る。

試合終了のホイッスルが鳴った後、選手たち、アンチェロッティ、そしてダンカン・ファーガソンの満たされた表情を見ると、多幸感に溢れた充実を覚える。
決して万全の状態ではなかったリヴァプール。負傷させてしまったファン・ダイクを始め、CBの連続離脱により緊急措置をとるクロップは、シャルケから加入の若手オザン・カバクと、キャプテンのジョーダン・ヘンダーソンをディフェンスラインの中央に構えて試合に臨んだ。

一方、エヴァートンは怪我明けのDCLがベンチスタート。前節、前半で負傷離脱したミナを欠き3CBに。WBはコールマンとディニュ。静的な基本陣形は5-3-2で挑んだ。

明らかだったのはWBのシェイマス・コールマンが攻撃時に高い位置を取り、WGの高さまで前進。4-2-3-1(或いは4-4-2)へ可変するシステムを用いてリヴァプールのレフトバック、アンドリュー・ロバートソンの攻撃を抑制し、守備時にはマンマークの対応で、大外からの侵入経路を塞いだ。逆サイドのT.A=アーノルドが12本のクロスを放った一方で、ロバートソンが4本のクロスに終わった数字を見てもコールマンを当てる対策が効果的だったことが分かる。前回対戦、試合途中の負傷でフル出場出来なかったキャプテンは、ダイビングヘッドで相手ゴールを脅かすなど、大きな存在感を示した。

エヴァートン分析Twitterアカウント@ToffeeAnalysisを運営する、Joel Parker氏の指摘より。リヴァプールのロバートソン⇄マネ間をケア、機能した4-4-2のシステムを挙げる。大きい円で存在感を放つ選手に比べ、リヴァプール左サイドの規模が小さいことが分かる。

ユナイテッド戦同様、中盤の守備で輝きを見せたデイビス(タックル成功数、両チームトップ)、ゴール前で集中力を保ち続けたキーン(ヘディングクリア6回、地上クリア数13回、いずれも両チームトップ)を中心に、粘り強さで危機を掻い潜る。ゴドフリーは持ち前の果敢さで、鋭いタックルやキーンをカバーするブロックを見せた。手に汗握る防戦一方のエヴァートンは、ダービーらしからぬ、カードをもらわないクリーンな守備が光った。

自己のツイートより。クリーンシートで抑えたピックフォード、攻撃時の起点も印象的。

前編で述べたように早い時間で先制し、あとは守り切る先行逃げ切りスタイルは、ダービーに対する士気の高さも相乗し、相手の波状攻撃を耐え凌ぐと、83分にはハメスと変わって入ったDCLがPKを獲得。途中出場のシグルズソンがボールを冷静に沈め、十分な役割を果たして勝負アリ。

敵地アンフィールドで勝利したのは、1999年以来、約21年ぶりのことで極東のエヴァトニアンにとっても歓喜に包まれる出来事となった。

この試合を終えて1試合未消化ながら、リヴァプールと勝ち点が並び7位をキープ。ますます勝ち点を落としたvsフラムが悔やまれるが、今後の試合に向けて自信を得た機会となった。

シーズンを終える頃、また輝かしい表情を拝むことは出来るだろうか…。

▼vsサウサンプトン ○1-0  Home
✳︎質的優位が光った「高さ」、進化するリシャーリソンの形

ボールの奪い合い、圧縮されたスペースで体をぶつけ合う。前回対戦でハーゼンヒュットルのプレッシングに対し、ネガティヴトランジションでスペースを与えてしまったエヴァートンは一定の改善を見せた。ポジティブだったのはようやく怪我から明けてフィットしたアランの復帰。プレーで溌剌としたパフォーマンスを見せてくれた。

また、印象的だったのはボールの奪い合い、という点で見るとセインツ有利に見えるも、エヴァートンが誇る高さという質的優位が顕著で、CBではキーンが、FWではDCLが違いを見せた。特に、ヴェスタゴーアとの競り合いを避け、サリスとの戦いを選んだDCLのエアバトルは効果的。身長でこそ、サリスが4〜5cm上回るもののお馴染みの跳躍力で見事に制空権を奪う。

そんなDCLを起点に生まれたリシャーリソンの先制点を振り返る(※写真画像はエヴァートン公式YouTube、ハイライト動画より引用)。

アランはアンカーの位置でポジションを取るが、エヴァートンのディフェンスラインがボールを持つと2トップのイングスとアダムスが絞る仕組みを見せる。ここでアランがディフェンスラインに落ちるのではなく、ピックフォードを一列上げるビルドアップ。タイミングを図り、ピックフォードはフィードボールを前線へ送る。時間と手数をかけずに相手ゴールに迫る、エヴァートンの重要なオプションの1つ。

DCLはバートランドの位置を狙いながら落下地点へ入る。セインツはこうしたシーンでサリスがコンタクトに入った。都度DCLと競り合ったが、ジャンプ力とポジション取りの前に敗北。
このシーンでは、近い範囲で準備をしていたシグルズソンがボールを保持した。

高い位置で収まってしまえば、スペースを得たエヴァートンにとって格好のチャンス。シグルズソンが丁寧なスルーパス。リシャーリソンは斜めに抜け出し…

あとは冷静にフィニッシュするのみ。シュートシーンまで実にシンプルな攻め方であるが、早い時間に先制することはエヴァートンの勝利パターン。守る時間が多いからこそ、精度の高さをさらに強めたい。

エヴァトニアンのフォロワー様であるdadaさんのピックアップツイートを拝借。
シウヴァ期から加入以降、左右サイドアタッカー、1トップ、2トップと様々な役割を経てきたリシャーリソン。
最適な位置と形容するポジションとしてセンターレフトと表現。その記事を取り上げて下さったdadaさんの一連ツイートは気づきを得ることができた。

FA杯5回戦vsスパーズでの2得点、vsリヴァプールでの先制点、そしてこのvsセインツでのダイアゴナルな動きからの得点。いずれも自らボールを持って大外からカットインしていたWGでの役割とは異なる光景だ。昨シーズンの得意パターンとした、右サイド(主にシディベからのクロス)の演出を失い、序盤は得点機と結果に苦しんだが、よりラインブレイクして裏を取るケースが実を結んでいる印象だ。
出し手であるハメスの存在はリシャーリソンにとって大きく、vsセインツでのシグルズソンとの縦関係も新たな形。シンプルかつ圧倒的なDCLという柱を軸に、パサーとセンターレフトが絡みながらフィニッシュする。今季残されたゲームで更なる飛躍ができるか、是非注目したいポイントである。

そして、リヴァプール戦に続いてクリーンシートに貢献したピックフォードの復調も挙げておきたい。精神的に難しい時期も多かったが、オルセンの獲得が少しずつ効果を表していると前向きに捉えたい。お馴染み、''ピックセーブ''を耳にする機会が増えてきた。
本稿公開の4月時点では残念ながら再び負傷のため離脱してしまい、オルセンの複雑な状況も相まってヴィルジニアを起用する嬉しい誤算が発生してしまっているが、vsリヴァプールと合わせてvsセインツでも彼のキックは大きな武器となった。
新たなライバル、ヴィルジニアの台頭も奮起のきっかけとして欲しい。

一方で、懸念点はホルゲイト。

今季、4CBの採用や、CBの層の厚さからRBでの出場が増えているホルゲイト。レンタルされたWBAでこそRBで経験を積んだが、昨季、アンチェロッティ就任後にCBで出場を重ね存在感を強めていた。しかし、エヴァートンにおいては本来のポジションではない役割で、魅力を発揮しきれていない印象を受ける。出場機会自体は多いので、アンチェロッティからの信頼は一定と思われるが、来季にレベルアップを図るならRBは考慮すべきポジションだろう。そしてホルゲイト自身、キーン、ミナ、ゴドフリーの牙城を崩す成長に期待したい。

▼vs WBA ○1-0 Away
✳︎ピックフォードの復調で救われた実験パート

WBAに相手に勝利を収め、3試合連続のクリーンシート、及び3連勝でなんとか上位戦線にしがみつくエヴァートン。
元指揮官、サム・アラダイスを前に何としても勝利をお見舞いしたかった中、あわや失点の危機を乗り越え辛くも勝ち点3を得ることができた。

下位相手に余裕があるとは決して言えない振る舞いの中、アンチェロッティはまたも新たなアプローチ。基本陣形こそ守備時中心に4-4-2だが、ビルドアップにおいて攻撃時3-1-4-2(場面によっては3-4-1-2)でボールを運ぶ。

この3-1-4-2、アンチェロッティの教え子でもある現ユベントス指揮官アンドレア・ピルロも今季実施したシステム。守備時4-4-2を軸に、様々なフォーメーションと可変システムで実験を繰り返す姿はアンチェロッティと似通った性質も窺える。同時期に母国で挑戦的に指揮を振るう教え子に触発されたかは定かでないが、リスクを伴う大胆な試みだった。(サッカーキングのユベントス特集号面白かったです、個人的にベンタンクールが好き)


3CB +1MFで低い位置から組み立て、相手を引きつけたところ、4MF +2FWの数的優位で攻め込むプラン。攻守を分断し、攻撃時にボールを失っても高い位置で即時奪回を目指し、ショートカウンターを浴びせるきっかけにもなる。WBAが敷いた4-4ブロックを剥がす作戦の術だったと推測する。

舵を握ったのはCBのキーンとMFのゴメス。ゴメスはアンカーとして後方でリズムを作る。またIHのベルナールも積極的にボールを受けに低い位置へ下がり、低重心のWBAを自陣へ引きつけて前線へ展開したい意図を汲み取れた。この試みに似たことをアンチェロッティはプレシーズンのvsプレストンでも見せている。しかし、主導権を握りペースを引き出せるシーンは少なく、まだまだ最終局面で拙い攻撃に終始し、逆に守備からリズムを作り出すWBA、という構図が目立つ。そして前節に続き、左サイドが一定のカウンターや、崩しを見せつつもオーバーラップやパス交換での前進に欠けるホルゲイトサイドは攻撃面で脅威になれなかった。後半ではVARに助けられるなど、辛勝という印象が強いゲームだった。

この実験が今後のヒントになったかというと微妙なところで、勝ったからこそ批判を浴びるなど大きな話題にはなっていないが、アンチェロッティの戦術はまだまだ選択肢がありつつも、深みを出すには至らない練度の低さも感じてしまった。あらゆる角度に対する時間の積み重ねが求められている。


余談。この試合の勝利で、アラダイス爺への鬱憤は晴らした。あとは残りのゲームでWBAはプレミアリーグを大いに荒らして欲しい。奇跡的な残留を目指すが、残すカードが興味深い。直近が4月3日のチェルシー。以降、同じくエヴァートンと順位を争う、リヴァプールとハマーズをホームで迎える。さらに、エヴァートンを後方から虎視眈々と狙うアーセナル、アストンヴィラ、リーズとマッチアップするなど目白押しである。アラダイス爺よ、償うなら今だ…。

▼vsチェルシー ●0-2 Away
✳︎入り口は間違っていなかった。しかし、主導権はそこに無く。

4位と5位の直接対決だった。今季、ここまでのエヴァートンを追ってきた中でも、チェルシーの強さは圧巻だった。アンチェロッティのプランが間違っていたとは思わないが、まるで構造から殴られたよう。強さ、速さ、上手さの3拍子を奏でるトゥヘル・チェルシーは、ランパードが築いたフットボールを基盤に、著しい変化を起こしたと実感した。復活したM・アロンソはエヴァートンの右サイドを苦しめ、ハーフスペースを攻略。コバチッチとジョルジーニョが巧みにボールを回す。守備もトランジションの切り替えがとにかく早く、エヴァートンがビルドアップを図るも大外へ逃げながら繋ぐのが精一杯だった。全く良いシーンが無かったわけではない。主導権を握られ続けた印象の試合だった。

コバチッチとジョルジーニョがゲームを作った。上記、フットボールアナリストの分析ツイートから。エヴァートンが狙われたのは、やはりアランの脇。前半戦レビューのコラムではこの点をしつこく提示してきた。が、リーグ序盤での無闇にスペースを空けてしまったケースとは異なるシーンだ。ゴメスとシグルズソンがコバチッチらをケアしなければいけないのは疑いようがなく、巧みにライン間に移るハヴァーツ、難なく楔を打ててしまうコバチッチとジョルジーニョには何度も驚かされた。

完敗だった、といえばそうなのだが、結果だけを見ればオウンゴールとPKによる失点のみなのが不思議なところだ。ひとつとして、ピックフォードが連続するシュートストップで最低限の失点数に保ってくれたからこそ。
これだけ圧倒された印象でも、流れの中から相手のシュートでゴールを許していないのは前回対戦同様で、瀬戸際を切り抜けるチャンスはあったのかもしれない。負けたのに楽しい試合だったのだ。エヴァートンはフルスカッドでは無かったが、3-4-1-2、5-3-2を用いてアグレッシブな守備を実践していた。数年前、ビッククラブに対してディフェンスラインに5枚の選手を並べ、ただ受け身にスペースを埋めた頃とは違う。

しかし、果たしてこのままでステップアップできるのだろうか、と気持ちが揺らぐ敗戦でもあった。何を以って主導権とするのか。アグレッシブに守っても、守り続けることばかりでは勝てないのだ。相手の質的優位が上がるほど、攻撃プランの乏しさに苦慮する。来季、補強がどうなるであろうと、アンチェロッティが手駒を揃えようと、とにかく今季は結果が必要なのである。

▼vsバーンリー ●1-2 Home
✳︎不安が再び具現化、求められる攻撃プラン

恐れていた下位からの敗戦を再び受け、来季ヨーロッパへの切符獲得に黄色信号が灯った。マクニールのゴールは勿論素晴らしかったが、その他シーンにおいてもバーンリーの高いインテンシティとブロック形成はお馴染みの徹底ぶり。エヴァートンが相手ハーフコートに侵入すると、途端にプレスコンタクトが激しくなり、タイトな守備が光る。クロス合戦に持ち込むオーソドックスな攻め合いになったが…

結局のところ、イウォビの要望に応えた形のトップ下起用は試合中に頓挫。そこまで悪い振る舞いではなかったと記憶しているが…同じく堅守速攻を謳うチームに立ち上がりすぐ失点したのが痛かった。
1失点目はデイビスが狙われた。vsチェルシーでも全く同じようなボールロストが発生した。ビルドアップやトランジションの中、後ろ向きの際に潰される形でボールを失った。デイビスとアランの共演に期待を膨らませたが、ここも勿論、まだまだ連携が必要な併用だと思わされた。

デイビスのクロスに合わせたDCLのゴールで、反撃の狼煙を上げたかったが、クロス合戦に持ち込むも最終局面でクオリティを生み出せなかった。コールマンの投入で、ホルゲイトに無かったオーバーラップや深い位置からの攻撃は生まれたが、本来エヴァートンが進めるべきプランをバーンリーが遂行したままフルタイムを迎えた。守り切ることはエヴァートンよりもバーンリーの方が経験豊富なのは一目瞭然。2トップのリシャーリソンとDCLに対するチャンスメイクも乏しく、互いの連携も弱々しかった。66%を記録した支配率、ボールを持たされるゲームでまたしても敗北を喫した。ボールを握っても主導権はバーンリーに握らせてしまった、攻撃プランの課題は未だ解消されず。
もう一度、チームは軌道に乗れるだろうか。

▽Phase. 6 CheckPoint

▼vsマン・シティ ●0-2 FA杯準々決勝
✳︎守備プランの限界と対面も、この経験を糧に

フェーズ6、チェックポイントを含めて。
2セントラルMFによる、互いの距離感において指摘させていただいた中盤戦レビュー。デイビスの成長と、アランの復帰、ドゥクレの離脱で入れ替わる複数システムの導入。可変システムを用いて、4-4-2、4-4-1-1、3-1-4-2、3-4-1-2、5-3-2、そして4-3-1-2、様々な姿を見てきた中盤戦のプレミアリーグ11試合(+FAカップ2試合)。積み重ねの中に守備プランの改善点は窺える。ハーフスペースの守備が苦手であり、セントラル2枚の中央は大きなスペースを与えやすいこと。ひとつの対応法として、3枚のMFを並べることもチャレンジしてきた。これは、序盤戦の4-1-2-3とは異なり、より守備的にシフトする3CMFとしての変遷を感じている。

FAカップ準々決勝、前半のパフォーマンスは理想的だった。しかし、先制点が取れないことで、後半のパフォーマンスが決して良くないエヴァートンには、正直なところ勝機を見出しにくかった。事実、交代カードで何か劇的な変化を作り出すことは困難。アンチェロッティは87分にイウォビを投入したのみ。シティはマフレズ、デ・ブライネ、ロドリを後半に送り込めるのだから、形勢不利である。それでも2月に対戦した際に比べて奮闘する姿を得たエヴァトニアンの方は多いだろう。明るい話題として、ピックフォードの離脱で、vsバーンリーで途中出場にてデビュー、FAカップスタメン抜擢のヴィルジニアが奮起したのは収穫だ。

エヴァトニアンでフォロワー様のTricolore Toffeesさんのツイートより。私には見えない角度、GK視点からの指摘など、気づきを与えてくれる方の1人。ヴィルジニアのように、リザーブリーグ等のハイライトを選手自身が届けてくれるのは嬉しい限り。今後、トップチームでのセーブシーンが増えていくことを楽しみにしたい。

リーグに集中できる環境が整ったとポジティブに捉えよう、そう言い聞かせるしか道はない。二足の草鞋を履くのもまだ早かった。それはまだ先の話。若手の姿をもっと見たかった大会だった。


代表ウィークが明けて、ようやくプレミアリーグが再開される。エヴァートンは4月3日再開前時点で8位に位置する。5位ハマーズとの勝ち点差は3ポイント。

次節の相手はクリスタルパレス。スパーズ、ガナーズ、ハマーズ…直接対決になるであろうロンドン勢、ヴィラとのゲームがまだ2つ残っているのも厄介だ。予定がそのままであれば、最終節がシティ。当たる前に順位を決めておきたい限りだ。
日本は新しいシーズンに突入。始まりの季節。気温が高くなる日も多く、春眠暁を覚えず、な春だというのに、極東エヴァトニアンにはさらなる試練がのしかかる、ハードなキックオフ時間が続く予定だ。
私たちが求める順位にたどり着くには、率直に言うと1試合も落とせないわけだが、無理はしすぎず体調に気を付けて今季を乗り切ろう。
そして、この恋模様の行方を、楽しんで待つとしよう。


▽蛇足②(長いです)

「我が魂よ、不死を求ることなかれ、ただ可能の限界を汲み尽くせ」

10数年も前に発刊された小説、『龍時』をご存知の方はいらっしゃるだろうか。
舞台は日本、スペイン、そしてアテネオリンピックを中心に、1人の青年、架空のプロサッカー選手である、主人公/龍時の生き様を描いた本格サッカー小説だ。

架空の登場人物を始め、実名のフットボーラーも登場する(懐かしき銀河系軍団、ベティス、日本代表、ブラジル代表など)、故・野沢尚原作の長編小説だ。3部作に分かれる大作で、昔も今も私にとってNo.1のサッカー小説。青春、人間ドラマはもちろん、サッカーという描写の難しいテーマを実に繊細に、心理戦や豊富なプレー描写、海外文化を交えながら描き切っている。

蛇足、表題のフレーズは、作中に於いて象徴される詩なのだが、現在でもふと思い出す一節だ。
生き急ぐようにサッカー選手として上を目指す龍時が''限界''と向き合うシーンで鍵となる言葉で、私自身の経験にも当てはまる部分がある。

(ここからは自分語りです、すみません)

この小説に出会ったのは中学生、当時サッカーのみに没頭した時代。私は地方の公立中学サッカー部で地区予選から県大会を優勝し、最後の公式大会である高円宮杯で次のステージへ進出した。この時、私は市のトレセンに選ばれたことがある程度だったが、周りの優秀な仲間、プレーヤーと優れた監督に恵まれて、無名の部活動サッカー部で躍進することができた。
幼いばかりに、チームも自身もどこまでも進める気がしていた。しかし、大舞台に上がると当然ながら、上には上がいることを思い知らされる。

名古屋グランパスや、清水エスパルスといったユースチームを前に叩きのめされ、求めたこと、期待したものを打ち砕かれた記憶が今も残っている。自分の実力の無さを痛感し、朝も昼も夕方も練習に明け暮れ、土日は遠征や練習試合、サッカーをするために学校へ通っていたようなものなのに、エリートって凄いんだなと、''限界''を突きつけられ、まさに「可能の限界」を嫌と言うほど味わい、漠然とした「夢」のようなものを失った瞬間だった。

私が、サッカーを言語として、または文章として残したいのは、野沢尚の「龍時」に出会ったことが原点だと自覚していて、加えて、常に優勝争いを演じるようなエリートチームではなく、中堅エヴァートンが好きなことも、自分の経験から起因するものだと改めて思う事がある。

エヴァートンを応援するのは娯楽や趣味の1つであることは間違い無いが、心のどこか片隅で、自分が成しえなかったことを期待する側面がある。だからこそ、思い入れも強いし、ライフスタイルの中心となり、あらゆることを求めてしまうのだと思う。
いつか、エヴァートンが''可能の限界''を見せてくれる日を待っている。大袈裟で気持ち悪いと引いてしまう方もいるかもしれないが、私が死ぬまでの間のどこか、訪れるかは定かでないが、ひっそりと、出会えることを願っている。
それは、リーグにおける勝敗にとどまらず、さらに上の舞台に進み、満身創痍の中、全てを出し切った選手、チームを拝見してみたい。
もっとドラスティックに、情熱を受け、その全てを汲み尽くすような感動を与えてくれるエヴァートンをいつか体感してみたい――。


今回も読んでくださった皆様、ありがとうございました。
今季も残り僅かですが、何卒よろしくお願い致します。
また、御意見、ご感想もお待ちしております。
COYB!!

気に入ってくださり、サポートしてくださる方、ありがとうございます。 今後の執筆活動や、エヴァートンをより理解するための知識習得につなげていきたいと思います。