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心と人生を大きく動かされた、渋谷での15分カット

人生の転機に、素敵な美容師さんによく出逢うのはなぜだろう。

去年の8月、意識高い学生だったわたしが社会人4年目にして堕落したニートになり、半年が過ぎた頃だった。

予定の20分前、少し早く着いてしまった渋谷をぶらぶらしていると「あなたの人生で一番素敵な髪型にするので、切らしてください!」と声をかけられた。渋谷や原宿では、お客さん探しが大変そうな美容師をよく見かける。申し訳ないと思いながらいつもお断りしているけれど、その自信に溢れた提案を、わたしは簡単に断る気持ちにはなれず少し立ち止まる。

予定まであと20分しか時間がないことを告げると、わたしの予定のある場所を聞いてきた。驚くことに、わたしの予定がある場所と、彼が所属している美容院は数メートルの距離だったのだ。「15分で切れます」そう言う彼に、わたしはついて行くことにした。ベレー帽をかぶった高身長の彼は、フリーランスの美容師として仕事をしているとのことだった。

手際よく彼は準備を始め、わたしにわたしの髪事情を問うていた気がするけれど、それよりもわたしの顔の特徴、雰囲気、髪質から詳細なコンサルティングのようなものを始めた。彼の口から溢れる言葉の勢いは、わたしの髪に対する好みなどを凌駕するものだった。

「目鼻立ちがハッキリしているから、髪は主張させない方がいい。」しっかりブリーチをして、オレンジやら緑やらピンクやらに髪を染めていたような人間であるわたしにそう言い、いつの間にかササっとカットし始めていた。

約束通り15分で終わったカットの仕上がりは、これまで経験してきた中でも群を抜くものだった。「似合っている。」自分でさえもそう思えた。

***

ニート、とはいえ親の脛かじりで引きこもっていたのではなく、起業したいと思って一人でもがいていた半年間だった。

結局のところ、毎日お昼に起床し、喫茶店に行ってカラオケに行く、その繰り返しの日々だったように感じる。

初めて経験した無所属の孤独と、目標が見えない苦しみ、その中で自分自身さえも見えなくなり、授かり婚でもしてしまえないだろうかと本気で思っていた時もあった。その美容師の彼に出逢った時は、ニートを辞めて、とにかくまた一生懸命に働こうとサラリーマンに戻ることを決めた矢先だった。

そんな時に、まっすぐわたしを見つめ「似合う」髪型にしてもらえた経験は、これまでの考えを改めて見つめ直すきっかけとなった。

というのも、例えるならば、人にとっては「やりたい」髪型がすべてだと思っていたのである。似合うか似合わないかなんて関係なく、やりたいかどうか、それがすべてだと思っていた。

間違っているとは思っていないけれど、「やりたい」がすべてではないとも思う。いまのわたしにしっくりくるかどうか、わたしにとって自然な姿か、それも大事なことだと、そう思わせてくれた。不自然なエネルギーはきっと持続しない。それに、似合っている髪型にすると人から褒めてもらえたりなんかして、わたし自身も自分のことを少し好きになれたりする。

自然な自分に従った方がより高く、より遠くまでいけるのではないかと、あの時からずっと信じている。

まだまだもがき続けているけれど、わたしはこのまま、わたしに似合っているこの髪とともに、わたしにしっくりくる道が存在していることを絶対に信じて、諦めない。

26歳の夏が終わった。

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