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組織の中からイノベーションをどう生み出すか? ~企業内で自己実現していく人の在り方に学ぶ~ 

2022年4月12日。建長寺にてBeyondカンファレンス2022が開催され、15時から「組織の中からイノベーションをどう生み出すか? ~企業内で自己実現していく人の在り方に学ぶ~」の越境トークセッションが行われました。

NTTドコモベンチャーズ代表取締役社長の笹原さん、竹中工務店まちづくり戦略室副部長の岡さん、そしてスタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー(SSIR)日本版共同発起人の井上さんが登壇。企業の新規事業担当者を中心に30名近くの参加者とともに「組織の中でイノベーションを生み出すのは、やっぱりたいへんだよね」という共通意識から、イベントはスタートしました。

同じ企業人と思えない。異様なキャリア

井上さんが「圧倒的、変態度を感じる」と称した、笹原さんのキャリアはこちら。

NTTドコモベンチャーズ代表取締役社長の笹原さんのキャリアの変遷

会社はドコモ一筋ながら、26歳からコンサルティングなどの副業を手掛け、これまでにいくつもの取り組みを社外と取り組んできた笹原さん。「企業に所属しつつ、どうしてこんなに自発的にアクションできるのだろう」そんな疑問がムクムク湧いてきます。


身近なパターンを、少し変えることから始まるソーシャルイノベーション

スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー(SSIR)日本版共同発起人の井上さん

SSIRの井上さんは、慶応大学のソーシャルイノベーション講座での『マイプロジェクト』を紹介。学生たちは、自分がずっとしてみたかったこと、気になっていることに『マイプロジェクト』と名前をつけて取り組みます。

とある学生は、母親が「お父さんは出来ない人」とよく言うことが気になりました。そこで父親に「今日いいことあった?」と初めて聞いてみて、これまでと違うパターンでのコミュニケーションを始めてみる小さな変化を起こしてみたところ、父親のふだんと違う一面がみえることに気がつきました。

身の回りに起きていることのパターンを少しだけ変えてみること。言葉1つ変えてみることで、1人の幸せな感情も知らず知らずに伝搬していき、より多くの、より遠くの人たちへと届いていくのかもしれません。


戦略的不良社員になろう

竹中工務店まちづくり戦略室副部長の岡さん

ここから、会場の質問に答えるパートに移ります。

会場からの質問 その1
「企業で取り組む新規事業は、社内で周りからいろんなことへの対応を求められます。どのようにモチベーションを保ったらいいのでしょうか?」

竹中工務店の岡さんは、「現場現物をみたら、トップは理解が早い」と答えます。社内にない技術、投資額も大きい。そういった案件も、社内で何回もキャッチボールを繰り返し、副社長を現場に連れていき、現場の人たちと握手してもらうと応援団になってくれる。
また「なるべく会社にいかない」というのもモチベーション維持にはいいとのこと。岡さんは、会社以外に6拠点の働く場所をもっており、頻繁に外へいくことを繰り返していると、周りからも「あいつはそういうやつだ」と思ってもらえるため、動き回る意欲を保つことにもつながるということでした。岡さんは戦略的不良社員になることをおすすめされていました。

地域活性化企業人として出向している雲南市での取り組みにもヒントがありました。雲南市では、大人チャレンジ、若者チャレンジ、こどもチャレンジ、企業チャレンジといった活動が行われており、地域の中学生から高齢者まで、幅広い年代の人達が自分たちのプロジェクトを熱く語る姿を目にしているというのです。そういった個人の純粋な熱量にふれることで、企業に所属する人たちも、自分の肩書や役割を脇において、個人として挑戦しやすくなるのかもしれません。


新規事業は、頼まれてなくても発信!

NTTドコモベンチャーズ代表取締役社長の笹原さん

続いて、こちらの質問に。

会場からの質問 その2
「気がつくと1人で動いてしまっている状態になることがあります。社内を組織の人々を動かすために、どのような工夫をしたらいいでしょうか」

笹原さんは「新規事業は、あの人は何をしているのか分からないという状態になりがち。先回りして、発信しましょう」と指南します。頼まれていなくても、取り組みの中での失敗談・経験談を伝えると、味方になってくれるということでした。
井上さんも同意し、失敗から物語が始まるといいます。「やってみたことから得られた一次情報に、人は敬意を払います。うまくいかなかった話を共有すると、周りの目が輝くんです。それなら手伝ったのに!という声も上がり、そこから新たなアイデアも生まれます」
岡さんも、とある経営者の方からもらった、こちらの言葉を合言葉にしているとのこと。「失敗のない人生は、失敗だ


心に感じたことを口にすることから、始まる

当日の会場の様子

会場からこんな声も上がりました。

会場からの質問 その3
「空き家の活用をテーマに新規事業を検討中です。シナジーをどのように考えるといいでしょうか」

この質問をした企業の新規事業担当者に対し、井上さんは「どうして空き家に取り組むんですか?」と問いかけると、「実は、子どもの頃、認知症の祖母の家を売却しなくてはならなくなり。その話を母が電話で泣きながらしているのを目にし、子どもながらにあの家を取り戻さなきゃと思ったんです」と、空き家への想いを語っていただきました。

井上さんは、「空き家そのものだけではなく、自分にとって『空き家が代表しているもの』が何なのかに自覚的になると、もっと伝わるようになりますよね。「わたし」にとって、空き家をリノベーションするって、それによって何が変わることなんでしょう?空き家が表している意味のイノベーションが明確になると、新しいセオリー・オブ・チェンジ※が生まれるし、すべての空き家が可能性に見えてきますよね。」

※セオリー・オブ・チェンジ:現状のパターンに介入し、新しいパターンとシステムを生み出す、変化のための手法・やり方

目に見えているものは同じでも、そこに何をみるかは人それぞれ。道路も、時計も、洋服のボタンも。それは見慣れた、当たり前なものですが、この時代に至るまでには多くの人の努力の積み重ねがあり、目に見えない人々や物事と関わり合いをもって、社会がつくられ、動いています。

笹原さんが放ったひとこと「心に感じたことを話し始められる場があれば、社員は変わり始めるのではないでしょうか」が、すべてを物語っています。

日常の小さな違和感や興味、感謝や好奇心。どんなことでも、口にして、改めて誰かと対話することで、自分の中に何かが湧いてきて、生まれ始める。その感覚を取り戻すところから、企業人の一歩は始まるのかもしれません。