見出し画像

「わたしは女優」と名乗れなかったワケ

TCアルプの下地です。この時期の松本の日差しにはちょっと参ります。
なにせ紫外線量が日本一と言われる街。標高は松本駅で586メートル、ちょっと坂を登れば東京スカイツリーの高さを超えます。太陽が近くて晴れの日が多いとか、空気が綺麗とか、そういうことも要因らしいです。
あっという間に日焼けするので日傘とサングラスが欠かせません。見た目だけはセレブです。やったね!(?)


さて。
前回の記事でTCアルプの新体制について書きました。その件についての言及です。読んでない方はご一読ください。
少し長くなりますが、わたしにとって割と大事なことなので書きます。
タイトルの通り「女優」と名乗ることができなかったわたしの話です。


4月に劇団員が増えました。わたしとしては女性メンバーが増えてくれたことがとても嬉しい!
……というより、正直ほっとしています。
と言いますのも、新メンバーが入るまで約7年、TCアルプに「女優」はわたししかいませんでした。

『土砂降りボードビル』(2018年)
TCアルプのメンバーで撮った写真。

2012年に劇団に入ったタイミングでは他の女優陣もいたのですが、翌年人数が激減し女1人に。のちに新メンバーが加入するも女性は増えませんでした。
TCアルプはほとんどが移住者の集団ですが、演劇界はまだまだ東京中心。男女問わずお誘いしたい人がいても、地方を拠点に演劇をするという選択はハードルが高いかもしれません。

女1人になり、はじめのうちは「TCアルプの紅一点でーす☆」と名乗りもしたし、周りから「看板女優だぞ!」と言われもしましたが、次第に「女優」や「紅一点」という自称を避けるようになりました。
自分をそう表現することに、言い知れぬモヤモヤを感じ始めたからです。

わたしは思いを言葉にするのが苦手なので、このモヤモヤが一体何なのか気づくことができずにいました。
ですが、男性多数:女性1人の配役の作品を創るうちに、少しずつその正体がはっきりしました。

例えば、2018年に上演した『人間ども集まれ!2018』

『人間ども集まれ!2018』 演出:木内宏昌

手塚治虫さんの漫画が原作。男でも女でもない、大事な部分がツルツルの新人類「無性人間」が突然変異により誕生し、人間のために大量生産されます。
胸の大きさは変幻自在で男女どちらかの体型になれる(つまりおっぱいは作れる!)ため、人間の女性の代わりに大人の遊びに利用されたり、政治利用され無性人間同士で戦争までさせられます。
わたしが演じた無性人間第一号の未来(みき)は、無性人間のリーダーとなり人間にトンデモナイ復讐を行いますが、唯一愛していた人間の父親に「性に嫉妬しているだけだ!」と指摘され、初めて自身の性とアイデンティティに向き合うことになります。
(原作は50年以上前の作品なのに2つに限らないジェンダーを描いたすごい漫画です。おもろいから読んで!)

19年に上演した『モンスターと時計』も影響が大きかった。

『モンスターと時計』
演出:森新太郎、企画制作:まつもと市民芸術館、撮影:山田毅

主人公の少年・トビーを演じたこの作品は、生身で演じるのはわたしだけ。他の男性キャストは動物のパペットを操る人形劇でした。たった1人の人間の子供が「モンスター」と呼ばれ恐れられる、現実世界とは逆転した世界。トビーは人間関係(動物関係?)をうまく築くことができず、臆病で泣き虫でした。


マイノリティーな立場にいる登場人物を、劇団唯一の女性が演じる。
求められる役割と演技スタイルが周りの男性陣と違う。
そういった俳優としての心細さと、役が抱える「自分だけが周りと違う」「仲間に入れてもらえない」「認めてほしい」という葛藤が重なってしまう感覚がありました。

わたしは「女優」である以前に「俳優」でありたかったし、劇団に入る時に憧れた先輩たちと横並びで胸を張るのが目標だった。でも、紅一点として扱いを分けてもらい目立たせてもらった。それは有難い反面「女だから」と線引きされるような寂しさも感じました。

また、上記の作品のように女性以外の役を演じることが多かったので、多くの人が「女優」と言う時にパッと頭に浮かべる「女優!」というイメージにも近づけない。
それなら……と、女性/異性だと意識されないように、わざと男性的な所作や言葉で振る舞うようになったような気がします。

……念の為書きますが、アルプの人たちや関係者の方に全く非はなく、あくまでわたしの感覚の話です!もうちょいお付き合いください!

──意識が変わってきたのは、ここ2、3年のこと。
20年ごろから、同年代の女性のキャスト(主に新メンバーになる人たち)と関わることが増え、同性同士だとこんなに共感できることが多いんだ!と安心する場面が増えました。

また、今年の3月に上演した『KING LEAR −キング・リア−』で演じた王女・リーガンでも心境の変化を強く感じました。
衣装が徐々に剥がれ落ちるという演出を自分なりに解釈し「周囲のために作った女性像を脱ぎ捨て、抑えていた欲望を露わにする」というイメージで演じたんです。
自分に近い感覚で演じるのは如何なものか?とも思いましたが、趣旨に合うコンセプトだったと思うし、あえて女性性を意識して役作りができたことはわたしにとって大きな変化です。

『KING LEAR −キング・リア−』演出:木村龍之介
この衣装が剥がれ落ち、終盤は下着姿で暴れまわることになります(笑)

この稽古をしていた頃には劇団の新体制もほぼ決まっていたので、心持ちはだいぶ楽でした。もう「紅一点」でもないし、誰かの思う「女優像」を1人で背負う必要もない。
そう思えるようになった今では「自分の女性性とアイデンティティに素直に向き合ってみよう」と前向きな気持ちにもなりました。これまでの積み重ねと環境の変化でやっと見えた課題です。
これから先どんな役回りができるか。新体制での創作過程で、自分自身に起こる変化を楽しめたらいいなと思います。
女優陣、加入してくれて本当にありがとう! 先輩、頑張ります……。


それはそうと、今月情報解禁された公演があります。
TCアルプの主宰・串田和美がオンシアター自由劇場の時代からライフワークとして上演し続けた『スカパン』という演目を、7年ぶりに上演します。

20代で演じてハードルの高い役だなーと思った役を再び演じることになり、試されているぞ……という気持ちです。
先月の記事に、前回の公演の際に取材をしていただいた新聞記事を掲載してます。
画像の公開時期が8月までなので、よかったら読んでください。

今後いろいろとお知らせが続く予定です。
さーて、忙しくなるぞ!

それではまた7月!

2022年6月17日 下地尚子



下地尚子の記事はこちらから。
https://note.com/beyond_it_all/m/m1cb913220d43


読んでくださり、ありがとうございます。 このnoteの詳細や書き手の紹介はこちらから。 https://note.com/beyond_it_all/n/n8b56f8f9b69b これからもこのnoteを読みたいなと思ってくださっていたら、ぜひサポートをお願いします。