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不惑で雑観

誕生日を迎えた。

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ちょうど40歳になった。
「四十にして惑わず」とは言うけれど、まったく惑わないよりはそこそこ惑ってる方がスキがあっておもしろい。
しかしながら、惑わずにいられるのも魅力的だ。

惑い惑い生きてきたつもりだけど、演劇を選んだのは早かった。
たしか18.19歳の時には舞台の上で死ねればとか言っていた気がする。
当時は三島由紀夫に傾倒していたせいか、死に場所ばかり探していた。華々しく散るにはどうしたらいいかみたいなことを延々と考えていた。
それが幸なのか不幸なのか、学生時代はいわゆる自分探しに時間を費やすことなく、明日死ぬためにはどう生きればいいか?と四六時中自問自答し、とにかく生き急いでいたので惑うことがあまりなかったように思う。

でも、三島由紀夫が何を想って死んでしまったのか本当のところは誰にもわからないし、華々しく散りたいなんてのはたぶん言葉の響きがかっこいいからというだけだったんじゃないだろうか。
何ももってない自分と向き合いたくないから、いつも動いてないと不安だったんじゃないか、
生きるということがよくわからないから、死というさらに漠然としたよくわからないものを隠れ蓑にしてごまかしていたんじゃないかと、
当時をふりかえってみても、あの頃の自分はもうここにはいないので、これはもう迷宮入りだ。
酔うごとに後味がわるくなるのが昔話と記憶の捏造。
前言撤回、少なくとも、当時のわたしはしっかりと自分探しに没頭し、ふらふらと迷い惑っていた、ということになる。

それは今でも変わることなく、あいかわらずわたしは自分というものを棚にあげ、目の前の景色に右往左往しながら落ち着きなくふらついている。
変わったところがあるとすれば、「待つ」ことを覚えたことくらいだ。何でもかんでもこちらから動くのでなく、相手が動くのを待ってみる。
これがむかしはできなかった。やたらに自分ばかりが先行して、相手は置いてけぼり。それがいつもまかり通っていたのだから、そうとうなエゴイストだったのだと思う。
苦手だった釣りも、今ならじっと針をたらして延々と川面を見つめられる気がする。

年をとってまるくなったとも言えるけれど、エゴイストな部分がまったく消えてしまったのかと言えば、そうでもない。その点に関しては確信がある。わたしは基本的には何も変わってない。
ただ「待つ」ことを覚えただけであって、相手に合わせられるエゴイストになっただけである。引き出しとして「待てる」のであって、本質的には「待てない」人間だと思っている。
だからといって、特に生活に支障があるわけでもなく、そこそこに稼ぎ、そこそこに社会生活を送ることができている。

学生時代のように、死ななきゃいけない理由を探すことはもうしていない。かといって生きる理由も見つかっていない。
なんのために生きるのか、理由があることは大事だけれど、どうやら必ず要るものでもないらしい。
理由がなくても、人は生き続けるし、いつかは死ぬ。
これは厭世でも理想でもなく、不惑による達観でもない、ただそうある通りの現実だと思っている。
見方を変えれば、理由がないからこそ、浮かび上がってくる現実もある。そんな現実を前にわたしたちはただ「わけがわからない・・・」と口を開けて立ち尽くすのだ。
転がり続ける現実に理由を求めるか、求めないのか、それはその都度突きつけられる選択に立ち合い、応えていくしかない。

そんな容赦のない現実の世界と共存するのに、演劇はとても有効だと思っている。
テキストの数だけさまざまな形をもった世界があり、そこでのふるまいが自分と周りにどんな影響をもたらすのか、ひとまずのシミュレーションを試し、繰り返すことができる。
そこでは希望も絶望もひとしく人間の営みとして語られ、わけのわからなさに立ち尽くす人がいれば、その人の肩にそっと手をやり、一歩を踏み出すまでずっとそばで話し相手になってくれる。
かつて、広大無辺な現実の前に立ち尽くし、わけもわからず怯えていたわたしに寄りそってくれたように。
演劇にはそんな懐の深さがある。

40歳を迎え、不惑に至ったかと思えばどうやらそうでもなく、その日その日を寄るべなく暮らしている。
どうやったら惑わずにいられるのだろうか。
ときには惑うこともあるのだろう。
でもやはり惑わないでいたいものだ。
そのわからなさに、わたしは今日も立ち尽くしている。


小菅紘史



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https://note.com/beyond_it_all/m/m1775a83400f9


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