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でかけよう!はれてもふっても

 運営に携わる中央線芸術祭が、先月無事に終了。その中で、企画に関わっていた「あーととえほんのじかん」にちなんで、今月はわたしのお勧めの絵本2冊をご紹介。

「あーととえほんのじかん」では、美術作品の展示会場で、アーティストがセレクトした2冊の絵本を俳優が読み聞かせし、その後トークを行う。興味深かったのは、本人が意図しなくても、選んだ本からその人が大切にしていることが伝わり、それは展示作品にも通底しているということ。トークでも、アーティストの人柄が分かる子ども時代のエピソードなどが出てきて、作品をより楽しむきっかけになったのではないかと思う。

わたし自身は、なかなか読書の時間が取れないけれど、子どもたちと図書館通いをしているので絵本だけは、月に数十冊読み聞かせる。今は良い絵本が本当にたくさんあって、親の方が夢中で読んでいたり。素朴で根源的なことを描く絵本は、決して子どもたちだけのものではなく、むしろ大人たちにこそ必要なものかもしれない。


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『わたしのワンピース』(絵と文:にしまきかやこ こぐま社)

 幼い頃に実家にあり、よく眺めていた記憶がある懐かしい絵本。

うさぎが、空から落ちてきたまっ白な布でワンピースを作り、それを着て散歩に出かける。風景と一緒にワンピースの模様が変わっていく。お花畑に行けば花柄に、雨が降れば水玉模様、模様になったことりたちに連れていかれた空では、夕焼け模様に。

「ラララン ロロロン」と歌いながら「わたしににあうかしら」と楽しそうなうさぎ。カラフルでかわいらしい絵と、行ってみたくなる景色。こんなワンピース、わたしもほしいなと思っていた。


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大人になって、娘にこの絵本を読んでいて気づいたのは、うさぎのしなやかな強さ。たまたま手にした布をワンピースにして着たことに意志を感じるけれど、その後はワンピースに連れて行かれるがまま、「これもわたしににあう♪」と変化を受け入れ、楽しんでいるよう。

わたしにとっての「ワンピース」って何だろう?と考えてみると、やはり演劇なのだと思う。それは確かに、わたしをいろいろな場所に連れて行き、たくさんの人たちに出会わせてくれた。実は、みんながそれぞれに「わたしのワンピース」を持っているのかもしれない。

「ラララン ロロロン ランロンロン」散歩は続いていく。


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くまのアーネストおじさん『あめのひのピクニック』(作:ガブリエル・バンサン 訳:もりひさし BL出版)

 くまのアーネストは、赤ちゃんの時にゴミ置き場に捨てられていたねずみの女の子セレスティーヌを引き取り、男手一つで育てている。

この物語のシリーズの特徴は、理由は説明されていないけれど、大人はくま、子どもはねずみの姿で描かれているということ。この絵本を子どもの頃から好きだったけれど、自分が親になって読むとまた違った発見がある。明らかに異質な外見の2人を確かに「親子」だと感じるのは、関係性がそう思わせてくれるからなのだ。

そうしたことを実際に実感したことがある。ある日、娘の幼馴染のお母さんが、特別養子縁組で「親子」になり、そのことを本人にも伝えながら育てているのだと教えてくれた。わたしが彼らを素敵な「親子」だと思っていたのは、顔が似ているからなどではなく、2人の関係性だったのだと気づかされた。それは最初からあるものではなく、時間をかけて作り上げていくものなのだろう。血が繋がっていても、繋がっていなくても。

アーネストとセレスティーヌの関係は、親と子(立場が逆転することも)であり、友だちであり、時に恋人のよう。ステレオタイプではない、時々に変化していく複雑な距離感に「親子」のリアリティを感じる。それは、舞台で演じられる「親子」に心動かされる時も同じだと思う。


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アーネストは職を転々としているようで、経済的には恵まれているとはいえないけれど、2人が相手を思いやり、素朴な生活の中で工夫をし、どんな時でも楽しむ姿が描かれていることが、この絵本の魅力。

「あめのひのピクニック」では、楽しみに準備をしていたピクニック当日が土砂降りになってしまう。けれど、彼らは「いいてんきのつもり」になり、レインコートを着込んでピクニックに出かけていく。森でテントを張り、お弁当を食べ、陽気に過ごす。その絵が素敵で、本当に雨の日にピクニックをしてみたくなってしまう。その後、立ち退くように注意をしに来た森の地主とも友だちになり、お屋敷に招かれるのだった…

 
大事なのは、条件ではなく、自分がどうありたいか。そんなことを教えてくれる絵本。


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選んだ2冊は、わたし自身が子どもの時から好きだった絵本。好きなものは意外と変わっていない。絵本はシンプルだからこそ、さまざまな解釈ができる懐の深さがあり、読む人の成長とともに捉え方が変わっていくのも味わい深い。

ふと昔お気に入りだった絵本を引っ張り出してみたら、原点を思い出させてくれるかもしれない。



米谷よう子



米谷よう子の記事はこちらから。
https://note.com/beyond_it_all/m/me1e12a71d670


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