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厚生労働省で年金行政に携わった井上特別顧問が語る「豊かな老後」のための「公的年金」+αの重要性

「ビジネスを通じて、子育て世代と子どもたちが希望を持てる社会をつくる。」という企業理念のもと、現在および将来にわたり、人々が「お金の心配なく」「自分らしく働ける」社会を目指す株式会社ベター・プレイス。医療、保育や介護など、人々の生命と社会生活を支える人たちの資産形成や福利厚生を支援するための「はぐくみ基金」の設立のほか、DXにより企業年金を刷新し、初心者の方でも手軽に老後の資産形成ができるような取り組みを行っています。
 
今回は厚生労働省で長年医療や年金の業務に携わり、現在「はぐくみ基金」の特別顧問を務められている井上誠一氏に、改めて「公的年金」についてや、中小企業が退職金制度や年金制度を整え安心して働ける環境を構築することの重要性、そして「豊かな老後」を送るために必要な「公的年金」以外の資産形成についてお話を伺いました。


「公的年金」は崩壊しないが、それだけには頼れない 

—最初に井上特別顧問が厚生労働省において、どのような業務に携わられていたのかを教えていただけますでしょうか?

わたしは他の組織への出向を含め約36年間、厚生労働省に勤務しておりました。主に医療の関係で約11年、そして年金については9年ほど携わりました。思い返すと、キャリアの4分の1で年金に関わっていたことになります。

20代後半から30代はじめの頃、年金局年金課で法令の企画立案業務を担当し、年金制度改正にも参画しました。40代の頃には、社会保険庁およびその後継組織である日本年金機構において年金制度の運営に携わり、当時強い批判を受けていた年金記録問題への対応などに取り組みました。50代のときには、企業年金連合会という団体に出向し、企業年金を運営している基金や企業へのサポートなどの業務に携わりました。

—年金記録問題など大変な時期もご経験され、キャリアの4分の1の期間にわたって年金に関わっていらっしゃったのですね。そのような経験を通して、公的年金制度の限界や企業年金制度についてはどのようなお考えに至ったのでしょうか?
 
公的年金は高齢者の生活を支える上で非常に大きな役割を果たしています。若い方々の間では、自分たちが高齢者になる頃には年金制度は崩壊しているといった話を信じている方々もいらっしゃるようですが、公的年金というのはそんなに簡単に崩壊するようなものではありません。公的年金の機能は、国家が続いている限り、なくなることはありません。
 
ただ、社会全体で高齢期の方々の生活を支える制度ですから、支える側と給付を受ける側のコンセンサスをどう見出し、「負担と給付のバランス」をどう取っていくかが難しく、そこが問題ではあるわけです。
 
しかし、様々なデータを見ても、公的年金が高齢者世帯の生活を支える大きな柱となっていることは紛れもない事実です。
 
とはいえ、「豊かな老後」を公的年金だけに頼るのは難しいことも現実としてあり、公的年金でカバーしきれない範囲については、将来的にはさらに厳しい状況になるでしょう。
 
まずは、公的年金について正しく学んでいただき、その上で企業年金や個人年金などの自助努力により老後のための資産形成をすることが大事だと思います。

中小企業こそ導入すべき「確定給付企業年金」

—公的年金だけで老後の生活を支えるのは厳しいだろうというのは多くの人が感じている点ですが、公的年金の不足分をカバーする企業年金制度が整っているのは大企業で、中小企業ではなかなか難しい状況ですね。 

そうですね、中小企業で働く方々も企業年金に加入しやすくなるような環境づくりについて、行政がもっと知恵を絞って行う必要があると思います。実際に、国も「iDeCoプラス」や「簡易型DC」のような中小企業のための制度を用意してはいますが、十分普及しているとはいえません。

総合型DB(確定給付企業年金)※は公的年金でカバーしきれない部分を解決する手段のひとつで、まさに「はぐくみ基金」がそうですね。

はぐくみ基金は、DXも活用して事業主における事務処理の負担を減らし、従業員への説明会も丁寧に行うことで、中小企業や介護・保育などの事業を営む小さな法人であっても導入しやすい制度になっています。

このような年金制度が、多くの中小企業や小さな法人に導入されていけば、公的年金の上乗せとなる老後のための資産形成がより進むのではないでしょうか。

※総合型DB:確定給付企業年金で複数の厚生年金適用事業所によって共同して実施されているタイプのものの一般的な呼称。中小企業が業種でまとまって実施するものが多い。

—これからは中小企業の経営者の方も、従業員の老後を考えた福利厚生を整えることが重要になってくるということでしょうか。

まず、人手不足の業界で優秀な人材を集めようと思えば、仕事の内容自体が魅力的でなくてはいけませんが、加えて、働く環境を良くしていくことが極めて重要になってきます。

退職金とか企業年金の制度はまさに「皆さんの老後まで考えていますよ」とアピールするポイントになります。そうしたことを意識している経営者は増えていると思いますし、これからの経営者に必須となる視点です。

「安心して働ける環境をつくる」社会的な意義の大きさに感銘を受けた

—井上特別顧問が初めて「はぐくみ基金」を知った時、どのように思われましたか?

最初にベター・プレイス社の森本社長とお会いして、はぐくみ基金について詳しくお話を伺ったときに特に2つの点で感銘を受けました。

ひとつは、はぐくみ基金の導入推進を担うベター・プレイス社が、社会的に意義のある取り組みをされているということ。保育、介護、福祉などの分野で社会を支えている方々の資産形成を助け、お金の心配をしないで仕事に打ち込める社会を作っていきたいという志が素晴らしいと思いました。

もうひとつは、はぐくみ基金の制度内容が非常によくできていること。

高齢化が進むと介護サービスなどのニーズは増え続けるわけですから、そこで働き、社会を支えてくれる人材はとても重要です。しかし全体的に給与が平均水準よりも低く、退職金をはじめとした制度が今なお整っていないことも多く、結果として慢性的な人手不足が課題となっています。

それを解消するには、先程申し上げたように、魅力ある職場づくりの一環として、退職金制度や年金制度を整え安心して働ける環境をつくることも大切です。はぐくみ基金の制度内容について伺い、介護や福祉などの現場で働く人々の将来への安心感につながる、社会的に意義のある仕事だなと感じました。

—実際に「はぐくみ基金」の内容を聞いて、井上特別顧問がこの基金に携わろうと思った理由についても教えていただけますか? 

いま申し上げたように社会的に意義のある仕事であると感じ、厚生労働省での勤務を通じて得られた自分の知識や経験を生かしてお役に立ちたいと考えたというのが、直接的な理由です。加えて根底には、自分自身のある思いがあります。

わたしが企業年金連合会に出向していた時期は、かつて企業年金制度の中でも中心的な役割を担っていた厚生年金基金について解散・他制度への移行を促す法律、いわゆる健全化法が施行された直後でした。当時は、同じ業界の中小企業が集まって設立された総合型の厚生年金基金が多く存在していたのですが、健全化法の施行後、こうした基金においては、総合型DBに移行できたものがあった一方、こうした移行ができずに解散することとなったものも多かったのです。このことによって、多くの中小企業が企業年金を失う結果となってしまいました。

企業年金連合会に勤務している間、総合型の厚生年金基金の総合型DBへの移行を支援することなどにより中小企業の企業年金をできる限り存続させたいという思いを強く持っていたのですが、具体的な取り組みを進めようとしていた途中で人事異動があり、同連合会を去ることになりました。中小企業の企業年金を守りたいという思いを遂げられず、残念な気持ちを引きずっていた自分にとって、森本社長の志は大いに心に響き、お手伝いをさせていただこうと思った次第です。

金融リテラシー向上の第一歩は「見て納得し、資金形成への関心を深めること」

—金融リテラシーが高い人とそうでない人には開きがあると言われています。特に福祉や介護、保育業界では、日々の仕事と暮らしに追われ、なかなか金融知識に触れる機会が少ない現状があります。 

現実を見ると、エッセンシャルワーカーの方々は社会を支える仕事をしてくださっているにもかかわらず、給料は決して高くありません。加えて、福祉業界などでは退職金制度も整っていないところが多いのです。

今、投資の話題が世間を賑わせていますが、これまで学ぶ機会もなく、日々の生活や仕事に追われる方に「さぁ資産形成をしましょう」と言っても何をしたらいいのかわかりませんし、投資と言われてもためらうのは当然といえば当然です。

その点、ハイリスクではなく安定した利回りを得て、資産形成を行うことができる「はぐくみ基金」は、これまで金融に関心がなかった方や難しいとなじめなかった方にも始めやすいですね。

少ない金額でも積立をして、仮想積立残高という形でその資産が増えていることを数字で見て、自分で実感できる経験をすれば、今度は次のステップにつながる方も出てくるでしょう。

—見えるというのは大切なのですね。たとえば、ねんきん定期便が始まって、もらえる年金がわかるようになったのはとても良いことですよね。

おっしゃるとおりです。わたしが社会保険庁に勤務していた頃にねんきん定期便が始まり、ねんきんネットでも自分の年金記録が見られるようになっています。 

自分のこれまでの加入記録や、今後、今の給料で入り続けたら将来どんな受給額になるのかが「見てわかる」ことで、実感が持てるし、実感が持てれば、老後の生活に対するシミュレーションもできるようになるでしょう。「自分ごと」として年金や老後の資産形成を捉えることがとても大切です。

「年金制度」を正しく理解し、豊かな老後のための準備を

—日本の年齢別人口はどんどん変化しており、少ない現役世代が高齢者世代を支える形になると言われている中で、今の現役世代に知ってもらいたい、訴えていきたいことはありますか? 

繰り返すようですが、公的年金の制度をまず正しく理解してほしいですね。公的年金については批判的な意見も多いですが、よく考えられた国の仕組みです。100歳、120歳まで長生きした場合でも、年金が支給され続ける終身型であり、賃金や物価の変動に応じて金額を調整して実質的に価値のある年金が支給されるシステムになっています。それに加え公的年金は、障害が残る事故や生計を支える配偶者の死亡といった突発的なリスクに備える機能も持つ、皆さんを守るためのとても大切な制度なのです。

その基礎的なことを十分にわかった上で、そこにどう上乗せをして老後の暮らしをしていくか、です。実際にどのような老後の暮らしを想定しているかで資産形成のあり方も変わってきます。

ですから、公的年金でご自身が考える「豊かな老後の暮らし」がどこまで可能なのか、思い浮かべる暮らしをするためには「いくら足りないのか」を踏まえ、資産形成について真剣に考えてほしい。

公的年金について学んだ上で、はぐくみ基金のような、わかりやすく始めやすいDBは、上乗せとなる資産形成の第一歩となると思います。はぐくみ基金を通じて、自身の資産形成を実感した上で、さらにiDeCoやつみたてNISAなどにトライしていくことも考えられるでしょう。年金制度に関心を持って、ご自身の生活設計を立て、資産形成へと結びつけて「自分ごと」としてしっかり考えていただきたいというのがわたしの願いです。 

—今日は厚生労働省での長いご経験をもとに年金について詳しくお話しくださり、ありがとうございました。


はぐくみ基金 特別顧問 井上 誠一
1986年東京大学卒業後、厚生省(現・厚生労働省)入省
年金局にて年金制度改正に参画。
社会保険庁年金保険課長・日本年金機構事業企画部長・障害保健福祉部企画課長・企業年金連合会審議役・内閣官房地方創生総括官補・社会保障改革担当室長等を歴任。
2022年2月 厚生労働省を退職。

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