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ほっつき歩く、Tame Impala の"The Less I Know The Better"を聴きながら

あなたの眼のなかの海に独り溺れたい
あなたの手のひらから離陸する爆撃機に焼き払われたい
あなたの唾液で酩酊し ついでに重低音の効いたTrap Beatで踊りたい
そういう願望に取り憑かれては
精液と残尿でシミだらけの、ペラペラの布団に酒を持ち込み、あおり、そして突っ伏す(実に私小説的だ)
そして夜中に目が醒める
吐き気を抱えて外を歩く
煙草を吸いながら
高台の公園の展望台からしょぼくれた夜景を見下ろすと
電照菊の電球の群れが干潟の砂州のように地表の闇から浮き出ている
カナブンがスマホの光に引き寄せられて俺の顔にぶつかるので、あわてて払いのけた
そいつは大学生ばかり住んでいるアパートへと飛んでいった
あのアパートの一室で
あなたが夜通し知らない人とヤっていたとしても
俺の心に嫉妬も落胆も、もたらさないだろう
というより、すでにあなたの顔を忘れかけているので
あなたのことなんて本当はどうでもいいのかもしれない
しかしながら
5年前の夏休み、大学の集中講座で隣になっただけのあなたを今でも思い続けているのは
自分でも意味がわからない
何か意義のある欲望の気もする
(たぶんなんの意味も見いだせないだろう)
この5年間
あなたにしっかりと受け入れられて睦み合っている妄想ばかりしていた
それは都合の良いファンタジーでしかないとわかっていていても
やめることはできなかった
そして今
お互いに大学からいなくなり
俺はというと病んでリスペドリンと缶チューハイに脳細胞を浸している
だけど俺自身のことを惨めだとは思いたくない
ときたま夜の大学に入り込んでは
蚊に刺されながら共通教育棟周辺をグルグルとほっつき歩き
身勝手な願望を込めた、あなたとの偽の思い出を夜の闇からひねりだそうとする
だけど、それも徒労に終わるだろう
大学周縁のループ道路を猛スピードで周回する軽自動車と原付バイクの群れ
ハザードランプの点滅光が、磨り減ったアスファルトの路面に反射して動脈みたいに波打ってる
俺の黒ずんだ血液が俺の輪郭を縁取る白チョークの線を越え、樹影みたいに路面に拡がっていく
それもまた妄想に終わるだろう
メビウスのオプションパープルのカプセルを噛み潰す、偽物の爽快感が舌に拡がる
ケヴィン・パーカーのうたう、ウジウジした男の歌がイヤホンから流れる
知らん男が横断歩道前の排水溝にゲロを吐いている、完璧なタイミングで
まったくもって俺に似つかわしい光景だ
一点の曇りもなくクリアで、一セントの価値もないから



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