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映画「モリーズ・ゲーム」(再)

 ねぇ、銀河系の中心の匂いってどんな匂いか知ってる?お酒のラムとラズベリーよ。

 こう言うと嫌悪感を抱く人が結構いると思うが(もう十分抱かれてるしいっかw)、ギャンブルが好きで、海外に行くと必ずカジノに寄る。やるのはポーカー、ブラックジャック、バカラ、ルーレットあたり。得意というわけではなくて、負けすぎないコツぐらいのテクニックは知っている。カウンティングは当たり前。ポーカーはブラフを、ブラックジャックはベーシックストラテジーのチャートを全部暗記している。ルーレットは2カラム2ダズンでコツコツと。カジノは運だけでは無い。戦略、すなわち生き方なのだ。

 さて、この映画紹介記事はnoteでの初映画紹介記事だったのだが、あまりにも素晴らしいので(記事が)再度観たくなって観たので加筆して紹介させていただきたい。

モリーズ・ゲーム

 カジノもの映画というものも好きでよくチェックしているが、これは2017年のアーロン・キーソン監督・脚本の米国作品。「ソーシャルネットワーク」「スティーブ・ジョブズ」の脚本といえば分かるかな。主演のモリーズ役はジェシカ・チャスティン。「ゼロ・ダーク・サーティー」「インターステラー」といえば分かるかな。実話をもとにした作品。

 厳格な父の指導のもとスキー選手としてオリンピック出場目前まで来て事故で夢を断たれ、単身ロサンゼルスで生活するようになる。ふとしたきっかけで名だたる富豪が集まる裏カジノの運営を手伝うようになり、その後独立し自ら合法的な、カジノクラブを経営するようになる。順調に拡大するが、しかし、経営は手に負えないほど大きくなっていき、ついには違法な手段にも手を出してしまい、さらには知らないうちにマフィアも絡んでいて、FBIの捜査が入るようになる。彼女は正義感からか顧客情報を売る司法取引は絶対にしたくなく、弁護士とも息が合わず、次第に追い詰められていく。

 カジノもの映画かと思っていたら、確かに七割はそのシーンだが、それはエッセンスにすぎない。アーロン・キーソンの巧みなストーリーテリングにより、140分の上映時間はスピーディーに展開していく。そして、物語の重要な核心は、彼女の高潔な、しかし難のある精神と、それを形作った原因に触れていくことになる。

 司法の追求も厳しく打ちひしがれていたところで、冬のニューヨーク、公園の仮設スケートリンクに気晴らしで寄ったところ、ふと逢いに来た父(ケヴィン・コスナー)と再会する。モリーは父を毛嫌いしており、早く切り上げたいがために、つい喧嘩腰になり言い合いになる。モリーは立ち去ろうとするが、父は強引に娘を座らせ、話しをしようとする。彼は心理学の教授でもあった。
「それじゃ、三年分のセラピーを三分でやろう…」

 質問1。首席でロースクールを卒業したのになぜポーカーの道に行った?
 モリーの答えは「なんで大金を稼ぎたくなったかって?難しい質問ね」
 …素直でない回答が、父の巧みな誘導で、つまり本心はこの私・父を征服したかったからではと推測を言い切る。モリーは猛反対する。パパのせいじゃない、と。

 質問2、質問3、と続いてずばずば真相に切り込んで行くのが圧巻である。彼は三分でモリーの心と原因を言い当て、同時に娘への深い愛情を告白する。物語は最後に、運命はちょっとした不運でつまずくことがあり、それも努力次第で取り返すことができるということを映像が示して幕を閉じる。

 人生を自ら切り開いて歩んでいくことは厳しい道程である。そして、意外にも運命には運が左右する割合は大きく、ある人は成功し、ある人は脱落していく。自分の不断の努力によって幸運を引き寄せられるという信念を持つ人も多いだろう。しかし、本当に自分の責任によらない部分で不幸に見舞われるという事実もまたあり、それに自責の念で悩む人も多いのだ。

 私も、自分の道は自分で決めて歩んできたから、それが痛いほど映画から伝わってきた…。

 冒頭の、銀河の匂いの話はそんなモリーがカジノを経営しながら趣味で学んでいた天文学の知識から。

 旺盛な好奇心を失わなければ、またチャンスは訪れるだろう。
 人生はカジノのようなものなのだから。


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