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手話通訳放映されなかった東京オリンピック開会式:多様化する情報保障の選択

「多様性と調和」のオリンピックで起きた言語的マイノリティの排除

東京2020オリンピックでは開会式で手話通訳がつかないことで、多くの当事者から落胆の声が上がっていました。

手話通訳が必要なのは、手話を使用する人が日本では8万人いると言われており、字幕だけだと理解が困難な人がいるためです。私は、手話という自分の言語を国民的イベントで尊重して欲しいと思い、以下の記事を書きました。

言語的マイノリティの声が当局に届く

この事態を受け、全日本ろうあ連盟をはじめ、NPOインフォメーションギャップバスター、超党派の地方議員からなる手話推進議員連盟などの各団体や多くの方々や議員がNHKなどに手話通訳をつけて放映して欲しいと要望しはじめました。

https://www.jfd.or.jp/2021/07/26/pid22283

https://www.infogapbuster.org/?p=4779

イベントでの初の試み「ろう通訳」の意義

多くの方からの要望を受け、NHKは手話通訳放映を検討することになりました。その結果、オリンピック閉会式では、手話通訳が放映されることになりました。

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Eテレではオリンピック中継の映像の右側にろう通訳が第一言語である日本手話を使用して通訳をしていました。ろう通訳は、ろう者がフィード通訳者(フィーダー)と呼ばれる聴者の表す手話を読み取って、自分の使用している日本手話に通訳する形で行われています。

「ろう者と聴者の協働作業であり、テレビ画面に映らない聴者のフィード通訳者(フィーダー)にも関心がある!もっと知りたい!ろう通訳の裏側のドキュメンタリー希望!」などの声が多く上がっています。

たまたま台風速報が入って総合テレビが放映を中断したこともあり、多くの人がEテレに流れて、手話通訳を見る形になったため、多くの人の注目を浴びて、Twitterでは「手話の人」ということでトレンド入りするほどでした。

https://www.nikkansports.com/olympic/tokyo2020/news/202108080001246.html

多くの当事者からはろう通訳がつくことで内容がリアルタイムで理解できるといった歓喜の声が上がりました。

また、当事者だけでなく、当事者の家族からも感激の声が上がりました。
紹介するツイートはSODAという聞こえないきょうだいを持つ聞こえるきょうだいのたたみさんと「ろう者の家族がいる弁護士」の藤木和子さんです。

大事なのは、一人も残さず、共に同じタイミングで感動を分かち合えることです。今回、ろう通訳はろう者にも感動を伝える重要な働きをしました。

初めての試みで出てきたさまざまな反応

今回、初めてイベント全体に手話通訳がついたことで、様々な反応が出てきました。

初めて手話通訳を見た一般の方が手話の人(=手話通訳)が何もしていないのがシュールという感想が出てきました。

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これは音声による情報が何もないため映像を見てくださいという場面です。手話通訳はすべて機械的に音声を伝えるのではなく、必要に応じて省いたりすることもあります。英語や仏語のアナウンスの時も同様です。このように手話通訳の仕方に対して、一般の方の理解もこれから広まって欲しいものです。

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上の写真の通り、時間帯によっては、手話通訳が同時に2人映る現象が発生しました。総合テレビでは、バッハIOC会長、橋本組織委会長の挨拶の時だけワイプで会場にいる手話通訳(聴通訳)を合成で放映していました。Eテレはおそらく総合テレビの映像を流用していたため、同時に映されることになったのではないかと推測します。

次の画像は総合テレビの様子です。

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そのため、一部の視聴者からは、「どっちを見たら良いか分からない」「ろう通訳の必要を認識した」「ろう通訳と聴通訳を比較するにしても双方への敬意が必要」というコメントがありました。

また、「ろう通訳が気になり、字幕の内容が入ってこないので総合の方に手話通訳のない字幕を出して視聴した」「字幕表示が遅れて表示される」といった情報が競合・干渉する現象が見られました。

どれが優れているかということではなく、多様な形態の中で、自分のニーズに合っている選択肢を自分で取捨選択できることがとても大切です。

オリンピック閉会式直前の8/8に開催された緊急オンライン集会【多様性と調和のオリンピックに手話通訳を!】で、ろうの家族がいる藤木和子弁護士は、「『障害者権利条約』や『障害者基本法』では、言語に手話を含んでいる。手話は法的に認められている言語。障害者差別禁止法では『合理的配慮』を義務付けられている。Eテレで、ろう者の手話通訳が放送されることが喜ばしいが、総合テレビとEテレで分けることには違和感がある。『多様性』と『調和』は相反する部分もあり、難しいが、まずはどう実現できるのかを考えていくことが必要だ。次のオリンピック・パラリンピックにつなげていきたい」と語っていました。

藤木和子さんは今回の経緯をご本人のnoteに詳細をまとめています。家族の立場でどのように感じたかを赤裸々に綴っています。また、私が紹介できなかったSNSでの反応の紹介もあります。こちらもよろしければご覧ください。

今のTV放映では、残念ながらこの多様な形態を取捨選択できる仕組みはありません。しかし、実はすでにこの仕組みを実現できる規格は存在しています。それは、国連専門機関で承認された IPTVアクセシビリティ国際標準 ITU-T H.702です。日本では、国内標準JT-H702がすでにあります。TV局やTVがこの標準規格に対応することが必要になってきています。

民間でIPTVの普及のために活動しているIPTVアクセシビリティコンソーシアムという団体もあります。今後こういった団体などにより、アクセシビリティ規格が普及することを期待しています。

http://www.iptv-acc.jp/

すべての人が等しく情報を得ることができるアクセシビリティが1日でも早く実現できることを願ってやみません。

オリンピック閉会式の情報保障(手話通訳・字幕)に対するアンケート実施中

現在、NPOインフォメーションギャップバスターと超党派の地方議員からなる手話推進議員連盟が連携して実施しているオリンピック閉会式の情報保障(手話通訳・字幕)に対するアンケートでは、2,445名のうち84%(2,059名)がEテレの手話通訳を良かったと回答、また、70.9%(1,738名)がNHK総合に手話通訳を希望しています。(8/12 11時時点)
回答は、8/15まで受付していますので、よろしければご協力ください。

https://forms.gle/EWhypAKx6fnokK9b6



あらゆる人が楽しくコミュニケーションできる世の中となりますように!