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いつのまにか少女は【創作日記】

 近所の居酒屋に来るおじさんは、とても話し好きの人だった。わたしは二週間に一度の頻度で、そのおじさんと遭遇する。会うのは決まって金曜日の夜。常連さんは八席ほどのカウンターに座ることが多く、三ヵ月も通えば顔見知りになり、酒場の常連客として雑談の仲間に加わる流れになる。

 その日、おじさんはいつもより酒量が多かった。白髪頭のおじさんは還暦を過ぎていて、もうすぐ年金生活者になるという。

 その居酒屋の客は中高年が多く、BGMもその年代に合わせるような「懐かしの歌謡曲」や「懐かしのポップス」の音楽が流れていることが多い。

 酒を飲むと多弁になるおじさんは、急に瞼を閉じて黙り込んでしまった。そして物思いに耽るようになった。

「いつのまにか少女は……か」思い出したようにつぶやくおじさんの表情が、一瞬、泣き笑いの表情に見えた気がした。

「知ってる歌手ですか?」

「もちろん。……井上陽水だよ。中学生のころにヒットしていた曲でね。あのころ、よく聴いたなぁ……」

「思い出の曲なんですね」

「うん、まぁね」

 と言ったおじさんは飲みさしのビールジョッキのグラスを飲み干し、中学生のときに体験した初恋のエピソードを語り始めた。それはこの曲の歌詞と同じような叙情的な物語だった。

「いつのまにか少女は」 別バージョン

味わい深い雰囲気があります。聴き比べてみるのも面白いかもしれません。

切なくなるような、ロマンスが滲んでいる感覚を呼び覚ますような物語。そんな恋愛小説のかたちを描いてゆきたいと考えています。応援していただければ幸いです。よろしくお願い致します。


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