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日本のクラフトビールが終わる日

記事の内容:

● 米国の醸造所の約60%が3ヶ月持たない
● 日本の醸造所の将来も不明
● 醸造所のコロナ対策と戦略について
● クラフトビールファンとしてできること

「売り上げが以前の10%になってしまいました。」——そう語るのは、栃木・下野市で醸造所「うしとらブルワリー」を運営する株式会社うしとらの代表 寺崎晶王氏だ。寺崎氏と話すウェブ会議の後ろで、うしとらの従業員が必死にビールの瓶詰め準備をしているのが見える。

クラフトビール業界では、コロナ以前は利益率の高い樽の出荷が売上の大半を占めていた。しかし毎年大量の樽を出荷し大きな利益が期待できていたビールイベントが次々中止になり、樽の卸先であるビアバーも大半が休業中である。

瓶の販売は樽に比べコストが掛かり時間も取られ、クラフトビールの価格がさらに高くなってしまう。それでも樽での販売ができない現在は瓶でビールを売るしか選択肢がなくなった。

世嬉の一酒造株式会社 (いわて蔵ビール)の佐藤 航社長に電話で現状について聞いた。
「コロナ以前は売上の5割くらいが飲食店で、業務卸は4割、個人売は1割くらいだった。今は全く逆転して、、、全体の売上が一気に下がっています。半分くらい。」

クラフトビールは小ロットでバラエティが豊かなものだが、ビジネスは量の勝負だ。
アフターコロナの世界でクラフトビールが生き残れるだろうか?

コロナショック

米国の59.9%のクラフトビール醸造所が3ヶ月以内になくなる (米国ブルワー協会)。有名なストーンブルーイングでも全社員の約30%、306人を解雇せざるをえなかった(San Diego Union-Tribune)。

「借金が多いというのは怖い」Anglo Japanese Brewing Company合同会社 代表 リヴシー絵美子氏

われわれBest Beer Japanの独自アンケートによると、このままの状況が続くと、日本の醸造所の56.4%が1年以内に破産する可能性がある。

問題はビール業界だけでは終わらない。リーマンショック後、2009年に世界GDPがマイナス0.1%に落ちたが、国際通貨基金によると今年の世界経済の成長率はマイナス3%まで落ちると予想されている。

回復までの道は長い。以前の社会に戻るにはワクチンと集団免疫が必要で、ビル・ゲイツによるとワクチンの開発は最短9ヶ月かかる (Bloomberg)。中国の武漢市を参考にするとロックダウンは76日間であったが、77日目に経済が100%に戻るわけではない。現在でもほとんどの店が閉まっている (The Guardian)。

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ビールはどうなっている?

2019年4月の1週目に比べるとアメリカのスーパーと酒屋で販売されているビールの量が19%増加 (ニールセン)。しかし、缶・瓶はクラフトビールの出荷量の7%にすぎない (BrewersStats)。醸造所の売上は平均で75%急激に下がった(米国ブルワー協会)。

日本では「宅飲み」や「オンライン飲み会」がキーワードになっているが、昨年の3月に比べると大手4社のビールの販売量は27%減少している(日本経済新聞)。不況が続くと、価格を気にする消費者は、安価で種類が豊富なRTD (Ready to drink そのまま飲用可能な缶チューハイなど)や第3のビールを飲み続けるだろう。事実、第3のビールの1つ「本麒麟」は、3月の販売数量が31%増している(Diamond Online)。

一般社団法人日本フードサービス協会によると3月の外食市場は17.3%減になった。クラフトビールの卸先として大きな割合と占めるビアパブ、ビアホールの売上は昨年に比べ、53.5%も減少した

Brewery 販売先

第10回 地ビールメーカー動向調査 (株式会社 東京商工リサーチ)

Direct to Consumer (D2C) 変化

「ビールは全て瓶詰めにしている」NOMCRAFT BrewingのAdam Baran氏

Best Beer Japanのアンケートによると、醸造所の新戦略の70%が直接顧客へ販売するD2Cへシフトしている。コロナ以前に出荷が100%樽だったうしとらブルワリーのような醸造所も取り急ぎ瓶と缶の出荷ができるように準備中。

樽の売上の差を新しい販路でカバーしようとしている。例えば、先日いわて蔵ビールはメディアの「ビール女子」とコラボして、ビールを購入した方限定のオンライン醸造所見学を開催した。

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複数回答可能

キャッシュアウトまでにギャップを超えられるか

クラフトビールのような限られた市場でD2Cが難しいところはマーケティングだ。一気に全社がネット販売に変わると、限られている顧客を奪い合うことになる。またほとんどの醸造所がオンライン広告の運用経験がない。

マーケティングの経験がある人が作ったFacebook広告でも、クリックする人は平均で0.90%。ECサイトに飛んだ人が80%ビールを買うことにしても、クリック単価を80円にすると獲得コストが11,000円以上になる。新規顧客が3,000円の6本セットを1度だけ購入しても大赤字だ。

一が七になる

業界の利益率は公開できないが、出荷量で上記のD2Cの難しさを考えてみよう。

「ピーター醸造所」が去年ビールを60キロリットル生産したことにする。ビールを全て15リットルの樽で販売している。コロナの影響で、容器を330mlの瓶に変更し、同じ15Lを販売するには瓶を約45本出荷しないといけない。

6本セットとして販売すると、1店舗へ出荷した量が7人のお客様分になってしまう。そして1ヵ所で済んだ出庫準備と送料も7倍になる。

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先月NOMCRAFTが出荷した1,500本以上の瓶の準備は2日間かかったそう。瓶詰め、ラベル貼り、発送伝票の作成や他の出荷の準備が各6本セットで10分かかると上記の例は210労働時間がかかる。72%の醸造所は従業員が10人以下である (株式会社帝国データバンク)。ビール造り、事務作業、酒税管理ですでに忙しい醸造所が4人で毎日8時間働くと、上記の例だと6日かかる。

会社のリスクだけではない


今は大手さえ危険な時である。アメリカの失業率は15%まで上がると予想されている (Congressional Budget Office)。日本はコロナの影響で失業率が3%になる(東洋経済Online)と予想されている。経済協力開発機構(OECD)のデータを見ると3%はコロナ前でも37カ国中4番目の低さなので他国に比べると失業率は低い。

失業率は比較的低いが、日本では醸造所のような小企業は経営者や家族が会社の保証人になることが多い。「まだ私たちが大きい工場にして2年半で、工場の借金が残っている、、、借金が多いというのは怖い」売上が10%になってしまったAnglo Japanese Brewing Company合同会社 (AJB) 代表 リヴシー絵美子氏が子供の面倒を見ながら語る。「小さい会社だからこそ、手取りのキャッシュは本当に2ヶ月分しかない。」会社が倒産すると工場の借金がリヴシー氏にのしかかる。

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AJBチームの一部: 小林新吾、 リヴシー・トム、 絵美子、 ルイ、 佐藤孝洋

家族経営の醸造所は少なくない。TKBrewing、アンドビール、2nd Story Ale Works、Two Rabbits Brewing Company、Brimmer BrewingやAJBは家族で運営している醸造所の一部である。

コロナショックを乗り越えてもリスクが終わらない。醸造所が生き残るためにさらに借り入れをするとコロナ前の通常に戻るだけではなく、それより売上を伸ばさないといけない。 AJBは将来に向けて、ビールとミールキットの販売する新サービスを立ち上げて、国からの助成金も全て申請した。人件費のコストなどを下げず、チームとして乗り越える予定である。

「大変だけど、、、どうやったらポジティブに皆で乗り越えられるかを常に一番のプライオリティで考えている。」

クラフトビールファンができること


記事をまとめると

● 50%以上の醸造所が1年以内に破産するおそれがある
● スーパーなどの売上は期待できないが、瓶・缶で売るしかない
● 新規のお客様を獲得できない
● 醸造者のリスクは会社の破産だけで終わらない

クラフトビールを救いたいならファンとしてできることは:

1. ビールを飲むならクラフトにする

醸造所は数ヶ月のキャッシュしかない。国からの融資が届くまで今は大事な時期だ。クラフトビールはビールしかないが、大手は多様な商品がある。アサヒグループの酒類事業の売上収益は、洋酒やRTDが中心になっている。0.68の流動率だけをみるとアサヒの経営状況が少し不安に見えますが、5月7日に世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブから約1兆2千億円でオーストラリアビール市場を45%持つカールトン&ユナイテッドブリュワリーズ(CUB)の買収を実行することになった。取締役会はそこまで心配していないだろう。


2. 6本セットより大きいロットで注文する

大きいロットで頼むとリットルあたりの送料が抑えられる。出荷作業を減らすことができ、新規顧客を見つける負担も減らせる。

3. 1回以上注文する

毎月が勝負になっている。ビアバーに行くのと同じ頻度でビールを注文しないと売上のギャップを埋められない。

4. ビールだけではなく、利益率の高いグッズも購入

出荷量が下がると賞味期限までにビールを売り切れないので醸造所が仕込み日を少なくすることがある。ビールがなくても別な形で応援しよう。ビール購入時にグッズも一緒に購入すると出荷作業を効率よくできる。

5. 醸造所が新しい人にリーチするために
A. ビールを飲む時に醸造所の「#ハッシュタグ」や株式会社CRAFT BEER BASEの谷和社長がスタートした支援タグ「#ビールで明日を幸せに」を使う。

B. 家で暇している友達へビールを送る

醸造所は新規顧客獲得の時間とお金がない。好きなビールをSNSでポストしよう。

6. 父の日、誕生日や祝日のプレゼントはビールにする
クラフトビールは100種類以上あるので普段ビールが好きではない人でも楽しめる。好きなものを好きな人へ、一石二鳥だ。

7. ビアバーからテイクアウトをする

ビアバーはクラフトビール業界にとって大事な存在だ。コミュニティーの中心になっている。コロナ後も醸造所のメインの卸先になるので応援しよう。


醸造所の通販サイトの紹介

Best Beer Japanが下記にECサイトがある醸造所を地図でまとめている。地図のピンを押すとECサイトのリンクに飛ぶことができる。

Best Beer Japanの市場アンケートはデータを匿名化し、醸造所やメディアに公開中。ご興味がありましたらお問い合わせください

三密を守って、皆様が健康で安全にこれを乗り越えられるように。
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#ビールで明日を幸せに

by ピーター ローゼンバーグ Best Beer Japan 代表取締役

#クラフトビール #ビール #お酒 #通販 #コロナウイルス #コロナ

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