知性とゆるさの狭間で〜柳瀬尚紀「猫と馬の居る書斎」を読んで
柳瀬尚紀さん
英文学者、翻訳家で、競馬好き。そして猫好き。
競馬場で配られるレーシングプログラムのコンテンツ『馬名プロファイル』を担当していた方です(2016年7月に逝去されていて、最後のプロファイルは前月6月の宝塚記念だったそう。)
また、新馬戦の呼称「メイクデビュー」の考案者でもあるそうです。
この「猫と馬の居る書斎」は、柳瀬さんの競馬エッセイをまとめたもの。
馬名プロファイル
競馬場で入場券を手渡し、いざスタンドへと向かうというところで無料で配布されるレーシングプログラム、略してレープロ。
G1開催時のレープロに掲載されていたのが「馬名プロファイル」で、柳瀬さんが独自の解釈で出走全馬をプロファイル(紹介)しています。
今手元にあるレープロからもう少し抜粋すると・・
柳瀬さんは馬券を買っていたのだろうか?という疑問
このプロファイルは馬券予想ではなく、馬名の分析を通じた出走馬の紹介だと思います。柳瀬さんの買い目もわからない。というか、自分は「この柳瀬って人は馬券は買っているのかな?」と思いながら読んでいました。というのも、まずはその学者という肩書き。
学者としての知見を活かし、純粋に馬名を解釈することで馬名に隠された意味合いを探求しているのかな?と思えた。でも、それにしては明らかに競馬を楽しんでいないと書けない文章だよな、とも思い・・。
ただ、もうひとつ「この人、馬券買っているのかな?」と思った理由がありました。それは、このプロファイルを読んでいると、かなり多くの出走馬に勝つチャンスがありそうに見えるのでした。
フルゲート18頭いたとしたら、12〜13頭は馬券圏内ぽく読め、それ以外の馬も「消し」というわけではなく、微妙な表現。。(上記宝塚記念のラブリーデイの例など。「いや、だから何なの?買いなの?」とツッコミを入れたくなる。)
レープロめくりがいつの間にか基本動作に?
・・と、結構な長い間、「この学者さんはいったい・・?」という疑問を持ちつつ、かといって疑問を解消しようとも思わず過ごしてきました。
✔︎競馬場に着いてレープロを取る。
✔︎馬名プロファイルのページをなんとはなしに覗く。
✔︎自分が気になっている馬や人気馬のプロファイリングを見る。
✔︎そして、「うーん、買いなのかどうなのかはよくわからん・・」という感想とともに他のページをめくるか、もしくは早々に鞄にしまってしまう。
✔︎そしてまた明くる週、同じような動作を繰り返す。
このコンテンツがレープロに掲載されるGⅠ開催日に限ってですが、競馬場についてからの基本動作のようなものになっていました。
このエッセイで柳瀬さんの買い方がわかった。
この本の存在を知ったのはごく最近。
あ、あのレープロの人の競馬エッセイか!と思い、すぐに入手しました。(2003年発行なので、古本で。)
「この人は馬券を買っているのだろうか?」というかつての問いの答えがありました。
柳瀬さんはばっちり馬券ファンでした。それも、G1だけではなく、しっかり平場から手を出しているほどの馬券好き、ケイバズキ。
そしてその買い方は独特。
書斎で愛猫と語り合いながら、モバイルメイトという馬券購入専用端末を駆使して『猫万馬』なるものを狙うというもの。『猫万馬』は柳瀬さんの造語で、この本に定義を載せている。
そして、たびたび、猫にあやかった買い方の実践例が出てくる。例えば、
馬券の買い方は百人百様
もちろん、如何に猫好きの柳瀬さんでも、全てのレースで猫に掛けた買い方はしておらず。おお、さすが英文学者というアナグラム(言葉の入れ替え)を駆使した買い方も。
このレースでエイダイクインは人気薄で3着とまさに好走を見せるも、柳瀬さんは馬連流しでワイドを抑えておらず。愛猫とメザシを分かち合ったそう。旨いエピソード(笑)。
やはり狙いはアナグラムを発見したクロフネからか、と柳瀬さんは記す。そして相手に選んだ1頭、エアヴァルジャン。この馬名プロファイルを書いたら、「そら来たジャン!」という具合に、エアヴァルジャンが連に絡みそうな気がしてきた、だって。
知性とゆるさが同居した楽しいエッセイ
知性を端々に感じるエッセイながら、絶妙なゆるさも楽しいエッセイです。
読みながら、競馬場でレープロに目を落としながらひとりつっこみを入れていたのを思い出しました。
この記事を書いていて気になったのが、そういえば、ネコパンチって馬いたよな、、この馬、2012年の日経賞で単勝万馬券の大穴を開けたあと、キャリアで唯一のGⅠ出走として宝塚記念に出走していますが、残念ながらそのレーシングプログラムは持っておらず。
柳瀬さんがどんなプロファイルを書いていたのか、気になるところです。
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