見出し画像

読書の愉しみに思い至る。〜森 繁和「参謀」を読んだ。

「嫌われた監督」を支えた森コーチ。


先日、「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」を読み感想記事を書いた。

分厚い本で、ずっと買うのをためらっていた本だったが、買って読み始めたら引き込まれて一気に読み終えてしまった。

そして、落合監督を支えた森コーチの著書があることを知った。
こちら。

2014年発行(文庫版)
「嫌われた監督」より古い本。

コワモテの森さん。
この表紙は、緊張と緩和を活かしたいいポーズと表情だと思う。笑。

この本では、落合監督との縁、監督の元で投手コーチ、バッテリーコーチ、ヘッドコーチと役割が変わっていく中でどのように仕事をしたか、一般の会社勤めの人間にも役立つようなチーム作り、組織運営の話がたっぷり綴られている。


落合さんは、嫌われていたのか?


直前に「嫌われた監督」を読んでいたので、側近の森コーチから見て落合さんがどのような人だったのか、関心が強かった。

しかし、ある意味その読み方で「参謀」を読むと、”拍子抜け”に近い感覚がある。

森コーチにとって落合監督はただただ信頼の置ける監督であり、いかに二人の絆が深いかは、様々なエピソードを通じて伝わってくる。

森コーチのように常に落合監督の側にいた人間から見ると、落合監督の言動の意図がわかるので、他の人間が感じるような「謎」を感じることがない。

そんな森コーチの著書なので、「嫌われた監督」で感じたような、ミステリー小説を読んでいるようなワクワク感はなく、それが”拍子抜け”と感じた理由だと思う。

”読書の愉しみ”という意味では、謎解きの仕掛けが数々ほどこされた「嫌われた監督」の方がぐいぐい引き込まれる本の力があった。


結局、落合博満とは。


「嫌われた監督」
を読み、落合さんの監督時代の鉄面皮や秘密主義は、相当無理をしていたのではという印象を持っていた。

しかし、youtubeの落合x森対談や、江川卓さんとの対談を視聴し、そしてこの本を読み、やはり監督時代の落合さんの鉄面皮は演じていた部分が大きかったことがよくわかった。

落合さん自身、「しんどかったよ〜」と言っており、試合の時に度々ベンチ裏で感情を吐き出し、またベンチに戻って無表情を装っていたらしい。

真実がわかってしまうと、人間、拍子抜けしてしまうものなのだと改めて思った。

数々の動画や、「参謀」に書かれている落合さんの発言は本音そのままなのでドキッとするところもあるが、人間味があり、とても「嫌われた」人間のものとは思えない。

結局、落合監督の言動は、チームにとって何より重要なのは「優勝すること」であり、選手にとっては「長くプロ野球選手として活躍すること」ーという信条に基づいたとてもシンプルなものだったのだろう。

チームとしての情報統制がしっかりされており、それが特にマスコミから接した時に、情報が取りにくい、記事が書けない、という不満につながり、ファンから見たら、星野監督時代の時に特に顕著だった、エンターテインメントを含めて野球を楽しむ、という側面が失われてしまったのかもしれない。

つまらないと言えばつまらないかもしれない。

十年に一度しか優勝しないけど、”面白い球団”の方が、ファンは喜ぶ、という側面もあるかもしれない。

ただ、落合さんは”チームを勝たせる、優勝させる”という契約に基づき監督になったのだから、その一点に徹したチーム作りをしただけ、ということなのだろう。


「参謀」の内容。(そして、落合監督待望論。)


「参謀」の読書感想記事なのに、落合さんの話に偏ってしまった。。

この本の内容についても、少し触れたい。

この本では、社会人時代からの森さんと落合監督との縁、根本陸夫さんの落合さんに対する”予言と助言”(「監督をやるなら森を使ってみろ。」)、落合政権を支えた有能なコーチ陣(高代延博や、石嶺和彦など。)はどのように集まったのか、そしてコーチ陣を落合監督がどのようにまとめていったかが、数々の具体的なエピソードとともに綴られている。

また、ドミニカ野球界とのパイプ作りの話や、ドミニカの選手たちと森さんとの絆の話は特に面白かった。

チームの中では、森さんは自身を”中間管理職”と位置づけ、監督と選手間、監督とコーチ間のコミュニケーション中継役として重要な役割を果たした。
コーチ就任時は投手コーチだったのが、徐々にバッテリーコーチ、ヘッドコーチと責任範囲が広がっていったことからも、落合監督の信頼が厚かったことがわかる。

「嫌われた監督」を読んでも感じたことだが、首脳陣の役目が非常に明確で、そして各人が自分の役割に自覚的であることが、チームの安定的な強さとして結実していることが伝わってきた。

森さんは、落合監督の二代後に中日監督を務めた谷繁元信氏をやはりヘッドコーチとしてサポートし、自身も2016年の途中から2018年まで監督を務めた。

しかし、その時代を含め、落合監督退任後、中日は優勝から遠ざかってしまっている。

「参謀」にも書かれていたが、強いチームを作るのは大変な努力と時間もかかることだが、チームが崩れるのはあっという間、ということだろう。

私は中日ドラゴンズファンではないが、”落合監督待望論”は強いのではないだろうか。

しかし落合さん、あの鉄面皮は演技だったことはもう世間にバレてしまっているので、もし今度監督をやるときは、どんな演技を見せてくれるのだろう。。。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?