『眠り姫に月の涙』企画・プロット
【企画案・『眠り姫に月の涙』~シィちゃんの恋~】
テレビドラマは夢の世界。フィクションに一喜一憂したい。
近年「毒親」「親ガチャ」という言葉が当たり前に使われるようになった。「家族だから〇〇するのは当然。仕方ない」に縛られ我慢し疲弊する現実社会。だから今、瞬と静穂の物語が必要だった。
【テーマ】 愛する人の幸せを願う。何気ない温かい日常を描いたドラマを今。ピュアでけなげな孝行息子・瞬(シュン)と、育ての母・静穂(シィちゃん)のお互いを思いやり過ぎるゆえにシンクロするホームラブコメディ。スマホでこっそり見るのではなく、家族みんなで笑いながら、時に感情移入しながら観てほしい。子供も一緒に楽しめるラブ要素もあるホームドラマ。
瞬の静穂に対する想いは「恩」なのか「恋」なのか。そこから物語は始まる。静穂は親友の子である瞬を引き取ったタイミングで恋人と結婚前に破局。15年たった今、瞬がそのことを覚えており、責任を感じ続けていることを知る。静穂は自分が恋愛し結婚することで瞬を「責任」から解放してあげたいと思う。一方の瞬は、静穂に結婚してもらうことで自分への「養育」から解放されてほしいと思っている。その反面、本当は自分が幸せにしてあげたいというジレンマがある。お互いを思いやる気持ちがほのぼのと温かく、切なくもあり、時としてユーモラス。基本はコメディである。視聴者には、日常の煩わしさから離れ、ほっこりと幸せな気持ちになってほしい。青春時代を懐かしんでほしい。今を重ねてほしい。将来として夢見てほしい。
【ターゲット】 幅広い年齢層、ハートフルコメディを好む視聴者。
主人公の瞬は外見を裏切り、実はヘタレのこじらせ男子である。その人懐こさと迷走ぶりに、母性本能をくすぐられ守ってあげたくなる。最後まで応援し見届けたくなる。一方で、瞬の親友やライバル、静穂の元カレ、今カレ、老齢の父などのイケオジの人生観やライフスタイルも描かれることから、男性層が見ても共感できる要素は十分にある。
毎話ごとにテーマがあり、眠り姫(静穂)への恋心、ガールフレンド、元カレ元カノ、母、父、友人、ライバル、実父との対面、結婚に絡めてストーリーが進む。結婚が幸せのゴールではない。でも、結婚によって何かが変わる。家族って何? 血のつながりとは? 最終話、静穂の結婚はどうなるのか。瞬は養子になることを選択するのか。瞬と静穂の15年に渡る家族の形がどう変わるのか。瞬と美優の恋はどのように進展するのか。その結末に向けて人間模様が展開していく。
【アピールポイント】 とにかく瞬が好青年、静穂がカッコいい女性。
第一話で主人公たちを強烈なまでに好きになってもらう。次週も会いたいと思ってもらう。登場人物は皆、魅力的で愛おしいキャラである。それぞれが可愛く、かっこよく、優しく、思いやりがあって、どこかユニークな要素を兼ね備えている。それは現実逃避できる夢のような、やさしさにあふれた理想の世界である。反面、現実として身近にある人間模様ともリンクしている。家族、友人関係、恋愛と結婚について一緒に考え、前向きになってもらえるような物語。
【見どころ】
・瞬と静穂のやり取りが時として夫婦漫才や心理的攻防戦のようで楽しい
・瞬と静穂に起こるエピソードがいつも面白いほどシンクロしている
・瞬と静穂の恋愛下手ゆえのバタバタぶり
・瞬の作る多彩な料理
・静穂のお手本のような上司像と母親ぶり
【瞬という青年】
・教師を目指す大学生であり、真面目、勤勉、家事完璧の一見クールなイケメン
・次第にポンコツ、ヘタレ、こじらせ、迷走ぶりが露呈し笑える
・静穂の幸せを切に願っている。静穂は理想の女性であり憧れ
・自他ともに認めるママっ子男子(母親大好き、仲良し)。静穂は最強で最高の女性
・静穂に迷惑をかけたくない。喜ばせたい。尽くしたいがライフワーク
・女性(年齢問わず)が放っておけない応援したくなる男子
・笑顔が武器。瞬が笑うと視聴者もつられて笑っている(俳優器量による)
・予測不能で突拍子もない行動、言動をしがち。天然
・静穂のことになると、あれこれ考え過ぎて沼にハマる
【静穂という女性】
・瞬いわく「明るくて、楽しくて、面白くて、強くて、大きくて、温かい」
・25歳で親友の子供を引き取るという男気と母性。バイタリティの塊
・大手飲料メーカーの企画宣伝広報担当チーフ。後輩にも好かれるキャリアウーマン
・疲れてうたた寝をよくする言い訳として、眠り姫と名乗る。酒豪である
・瞬のことで両親の理解が得られず、特に父親からは、ほぼ勘当状態
・確かに恋愛どころではなかったが、そもそも結婚願望は強くない
・恋愛も久しぶりなので、少々あたふたしている
・恋愛に関しては後輩に助言を求めてしまう気弱な乙女
【美優という女性】
・大学入学で札幌から上京。入学式で瞬に一目ぼれ。ひたすら一途
・実はトリックスター的存在で、瞬の「脱シィちゃん」への起爆剤
・2話では小悪魔ぶりを存分なく発揮。瞬の背中を押すよき理解者
・友達→ガールフレンド→恋人→静穂越えに挑む
【瞬の親友・幸太】
・瞬と中学・高校・大学と一緒の親友(実は幸太が一緒を選んでいる)
・瞬のことをとてもよく理解しており、放っておけない。世話焼き
・人を気遣い、思いやりがある。やさしい。ユーモアがある
・瞬の親友ポジションを美優に侵食され始め、内心とても寂しい
【キャスティング】
佐伯瞬(20)20歳設定だが同世代の俳優が演じると幼く見えてしまうので、できれば25歳くらいで演技力の高い、新鮮味のある俳優に演じてほしい。内面から滲み出る清潔感、好青年感、そして何よりも天然である。イメージは、高野洸さん。周りに伝染させるような笑顔を持っているのと、涼しい表情からすーっと流す涙が秀逸。声に温かみがある。
星野静穂(40)実質的な主人公。イメージは天海祐希さん的な女優。今だと少し若いが、まさに長澤まさみさん。背が高い姉御肌のキャリアウーマン。母性があって、頼りがいがあって、変顔もできてしまうコミカルさ。プロレス技をかけるのに女性として美しい佇まいが見え隠れ。そんな吹っ切った演技ができる実力派女優さんで。
笹本美優(20)一見、線が細く痩せていて弱々しく見えるが、実はしっかりしていて芯が強い。ちょっぴり小悪魔的でいい子になりきろうとはしない。意外性と行動力がある。イメージは、関水渚さん。女性からの好感度が高く、どこか応援したくなる魅力がある。演技に振り幅がある。祖母、母親目線で見ても、とにかく可愛い。
【全体構成・全10話あらすじ】
第1話 スリーピング・プリンセス
「あなたには幸せになってほしい人がいますか?」
瞬は幼い頃、亡くなった母の親友である静穂に引き取られた。静穂は恋人の森野と、そのタイミングで破局。瞬はその光景をはっきりと覚えている。静穂が涙をごまかすために「月の涙」と言ったことも。その後、静穂は仕事と育児に追われ恋愛とは無縁の日々を送る。そんな静穂に報いるかのように、瞬も家事とバイトに終始、同じ大学の美優に交際を申し込まれるも形式だけのつき合いになっている。美優は様々な事情を理解しつつも、ある日突然、瞬にフラれ困惑、思い切って静穂を訪ねる。美優は静穂の人柄に安堵し泥酔。瞬が静穂の結婚をだめにしてしまった責任を感じていると口をすべらせてしまう。静穂はその事実を知り、瞬に負い目を感じさせていることに同じく責任を感じてしまう。一方、瞬も森野と偶然に再会する。別れた原因が瞬ではないとなだめられ、酔って帰宅。寝ている静穂に近づき想いを伝える。翌日、静穂は仕事先の田上に交際を申し込まれる。瞬のことも引き受けるという田上の器の大きさに心惹かれる。それ以上に、瞬を責任という重荷から解放してあげられると考える。瞬は昨夜の出来事を美優から聞かされ絶句する。瞬は静穂のベッドで寝ていた美優に誤って告白したのだった。瞬が静穂に抱く感情は責任感ではなく、淡い恋愛感情だった。そのかなわぬ想い。静穂は瞬の気持ちに気づくはずもない。15年の歳月は、静穂をしっかりと母親に成長させていた。美優はそんな瞬に理解を示し、友達宣言をして元気づける。瞬はその言葉に救われ、次第に美優を意識し始める。
第2話 ガールフレンド
「あなたは恋を諦めたことがありますか?」
静穂は田上に結婚を前提とした交際を申し込まれ、久しぶりの恋愛に少々舞い上がる日々。瞬は静穂に夕食をキャンセルされ続け、その恋を応援しつつも、寂しさと虚無感に苛まれる。その気持ちを紛らわせるかのように、ついつい足が美優の部屋へと向かう。瞬は美優の前では完全にヘタレキャラが露呈している。一方の静穂も自分の結婚によって、瞬を責任や負い目から解き放てると安堵も、瞬を育てていくという気概が薄まり、ちょっとした空の巣症候群状態になる。瞬と静穂は、相変わらず、お互いを思いやりすぎる親子として悩みがシンクロする。瞬にすっかり懐かれてしまった美優。瞬のうじうじと煮え切らない静穂への想いを目の当たりにし、再度告白するようにアドバイスを送る。酒の力を借りて勢いづいた瞬は、静穂へ告白をし、すぐにごまかし、その想いに区切りをつける。そして、逃げ腰になっていた田上の存在と向き合い、結婚を全力で応援しようと決心する。瞬はいつも側で叱咤激励してくれる美優に対して恋愛的な感情が芽生え始める。
第3話 ノスタルジー
「あなたには忘れられない恋がありますか?」
静穂は瞬と美優の恋愛模様を目の当たりにし、かつての自分と森野の恋愛を重ねてにんまりする。懐かしむあまり、うっかり瞬を森野の名前で呼んでしまう。驚く瞬。静穂がまだ森野のことを好きなのではないかと勘繰り、いつものお悩みモードに入る。その悶々とした様子を美優、友人幸太と綾乃が横目で見ている。その流れで瞬は唐突に美優にもう一度前向きに付き合ってほしいと口にする。その天然ぶりに皆のツッコミが入るが、美優は素直に喜ぶ。一方の静穂の恋人田上にも元妻の存在がちらつく。元妻の心変わりが離婚の原因だったことから、静穂は田上がまだ元妻を好きなのではと少し不安になる。瞬は静穂と森野をよく知る旧友の明美から二人の馴れ初めを聞き、その気持ちが誰にでもあるノスタルジーな感情だと気づき安堵する。瞬が森野を家に連れてきたことから、静穂と15年ぶりに再会。二人は空白の時を懐かしむのだった。瞬にとっては、いつも側で励ましてくれる美優の存在が大きくなっていく。瞬と美優の距離がさらに近づき、恋愛モードに突入する。
第4話 グレート・マザー
「あなたのお母さんはどんな人ですか?」
瞬は実母の命日に、そっくりな恵美と弘夢の親子と出会う。シングルマザーとして日々奮闘する恵美に母の面影を重ねる。引きつけられるように会いたくて仕方がない。幼い弘夢にも好かれ、あれこれと世話を焼くことになる。楽しそうなこじらせ男子。美優は瞬の携帯に「恵美」の名前を見てしまい、知らない女性と親しくしている気配を感じ、そのデレデレした様子に悩み始める。そんな時、美優の母が上京。恋に悩む娘を静かに見守る。瞬に真意を聞こうと尋ねてきた美優は、公園で見つめ合う瞬と恵美を目撃してしまう。両手で長い握手をする二人。美優は泣きながらその場を後にする。心配して様子を見に来た静穂は恵美と会ってその生き写しの容姿に驚愕。恵美の方も静穂から話を聞き、瞬が自分に実母を重ねて見ていたことに納得する。血のつながった母親にはかなわないと苦笑いする静穂に、恵美はしみじみと言う。瞬の口から語られる母親への愛情は、すべて静穂に向けてだったと。静穂はその言葉に照れ、同時に報われるのだった。瞬は美優を訪ね、今回のことを包み隠さず話す。安堵する美優。そこにも娘を応援するやさしい美優の母の姿があった。
第5話 ファザー・コンプレックス
「あなたのお父さんはどんな人ですか?」
瞬はいよいよ田上と会食することとなり、どう接していいのか完全にお悩みモード。見かねた幸太がみんなで一緒にキャンプへ行くという案を出してくれる。静穂は素直に快諾。静穂の会社の仲間、田上の後輩、瞬たちと大所帯でキャンプへ行く。そこで瞬は、田上から静穂と結婚を前提とした付き合いをしていること、瞬を養子にしたいと申し出ていることを聞かされる。養子縁組は静穂とも法的に親子になることを意味する。それについては熟考する時間が欲しいとお願いするも、結婚のことはもちろん祝福すると深々と頭を下げる。一方の静穂はずっと避けて通ってきた瞬の実父について考え始めていた。真代は決して実父の名前を明かさなかった。そんな時、瞬がずっと大切にしてきたぬいぐるみを専門クリーニングに出したタイミングで、中から古いフロッピーディスクが見つかる。静穂は手掛かりになるかもしれないとデータ復元業者に依頼する。瞬は大学のゼミの一環でボランティア塾に出向き、そこでシニア枠で働く善太郎先生と仲良くなる。瞬は善太郎を父親のように感じてすっかり懐く。善太郎は瞬から静穂との温かいエピソードを聞くにつけ、自分の愚かさを深く後悔する。ある日、善太郎が結石による腹痛を訴え病院へ。付き添っていた瞬は心配し駆け付けた静穂を見て驚く。善太郎は瞬を引き取ることに反対し、ずっと会っていなかった静穂の父親だった。これを機会に善太郎は静穂に謝り和解。瞬を孫のような存在と認め、今までの空白の時を取り戻していくのだった。
第6話 マイ・ベスト・フレンド
「あなたには大切な友達がいますか?」
幸太は近頃少しだけご機嫌斜め。瞬の親友のポジションが、美優に押され気味だからだ。好意を持っている綾乃には忘れられない元カレがいて進展しない。何となく取り残されているような寂しさがついて回る。幸太が瞬と出会ったのは中学二年生。幸太は私立中学に入学したにも関わらず、ハイソな周囲環境に戸惑い、引け目と疎外感を覚えて体調不良に。公立中学へ転校してきたのだった。挫折感を抱え暗い面持ちで教室に入ると、隣の席に瞬がいた。にっこりと笑い「よろしく」と言われただけで、幸太はその温かな空気感に泣きそうになった。「こいつ何か好きかも」。友情は恋愛感情に似ていると思っている。その裏で瞬は幸太のために綾乃の気持ちをそれとなく探っていた。瞬も態度には出さないが、幸太がいちばんの友達であり、幸せになってほしいと思っている。一方、静穂は真代が残していたフロッピーディスクのことが気になっていた。転校生の真代と出会ったのは小学六年生。太宰治を愛読するような大人びた美しい少女だった。母親が蒸発し祖母の家に身を寄せていたが歓迎されず、早く自立したいが口癖だった。高校は別だったが、バイト先の喫茶店に、静穂がよく訪れて親交を続けていた。高校卒業後、真代は仕事に就いたが、程なくして妊娠。静穂が相手の名を問うも、その人を憎んでほしくないからと決して口にしなかった。真代は「永遠の愛は要らない。自分が子供を永遠に愛する人生だけでいい」と言った。親友であっても言えないことはある。静穂は一緒に瞬を育てていこうと約束し、大学の合間を利用して育児に協力。心の底から幸せになってほしいと願ったのだった。
第7話 ライバル
「あなたにはライバルがいますか?」
美優が大学構内を歩いていると野球ボールを踏み転倒し捻挫する。野球部でドラフト有力候補の勇気が颯爽と現れ、じたばたと拒否する美優をお姫様抱っこし医務室へ連れていく。勇気は美優を見初め質問攻めにする。美優は恋人がいるのかと聞かれ、瞬を恋人と言っていいのか自信がなく「好きな人はいます」と返答する。側で見ていた綾乃は、瞬のジェラシーに火をつけて焦らせようと企む。この写真を瞬あてに送信する。授業を終えた瞬が幸太とともに医務室にやってくる。勇気がバチバチと火花を散らす中、瞬はごく自然におんぶするからと背中を向ける。美優は恥ずかしそうに応じる。その様子を垣間見ていた勇気は、瞬が恋敵だとわかり、勝ったとほくそ笑む。愛しきウザキャラの勇気は美優に猛然とアタックを開始、体育の授業で瞬に勝負を挑んでくる。一方、静穂はCM撮影に現れた若手モデルのエリナに田上を狙っていると宣戦布告される。イケオジキラーとして有名だというエリナは自信満々。しかし、静穂は動揺どころかジェラシーのかけらもない。なすがままにと苦笑するのみだ。瞬と静穂は何となくその話をし、ジェラシー皆無の似た者親子だと笑い合う。それは信頼なのか、自信なのか、余裕なのか、平和主義なのかと。
第8話 アイデンティティ・クライシス 前編
「あなたは何者ですか?」
瞬は静穂から一生のお願いと呼び出されCMに脇役で出演する。それが想定外で話題になり、静穂は平謝り。しかし、瞬は静穂の役に立てて嬉しい、恩返しだと笑う。その横で、美優は瞬が人気者になってしまうことにハラハラしている。程なくして静穂は復元を依頼していたフロッピーディスクのデータを受け取る。そこには太宰治を敬愛していた真代らしい『斜陽』をオマージュした文章があった。瞬の父親を仄めかす「M・C」(マイ・キャパ)の記述から、静穂は相手が写真家ではないかと推測し、高校当時を知る喫茶店のマスターに会いに行く。当時、真代が写真家の吉川とよく話していたという情報から、静穂はSNSで探し出し連絡を取る。現れた吉川はどこか瞬と似ていた。会って話すうちに、吉川が父親だと確信。真代の文章を読んでもらうと同時に、瞬のCM動画を見せる。目を細めて瞬を見る吉川に笑みが浮かぶ。DNA鑑定の結果、親子と判明。独身の吉川は認知を申し出る。しかし、瞬と会うべきなのかは静穂に判断を委ねるという。静穂は葛藤する。瞬に真実をすべて伝え、吉川と会わせるべきなのか。それとも、真代の希望通り、秘密のままにしておくべきなのか。静穂は答えが出せず、田上、親友の明美、森野などに助言を求める。大の大人が集まっても三者三様の考え方があり、なかなか結論が出せない。
第9話 アイデンティティ・クライシス 後編
「私は何者ですか?」
静穂が出した結論は、瞬にすべてを話すということだった。静穂は真代が残した想いを綴った文章を見せ、吉川が会いたいと言っていることを瞬に伝える。会うのかは、瞬に委ねられた。瞬は体調を崩すほど悩みに悩む。そんな瞬を励まし、温かい助言をしてくれたのは、美優、幸太と綾乃、森野や田上、善太郎夫妻など周囲にいる愛情あふれる面々だった。瞬は意を決して吉川に会いにいく。吉川から、こうして会うことは真代の真意ではないから逡巡したと謝罪されるが、瞬は首を横に振り微笑む。本当にそうならば真代はフロッピーディスクを残したりはしなかった。心の底では見つかって欲しかったのだと。海辺を歩く二人。吉川は瞬の写真を撮り続ける。最後に瞬は深々と頭を下げ、真代の一方的な想いで出産したことから、法的な親子(認知)になることは望まない。しかし、時々はこのようにドライブしましょうと告げる。吉川は快諾する。瞬が家に帰ってくると静穂が笑顔で出迎える。その後ろには心配した皆が顔を揃えて待っていた。本当に自分は幸せ者だと、瞬は涙を浮かべるのだった。
第10話 ハッピー・トゥギャザー
「あなたの幸せって何ですか?」
静穂は結婚話が進み始めた矢先、突然の体調不良になる。心配した瞬は静穂を引っ張るように病院へ連れていく。そこで妊娠が発覚。呆気にとられる静穂の横で、瞬が涙ぐんだため、担当医に夫と間違われ笑いが起こる。数日後、静穂と田上は急遽入籍。瞬は妊婦によい食事などを調べて舞い上がっているが、周りから田上の元で暮らすのが当然と言われ現実に引き戻される。ひとまず静穂は簡単な荷物だけ持って田上の家へ。瞬は子供が生まれてくる喜びが勝り、思ったほどの寂しさはない。気がつけばいつも側で美優が微笑んでいる。美優は静穂の代わりにこの家で一緒に暮らしたいと申し出るもあっさり却下。ルームシェアで何とかと食い下がっていると玄関が開く音がする。ただいまと元気な声で入ってくる静穂だがすっかりやつれている。すぐさま、瞬はあっさりとした和食を作る。住み慣れた我が家、瞬の食事に満たされ、静穂は安堵し眠り姫に。田上によると、静穂はつわりがひどいうえに、慣れない環境での生活で、精神的に疲れている。一旦里帰りさせたとのことだった。静穂のことを知り尽くし、遠慮なくわがままが言える瞬のもとにいることがいちばんだと。安定期に入るまでの二か月間の猶予期間が与えられた。一方の静穂にも気づきがあった。ずっと母として瞬を守っていると自負していたが、逆に自分の方が瞬に甘え守られていたと。ほっとした顔で眠る静穂。瞬が子供みたいだと笑う。美優が窓から見える月を指さす。二人並んで見上げる。瞬は突然美優を背後から抱きしめ好きだと告白する。美優が感涙する。月の涙だと笑い合う。瞬は田上と養子縁組をし、静穂とも正式な親子になり、生まれてくる子の兄になるのもいいかなと思う。その子を守りたいと。
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