円香ミモザ

ドラマ脚本、小説執筆 * 「スキ」をして下さった方々には感謝しかありません。ありが…

円香ミモザ

ドラマ脚本、小説執筆 * 「スキ」をして下さった方々には感謝しかありません。ありがとうございます。お読みいただくだけで嬉しいです。

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『係恋』第1回

  あらすじ  札幌在住のライター霧島エリは、エリート会社員・森村の三番目の妻であり拘置所にいる千春から仕事を依頼される。前妻二人の自殺の真相と、どうして自身が継子を殺害するに至ったのか。エリは取材のために恋人の光輝が暮らす東京へ向かう。光輝とは高校時代に犯罪の隠蔽を通して出会っていた。エリは当初、森村に疑念を抱いていたが、次第に前妻たちの抱えていた問題や謎が明らかになる。そして、殺された継子の常軌を逸した行動。なぜ森村は愛のない結婚を繰り返したのか。エリは千春との約束を破り

    • 『ブラックペッパー・コーヒー』

       喫茶『ル・シアン』。ブラックペッパー・コーヒーの意味するものは? 恋愛はなくてもいいものと、自己完結してきた強がりな女性の、ピリッとスパイスの効いたラブストーリー。 【登場人物】 遠山千春(32)WEBライター 久住 修(29)喫茶『ル・シアン』のマスター マリー (45)カクテル・バー『レッド・リップ』のママ 永井良子(50)心理カウンセラー 小竹彩花(20)インテリア雑貨店販売員 幸江  (72)喫茶店の常連客 善太郎 (80)喫茶店の常連客 里奈  (27)バーの常

      • 『ラヴ・ストリート』【47】・最終話

        ラヴ・ストリート 南城光輝は、『カサブランカ』を出ると、啓太郎に向かって真面目な顔をして言った。 「僕、弁護士を目指してもいいですか?」 「どうして、俺に許可をとるんだよ」 「夏目さんにいいって言ってもらわないと、だめなような気がしていたんです」 「じゃあ、司法試験、一発で受かれよ」 「えっ?」 「うちの父親の弁護を頼むからさ」 「分かりました」 「その前に、大学に受かるのかあ?」 「がんばります」    *  霧島エリは、美代子に向かってピンク色の頬をして話しかけた。 「さ

        • 『ラヴ・ストリート』【46】

            ソウル・キッチン  夏目美代子は、佑香と馨の背中を押して店に入ってきた。 「保坂さん。可愛い仲間が四人増えました。子供たちが好きそうな食事を並べてもらえますか」  保坂が白い髭をさすりながら微笑んでいる。 「OK! テーブルをつけて広くしよう。みんな手伝ってくれるかい?」 「はーい」  少年団がテーブルの向きを変えて用意を始めた。 「今日は日曜日だし、もう貸し切り。思い切り騒いでいいよ」 「保坂さん、ありがとうございます」  美代子は深く頭を下げた。 「楽しいの、好きだか

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        『係恋』第1回

          『ラヴ・ストリート』【45】

            フィリア  南城光輝は、セイジョの正門に着いた。エリたちの姿はない。辺りを見回すと、『カサブランカ』の入り口横で、エリが手招きをしていた。エリからのメールを読み、大体のいきさつは理解していた。エリと一緒にいるのは、前に家を案内してくれた小学生の佑香と、その友達の馨だ。そして、三人は馨の母親を追って来た。その母親はエリがいろいろと相談に乗ってもらった恩人らしい。  光輝は三人に合流すると、すぐに佑香に礼を言った。 「あの時はありがとう」   佑香はにっこりと笑った。 「やっ

          『ラヴ・ストリート』【45】

          『ラヴ・ストリート』【44】

            シークレット・マリッジ  夏目美代子は、『カサブランカ』の前に立ち、懐かしそうに外観を眺めた。何も変わっていなかった。時が止まっているようだった。温かみのあるレンガの壁。寒風にさらされた木の看板。『喫茶 カサブランカ』と昔の姿のまま明かりを灯す古い電光看板。木製の格子デザインの硝子ドア。向こうから、良介が笑顔で出てきそうな気がした。  啓太郎が、美代子の顔をのぞき込んだ。 「どう? 店の様子は変わった?」 「全然。昔のままだわ」  啓太郎がドアを開けた。ドアベルがちりりん

          『ラヴ・ストリート』【44】

          『ラヴ・ストリート』【43】

            ラヴ・ウォーリアーズ  五十嵐馨は、ここ数日の聡美の変化を読み取っていた。いつもの元気で明るい母親に戻った。いや、それ以上に、はつらつとしていた。父と大ゲンカしてから化粧もせずに、青い顔をしてぼーっとしていることが多かった。食事もあまり手をつけず、急激に痩せていった。このままでは病気になる。いや、病気なのだと心配になった。しかし、どうしてあげることもできなかった。その一方で、無気力状態で、馨の顔すら見なくなった聡美に対して苛立つことも多かった。完璧な母親に慣れてしまって

          『ラヴ・ストリート』【43】

          『ラヴ・ストリート』【42】

            アウト・ザ・ブルー  五十嵐聡美は、夫から離婚を切り出されるのを待っていた。しかし、一向にその気配がない。有紗と会ってから一週間が過ぎた。どうなっているのだろう。街に積もった雪は、ここ数日の暖かさで、すっかり解けてしまった。今年の11月の天候は不安定だった。真冬並みに冷え込んで雪が積もったかと思えば、秋に戻ったように暖かくなって解けてしまう。その繰り返しだった。まるで女心のようだ。有紗も気が変わったのかもしれない。まあ、どちらに転んでも、もういい。そんな心境にまで達してい

          『ラヴ・ストリート』【42】

          『ラヴ・ストリート』【41】

            ポリグラフ  南城光輝は、エリからの電話で全てのいきさつを聞いた。受話器の向こう、エリは涙ぐんでいた。電話を切ってから、光輝も切なさが込み上げてきて、しばらくはベッドで、啓太郎と母親のやりとりを想像していた。前に父親が銀行強盗犯だと漏らしたのは本当だったのだ。啓太郎はずっと苦しんできた。誰もが日々、いろいろな苦悩と闘っている。自分だけではない。  光輝が改造したモデルガンは、またエリの元へ戻ってきた。因縁みたいなものを感じた。エリが言うように、啓太郎がその因縁を絶ちきろう

          『ラヴ・ストリート』【41】

          『ラヴ・ストリート』【40】

            ラヴ&レボリューション  夏目啓太郎は、午後、病院で検査を受ける美代子を車で病院へ送り届けてから、沢崎のもとへ向かった。迎えに行く四時までは時間があった。父の事件のことを思い切って沢崎に聞いてみることにした。年齢からして事件が起きた時、沢崎はすでに新聞社に勤めていたはずだ。  沢崎はいつものように煙草をふかしながら原稿を読んでいた。啓太郎が側に来るまで気がつかなかった。 「ご無沙汰しています」 「おお。例のパチンコ店の強盗事件はどうした?」 「すみません。頓挫しました」

          『ラヴ・ストリート』【40】

          『ラヴ・ストリート』【39】

             ウインタータイム・ラヴ  南城光輝は、二時間目が終わった頃、頭痛がするので薬をもらいに保健室へ行った。熱を計ると三十八度二分あった。その数値を見たとたん、激しい悪寒にがたがたと体が震え、一気に具合が悪くなった。病は気からというのは本当だ。タクシーで家まで帰った。途中、エリにメールをした。  熱が出て学校を早退した。今日は会えなくなった。ごめん。  光輝は家に着くと制服を脱ぎ捨てパジャマに着替えた。家にあった風邪薬を飲み、這うようにベッドへ潜り込んだ。病気の時に、ひとりと

          『ラヴ・ストリート』【39】

          『ラヴ・ストリート』【38】

            ジェラス・ガイ  五十嵐聡美は、大通公園に面した喫茶店にいた。真野有紗という女性に会うためだった。十時半の約束だが二十分も早く着いてしまった。  昨日の夕方、ソファの背もたれに肘をのせて、窓から外をぼんやりと見ていた。半狂乱で泣きわめいたあの夜から何も変わらない日々が続いていた。その後、夫とは必要最低限のことしか喋らないが何の支障もなかった。もともと楽しく会話が弾んでいたわけではない。それでも日々、働く夫に対して感謝の気持ちを言葉にしていた。しかし、それすら、うざったい顔

          『ラヴ・ストリート』【38】

          『ラヴ・ストリート』【37】

            シャドー・プレー  夏目美代子は、布団に横たわり背中と腰の激痛と闘っていた。この頃は鎮痛剤もあまり効かない。先日の検査では医師が検査データ表を二度見直すほど、腫瘍マーカーがよくない数値を示していた。近々、入院することを勧められた。しかし、もう入院する必要はない。明日、全てが終わる。この家に戻ってくることもないだろう。  退院してからは、週に三回通院し点滴を受けている。その都度、啓太郎は送り迎えをしてくれている。仕事を優先して欲しいと言うと、忙しくないからと苦笑いする。あれ

          『ラヴ・ストリート』【37】

          『ラヴ・ストリート』【36】

            パンドラの箱  夏目啓太郎は、曲がり角から佑香と馨の様子を見ていた。そして、佑香が家の中に入るのを確認してから、家の前に来て表札を確かめた。確かに「今野」とある。佑香は一緒に暮らしている孫の中の一人に違いないと思った。当たり前だが、今野という男にも家族がある。それにしても、この場所に来るのは二回目だ。そう思いながら後ろを振り向いた。エリの家だ。何という偶然だろう。  美代子が退院してから二週間が過ぎた。つまり、興信所の報告書と拳銃を発見してから二週間だ。今野賢吉とは一体誰

          『ラヴ・ストリート』【36】

          『ラヴ・ストリート』【35】

            ワイルド・チャイルド  今野佑香は、ずっとぼんやりしたまま下校時間を迎えた。母親を射殺した女子児童ではなく、ごく普通の小学生だった。  今朝早くに長い眠りから覚めた。二段ベッドで眠っていた。居場所が理解できずに何度も布団の感触を確かめた。枕に頬ずりをした。コンクリートの塀ではない。アスファルトの道路でもない。部屋を見回した。染みのついた天井、汚れて落書きのある壁。確かに自分の部屋だった。それでも、どこまでが夢で、どこまでが現実なのか分からなかった。  ベッドから、はっと上

          『ラヴ・ストリート』【35】

          『ラヴ・ストリート』【34】

           リトル・ウイング  南城光輝は、翌日、いつもと変わりなく登校した。教室へ入ると、金森がぽかーんと口を開けて席に座っていた。 「よう!」  光輝が声を掛けても、金森は口を開いたままで返事をしなかった。 「おい、金森。朝から大丈夫か。魂が抜けたような顔をして」  光輝はそう言いながら、教科書をカバンから出して机に入れた。 金森は横目でにらみながらぼそっと言った。 「魂が抜けてるんじゃなくて、呆れてるんだよ」 「何に?」 「おまえ退学するんじゃなかった?」 「あっ・・・」 「俺、

          『ラヴ・ストリート』【34】