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社会を生き抜く「証明力」の極意! ITコンサルタントが学びや仕事を通じて辿り着いた究極のスキルを徹底解説 (第2編 証明の構造)

第1編では「証明とは」何かについて、導入部分を説明させていただきました。本編ではそれを受けて、証明力を身につけるために何が必要なのかについて明確にするために、「証明」という概念をいくつかの要素に分解して解説していきます。


3. 証明の構造

私はあくまでも、社会に生きる者にとっての基礎スキル、という視点において証明を論じています。その視点に立ち、私なりにもう少し広く意味を捉え、柔らかく言い換えた形で、改めて「証明」を定義してみます。

証明とは、「相手にとって正しいかどうかがわからないお題を、数々の証拠や、世間一般で正しいとされる考え方・常識を踏まえてロジカルに説明することで、相手に正しいと思ってもらうこと」である。

さらに整理すると、「証明」とは、このような構造になります。

証明の構造:自分の命題を相手が正しいと思うまでの道のり

こうして図に描いてみるとシンプルな構造なので、なんだ、そんなことか、当たり前じゃないかと思われる方もいらっしゃると思います。しかし、当たり前と頭ではわかっているのに、「ここぞ」という大事な場面でなかなかうまくいかないことが多い。これぞ「証明」の奥深さであり、極め甲斐がある概念なのかもしれません。

4. 3つのキーワード

さて先ほどご紹介した図に登場する3つの言葉。私はこの3つを、証明を勝ち取るための超重要なキーワードと位置づけています。

証明を勝ち取るための超重要キーワード

命題とは、「これから考えるお題」と定義しておきます。哲学者や数学者の厳密な世界においてはなかなか理解が大変ですので、専門書に委ねさせていただきたいと思います。学校のテストならば「問題文」が該当すると考えて良いです。ビジネスの世界ならば“弊社が抱える課題に対する解決策は〇〇である”あたりがピンとくるでしょう。日常会話ならば“今日の夕飯はステーキではなく寿司である、ただし反例(他に食べたいもの)があれば命題を練り直す”のような、生きていれば永遠に繰り返すような問答も該当します(ちょっと無理矢理ですが)。あまり好ましくない例かもしれませんが、“〇〇の逮捕は不当逮捕である”、なんていう重いテーマも命題になりますね。

論理とは、命題を解き明かすために組み立てるロジックのこと。自分がどんなに正しいと思っていることでも、単に自分がこう思うから、というだけでは、その正しさは相手に全く伝わらない。なぜ正しいと思うのかを、あの手この手で説明できる客観的な材料が必要になってきます。
“こう言えるのはなぜか。こういう理由があるからだ。いや待てよ、それだと証拠が足りない気がする。こっちの人には通じるが、あっちの人からツッコミがあるかも。完璧でない。ならば情報が網羅できているか、この手の情報を整理するためのフレームワークがネットや書籍にないか調べてみよう。説明の順序ももう一度見直そう。云々。”
社会人にとって今や必須とも言える「ロジカルシンキング」そのものですね。このスキルは非常におススメなので、なじみのない方はぜひ調べてみてください。ロジカルシンキングの詳細な解説は、専門書(*)に委ねますが、超ざっくりと言えば、「Aである、なぜならばB、C、Dだからだ」、反対に、「B、C、Dである、従ってAである」という話の構造を組み立てるコミュニケーション技術のことです。実は、このロジカルシンキングは社会人になってから必要性に迫られて意識的に身につけられる方も多く、ビジネス・スキルと捉えられがちですが、基礎力という意味では、若き時代のトレーニングが重要であると私は考えます。中学生から学ぶ数学の証明を、何問こなしたかの量。そして、機械的な回答でなく、抽象的な内容をどれだけ具体的に頭に描いて考えて納得して証明してきたかの質。この質と量を若き時代から積み重ねてきているかは、その後の社会人生活に大きな影響を及ぼしていると、私は思っています(たまたま積み重ねてきた側の経験者としての実証)。

(*)推薦書籍:照屋華子・岡田恵子『ロジカル・シンキング』東洋経済新報社

先にご紹介した数学愛好家の瀬山士郎さんは、同著書の中で、教育者の立場から以下のように述べられています。

初等数学教育では、教師の側が、学びの過程にある子供たちに分かってもらう努力を払わなければならない、ということがどうしても必要になるでしょう。ここでは、「数学の証明のための技術を教えること」と「数学では証明という手段を使い、意味の連鎖を考えていくこと」の両方を数学教育としてきちんと意識し、両者を丁寧に説明していく必要があると思われます。これは数学理解のための両輪であり、どちらがかけても数学を理解することは難しいと思います。

(瀬山士郎『数学にとって証明とはなにか』講談社)

また、ビジネスコンサルタントとして、ビジネス・組織・学問にわたる多方面でご活躍されている内山力さんは、著書の中で以下のように述べられています。

算数は「答え」が大切です。式を覚え、そこに数字を入れて、正確に答えを出すことが目的です。算数のテストは○か×がはっきり付きます。そこには正確性とスピードが要求されます。数学はプロセスが大切です。結果よりも「なぜそうなったか」を説明することが求められます。「証明」というプロセスです。〜中略〜しかし数学を教えるのは難しい。本人がプロセスを組み立てられるようにしなくてはならないからです。「アイデア」と「それを説明する力」という2つのものが同時に求められます。ビジネス能力で言えば創造性と論理性です。

(内山力『今すぐ仕事で使える「数学」』PHP研究所)

少し話が横にそれましたが、この論理のプロセスでは、命題を解き明かすための話の筋が通っているか、証拠は質と量ともに万全か。それを何度も何度も繰り返して、ロジックを作り込みます。

説得とは、論理的に組み上げたロジックを相手に伝え、首を縦に振ってもらうための最後の大事なプレゼンテーションの工程。どんなにロジックが立派でも、相手に伝わらなければ意味がない。自分の世界に閉じてしまい、自己満足で終わってしまうとなれば、今までの苦労が水の泡です。
相手に自分の話を理解してもらう確率を上げる行動といえば、どんなことが思いつくでしょうか?考えやすくするために、質問を変えます。身の周りで、“説得力”のある人の姿を想像してみましょう。誰が思いつきますか?

人それぞれにイメージがあると思いますが、私の頭には、話しながら相手の顔色や仕草を見て、相手の頭の状態を見抜いているかのように、相手の頭の引き出しの中に、順番通りにちょうど良く情報を放り込んでくるタイプの人が浮かんでいます。

日本のテレビショッピング業界で数社、有名企業がありますが、テレビ番組やCMが同社の売上高に大きく貢献しているモデルであり、顧客との重要な接点をもつこのプレゼンテーションにかける意気込みが伝わってきます。最初に問題を提起し、その解決策が購買者の期待通りまたはそれ以上の高さで示され、結果、購買意欲をかき立てる。「この問題を解決するのは、この商品である」または「(この問題を早く解決したければ、)今すぐにあなたがやるべきことは、この商品を買うことである」という命題が、購入者に対して見事に証明されていることが、会社の成長の歴史に裏付けられています。

テレビショッピングを例に挙げた理由は、証明の成功は、プレゼンの当日に発揮する、そのプレゼンテーターの魅力や話す力といった説得力を補う要素だけではなく、命題・論理・説得の3段階が抜け目なく入念に準備されてこそ、勝ち取れるものであると思うからです。
まさに、「備えあれば憂いなし」「転ばぬ先の杖」ですね。

この入念な事前の準備は、とても大切です。
私が人生を豊かに生きるための鉄則の一つに、以下を掲げています。

人生を豊かに生きるための鉄則 その1(ALT+ 編集部)

明日の仕事でも、旅行でも、セカンド・キャリアでも、人生でも、いかなる場面やステージにおいても、この鉄則は通用すると私は考えています。どうすれば、自分が設定した命題をクリアできるのか。証明するために何が必要なのか。論理的に説明するテクニックももちろん重要です。ただそれ以前に、自分というこの世に一つしかない唯一の存在、そしてその頭の中身を他者に伝えていくために、どのような準備をする必要があるのか。後の満足な豊かさを手に入れるために、今できることは何なのか。そういう前向きな発想のもとに、今、目の前にあることに懸命に立ち向かう姿勢でありたいものです。

人生は一度きり。時間は若い方から老いる方へと自動的に流れる。準備が先で、豊かさを勝ち取るのは後。年齢が若くなればなるほど、準備に使える時間は多い。そう考えると、若い人たちには、早く自分で納得して気づいて、充実した時間を過ごしていただきたい、そう願わずにはいられないのです。

さてこの後は最終編となりますが、ここまでに説明してきた証明や証明力をより発揮していくためのヒントとして、自分の過去の失敗談を交えて幾つかのコツをお話ししたいと思います。

(「第3編 証明力を武器にする」に続きます)