見出し画像

9. 言語療法士 エリザベス・フォスラー

 さて、FCの問題に迫る前に、最後の下準備をしましょう。

 その話題の的は、映画『僕が跳びはねる理由』の影のキーパーソン、エリザベス・フォスラー(Elizabeth Vosseller)さんです。映画のパンフレットでは「言語療法士」と紹介されていたので、この記事ではそれに従うことにします。

 エリザベスさんの名前はパンフレットの『出演者』のページには記されていません。『スタッフ』のページにも載っていません。ただし、『スタッフ』のページの、サンダンス映画祭での記念写真には姿が見られます。(画像のちょうど真ん中あたりの、茶色の服を着た長い金髪の女性です)

 エリザベスさんは映画の中では質問に答え、名前も表示され、エンドロールにもしっかりと載っていました。しかし、彼女の存在が映画の中で特に印象に残ったという人はあまりいないのではないでしょうか。エリザベスさんは議題に関して簡単なコメントをする「専門家」という位置づけで、決して目立つ扱いはされていません。

 しかし、彼女は実はこの映画において、非常に重要な存在なのです。

 エリザベス・フォスラーさんは「グローイング・キッズ・セラピー・センター(Growing Kids Therapy Center)」という団体を運営しています。

 公式ホームページの中では、どの程度お金を取っているのか、そもそも提供するプログラムが有料なのかハッキリとは分からないのですが、少なくともオンラインストアを見ると、文字盤やテキストなど、様々なものを販売はしているようです。(例:ワークブックが$ 35.00、約35cm×約25cmのステンシルボード(大) が$ 25.00、ラミネートスペリングボード(シンプルな文字盤)が$ 7.00)

  映画ではエマさん(女性)は主にラミネートボードを、ベンさん(男性)は主にステンシルボードを使っていたように思います。

 エリザベスさんは、自らの教える手法を「S2C」と呼んでいます。これは「Spell to Communicate」の略です。(toを2にするのはお洒落な略ですね) 公式動画などを見ると、主に介助者(ファシリテーター)が文字盤やキーボードを持って障害者を「補助」する形を取っているようです。

 少々ややこしい話なのですが、現在世界で行われている「FCのようなもの」は、主に「FC」「RPM」「S2C」という名前で呼ばれていると考えてしまって良いと思います。他にも名前はいろいろあるのですが、本質的にやっていることは同じ、ということですね。(ちなみに「RPM」は Rapid Prompting Method の略です)

 実は「FC」「RPM」「S2C」という言葉は―― 私の記憶が確かなら―― 映画の中には一切出てきません。パンフレットにもです。しかし、映像の中で行われていることは、エリザベスさんが登場することからも分かるように、「FC」、ないし「S2C」ということになります。

 映画のアメリカ編のエマさんとベンさんが行っている「文字盤でのコミュニケーション」は「エリザベス・フォスラーさんの教えるS2C」なのです。なのに、誰もその名称を教えてくれません。

 私にとっては大きな謎です。

 正しいことを行っているならば、堂々と言えばいいはずです。

 「これはFCです。もしくはS2Cです。あなたにもできますよ」と。

 もしそうならば、話せない自閉症者にとって、これ以上ない福音ではありませんか。しかも、エリザベスさんが名前を明かして出演しているのですから、監督が宣伝になるのを断固拒んだということもあまり考えられません。

 ……なぜなぜ尽くしの中、次回はエマさんとベンさんのFCを具体的に見ていきたいと思います。

 続きはまた。