おとなになりたい


※※難病の方のお話になります※※


高校生になってから学生時代は、子供向け習い事教室のお手伝いのバイトをしていた。
便宜上「先生」と言われたけども別にそんなえらいことはしてない。
あんまり子供は好きじゃないんだけど、自分もそこの教室に通っていたので。

そこに生徒として通っていたT君。
彼は私が生徒として通っていた時からずっと教室に通っていた。
彼は先天性の病気がありまして。
当時は何か知らなかったんだけど、色白で背が小さく痩せていて
歩くのがあまり得意ではないので何かにつかまりながらそっと1歩ずつ歩く。
こわばった手に分厚いメガネと補聴器。
会話は普通にできるけれど、しゃべるのもとてもゆっくり。
学習障害があるようで習い事のレベルはずっとそのまま。
それでも彼は毎週決められた課題を一生懸命こなす。
気分屋のところがあるので、適当なときもあったけれど
言えばちゃんと直すし本当にマジメな生徒さんだった。
1カ月くらいお休みしたことがあって、どうしたのかなと心配していると
お母さんに抱っこされて教室にやってきた。
小さい身体がさらに痩せて、小さいお猿さんのようで。
心臓の手術のために入院をしていたんだって。
教室に出てこれるレベルになって本人的に元気なんだけれど
お母さん甘えられる期間みたいでニコニコしながらやってきた。

習い事中、課題がなかなか進まなかったり、お直しがあったり
一回ハマるとなかなか進めない。
そういうとき決まって、周りの便宜上の先生たちは
「しっかりやって(習い事の先生)になれるようにしようね」
と、発破をかけて促す。
傍から見れば無理だろって思うんだけどね。

私が小学生の時に生徒で通いだしてから、学生時代にバイトするまで
彼はおそらく10年以上、同じレベルの課題をやっていた。
たまにレベルを上げてやってみることもあるんだけど
ちょっとやってみるだけでも難しいらしく
できない、と大泣きしてしまう。

当時、私が教習所に通いだした。
T君には教習所に通ってることは話していた。
甘えん坊なところがあるので、気分がよくて構ってほしいときは
大人にべったりだ。

「何歳から、教習所に、通えるの?」

18歳になる半年前からだよ。早い人は高卒業くらいに免許取ってるよ。
と、馬鹿正直に返事をした。
当時、T君16歳。養護学校の高校生になったばかり。

「僕は、車を、運転したい。免許、取れる?」

「僕は、(習い事の先生)に、なりたい」

「大人に、なりたい。何歳から、大人なの?」

「僕は、大人に、なれるの?」

彼がここまで一気にしゃべることはあまり無かったので驚いた。
それに1つも答えられなかった。
周りはずっと、それこそ10年以上
「ちゃんと課題をやって(習い事の先生)になろうね」と声をかけて
目の前の課題をやらせることしか見てなかった。
でも彼は自分が支援学級に通っていることは理解しているようだったし
だんだん自分の状況がわかってきたんだと思う。
それでも彼の夢のひとつである、その「先生」になるために
早く課題をこなせという大人に、なんて思っていたんだろう。

しばらく答えられなかったんだけど
「日本は二十歳から大人。(成人という意味で)
 T君が「先生」になれるか、免許が取れるのか、
 それは私にはわからないな、ゴメンね」
と返事をして会話を終わらせてしまった。

あれから10年以上経過したけれどたまに思い出してしまう。
やっぱり大人がその場しのぎで嘘をつくのは追々人生に影響が出るんだろうし、本人はとても悩んでしまうんじゃないかと。
だからといってなんでも正直に答えて絶望させることも違う。
少し前、深夜番組でT君と同じ症状の病気の特集をやっていて
初めてその病名がわかった。
きわめて稀な指定難病、早老性の遺伝子上の疾患で日本国内でも今現在、
50人以下しかいない。
なので病名は避けるけれどいくらネット検索しても同じような内容しか出てこず、稀すぎてあまりよくわかっていないらしい。
そしてその疾患の方は寿命がとても短く、20歳前後。
早老性だけあって徐々に失明、口径接種の困難や歩行困難が出てくると。

平均寿命からするとT君は10年以上前に亡くなっているはず。
大人になれるの?と聞かれた時から4年程度。
何かの奇跡で生きていてくれるかもしれないけども。

あれからたぶん、私の中身は変わってなくて
大人になったかどうかは自分でもわからない。
年取って仕事を見つけただけ。

独り身ながら世代的に周りに小さいお子さんがいる友達がいて
子供とかかわることも多くなってきた。
どうやったらうまい答えができるのか時々迷ってしまうけれど
子供だからといって嘘はつかず正直に付き合っていきたい。

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