講談社タイガの隠れた名作(1) 『詐欺師は天使の顔をして』斜線堂有紀

 こんにちは。伯林(ベルリン)です。
 二十一歳、神奈川県相模原市の食べ放題焼肉店正社員男。
 ギャーギャー騒ぐ中高生が無茶な注文をするのに殺意が芽生えたのがきっかけで、ミステリの世界へ――というのは真っ赤な嘘であり、私のプロフィールは全くもって秘密ということでご容赦願いたいと思います。

 さてきょうは、「講談社タイガ」というレーベルの隠れた名作をご紹介します。

講談社タイガとは

ざっくり言うと、一般文芸とラノベ系の中間のようなミステリ作品を出版しているレーベルです。
たとえばアニメ化した人気作品では、『虚構推理』『美少年探偵団』『アンデッドガール・マーダーファルス』など、ラノベ的なキャラ造形のものもありますし、『紅蓮館の殺人』や森博嗣先生の『Wシリーズ』など一般文芸寄りのものもあります。

ちなみに、読書感想記事で、大した説明もなくいきなり作品名を次々出していくのは、書き方としてあまりよろしくありません。

さて、本題に入りましょう

隠れ名作の定義

本記事で私が紹介したい作品は
・残念ながら1巻で終わっているので、発売当初はあまり注目されなかったのかもしれない
・しかしめちゃめちゃエモい
・ものすごくタイガっぽい
この3つを兼ね備えた一作です。
それがこちら↓

『詐欺師は天使の顔をして』(斜線堂有紀/2020)

あらすじ(出版社より)

俺の言う通りにしていればよかったのに
――なぜ消えた
☆☆☆
一世を風靡したカリスマ霊能力者・子規冴昼が失踪して三年。
ともに霊能力詐欺を働いた要に突然連絡が入る。
冴昼はなぜか超能力者しかいない街にいて、殺人の罪を着せられているというのだ。
容疑は““非能力者にしか動機がない””殺人。「頑張って無実を証明しないと、大事な俺が死んじゃうよ」彼はそう笑った。
冴昼の麗しい笑顔に苛立ちを覚えつつ、要は調査に乗り出すが――。

斜線堂有紀先生といえば、青春ミステリ、特殊設定ミステリで大人気になり、最近はSF界にも進出する天才作家ですが、この『詐欺師は天使の顔をして』は、斜線堂先生の特殊設定前夜という感じの作品です。

では、内容を語ってゆく

まず、表紙に大きく描かれた美貌の青年。
彼の名は、子規冴昼。
カリスマ霊能力者としてメディアにひっぱりだこで、絶対にミスすることはなく「本物」だと世間を賑わせていたのだが、実は全てにトリックがある。
その手綱を引いていたのが、冴昼の大学の後輩であるマネージャーの呉塚要。
こちらが本作の主人公で、地味な男ではあるが、実はトリックやマジックは全てに要が作ったものであり、冴昼は言われたとおりにやっているだけ。
ただ、冴昼のたたずまいがあまりにカリスマ性を帯びており、誰もが彼を霊能力者と信じていたし、要も、冴昼を完璧な霊能力者にすることが至上の喜びであった…………のだが、冴昼が突然失踪した。
3年間、異常な執着心で冴昼を探し続けていた要の元に、突然冴昼から電話が来る。
曰く、「超能力者しかいない街に来てしまい、殺人事件の容疑者として留置所にいる」。
その街の住人は皆、手を使わずに物を持てるサイコキネシス能力を持っていて、人殺しだって、わざわざ本人の前に移動しなくても、その辺にあるものを念力で掴んで殺せば済む話である。
冴昼が嫌疑をかけられているのは、「明らかに、犯人がわざわざ被害者の元へ近づいて殺害されている」事件で、この街でただひとり超能力がない冴昼にしか該当しない手口である……というもの。
要は冴昼の無実を証明するため、超能力者の街へ行き、真犯人を捜す。というのが筋書きだ。

警察に身柄確保されているだけあり、最初の時点で既に、理論的には冴昼でしかあり得ないという理論が矛盾無く提示される。
世界の仕組みが違えば、常識や文化も全く異なるものになる。
そこに暮らす人々は現実の私たちと変わらないのに、モノの大きさや置き場所が違ったり、馴染みのあるはずのものが超能力者に便利なように独自の発展を遂げているのが面白い。
よく作り込まれた特殊設定下で、この世界でしか成し得ない驚きの真相が……。

パッケージとして、子規冴昼が強すぎる

以上のようなミステリ要素も愉しいのですが、本作の最大の魅力はやはり、この子規冴昼という人物の、抗いがたい求心力。
ひょうひょうとしていて、世界の万物に興味がなさそうで、不自然なほど愛想が良くて、多くの人を夢中にさせるくせに誰のものにもならなそうな、儚くミステリアスな美貌の青年……なのに、要にだけは関心がある。
絶対的信頼を置きすぎていて、自分が何をしてもしなくてもいいと、信じるという信念もないほど信じているです。
エモい、エモいな。

この作品は、構造としては、ざっくり言えば「とらわれのピーチ姫を助けに行くマリオ」です。
しかし、マリオと本作には、決定的違いがあります。
本家マリオでは、ピーチ姫は何もできない乙女であり、圧倒的か弱き存在なわけですが、本作のピーチ姫は、日本中を騙しきった完璧超人で、しかも、顔面偏差値9999のうさんくさいイケメンなのです。
エモいぞ。ううっ、胸が苦しい……!

タイガっぽいな、さぎてん

私がミステリ、特にキャラミスに深くはまっていったのは、この『詐欺師は天使の顔をして』が全ての始まりだったように思います。
ほどよき難易度のミステリを携えて強キャラで殴ってくる感じが、はざまの世界のタイガらしい作品だと思います。

記事を書き始めた時点では、この良作を分かりやすく丁寧に紹介しようとしていたのに、気づけば早口オタクの感想になっておりました。
こんなものでよろしいでしょうか。
お読みいただきありがとうございました。

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