小説「炎天」
休みがあけるまで前髪を伸ばしつづけていたらどこまで伸びるのだろう。いまだって舌をつき出したら髪に触れられそうだ。
もし、休みがいつまでもあけなければどうだろうか。ぼくの前髪は顔をおおうほど伸びて左右にわけなければ生活できないだろう。
それはいやだな、とおもう。
もしももしも、最近はえてきた別の体毛もすごく伸びてきたらどうすればいいだろう。剃っても剃ってもしつこく生えつづける毛。
毛のことを考えながらぼくはゆらりと外出する。
外はアスファルトは高温でユゲがたっており、セミの鳴き声が多すぎてまるで無音のようで、外をあるいている人はいなかった。
ぼくは、極度の緊張で汗を出している。
母から食事代とべつに「散髪代」にもらっている三千円をぼくは使ってしまおうと思う。何に使うかはまだはっきりと決めていない。
前髪を伸ばそうと思ったから。
ずっと夏休みが続けばいいと思ったから。
無音の異世界をどこまでも歩みたかったから。
持っている昼食代と散髪代の四千円を使いきれば、ぼくは途方にくれて家へきっと帰れなくなる。緊張とけだるさの中でいまそう感じる。
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