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【日本語と韓国語の言葉は本当に似ているの?】第3回 翻訳できない韓国語

チョ・ヒチョル

 日本と韓国は地理的にも近く、有史以前から今日まで多くの交流を行なっているので、文化においても似ている部分も多いですが、中には韓国独自のものもあり、翻訳しにくい言葉も多々あります。ここでは翻訳できないいくつかのことばを取り上げてみました。

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▲『翻訳できない世界のことば』(創元社2016年発行、エラ・フランシス・サンダース著・前田まゆみ訳、91ページ)

 数年前に出版された『翻訳できない世界のことば』(創元社、2016年)は
「他の国のことばでそのニュアンスをうまく表現できないことば」を中心として、簡単な説明とイラストを載せた本です。
 たとえば、「PISAN ZAPRA」というマレー語は「バナナを食べるときの所要時間」だそうですが、確かに他の国にはない概念で「翻訳できない」はずです。
 また、日本語としては、「KOMOREBI、BOKETTO、WABI-SABI、TSUNDOKU」の4語が載っており、韓国語は「NUNCHI」ということばが載っていました。「NUNCHI」には、「他人の気持ちをひそかにくみとる、こまやかな心づかい」とありました。
 それに触発され、私も「日本語に翻訳されにくい韓国語」を集め始めたところ、意外と多いことに気がつきました。いつか機会があれば本でまとめたいと思っていますが、今日はそのリストの中から3つの単語を紹介したいと思います。

자리끼(チャリッキ): 寝るとき、枕元におく飲み水

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 写真のラベルを和訳すると、

「ポカリスエットは汗で失なわれた水分、電解質をスムーズに供給してくれるアルカリ性飲料です。(中略)したがってこの製品はスポーツ、仕事、入浴で汗を流したときと、チャリッキなど日常生活における水分の供給にとても適した飲料です。」


 とあります。ポカリスエットはもともと日本で開発されたスポーツ飲料なのに、韓国の商品説明にチャリッキという韓国固有のことばが用いられているのも面白いですね。
 韓国は日本より雨も湿気も少なく乾燥しています。それに冬の暖房のオンドルは部屋の空気をからからにしてしまうため喉がよく乾きます。昔は冷蔵庫も水道も室内にはなかった時代。寝る前に飲み水のチャリッキを枕元に置いておいたものです。

까치밥(ッカチバプ):(カササギのご飯→)残し柿

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▲『까치밥』(ッカチバプ) ジニミュージック

 日本でも、一部の地方では柿の実を収穫するとき、全部採らず最後の1個を木に残したようですが、俳句の冬の季語にもなっている「木守柿(きまもりがき)」は、人間が根こそぎ採るのではなく、豊かな実りを与えてくれた木・自然・神への捧げものを残すという感謝の意味があるそうです。
 でも、韓国語の까치밥(ッカチバプ)とは「カササギの飯」という意味で、初冬に柿を収穫するとき、あえて全部採らずに、カササギなどの鳥のために一部残しておく柿のことを指します。ちなみに、カササギは韓国人に愛される縁起のいい鳥です。
 『大地』という小説でノーベル文学賞を受賞したアメリカのパール・S・バック女史が1960年に韓国を訪れたとき、深く感動した二つのエピソードがあります。一つは慶州の田舎で見かけた까치밥(ッカチバプ)、もう一つは夕方にチゲ(背負子)いっぱいに荷物をしょって牛車を引きながら家路についていた農夫の姿だったそうです。いわく「西洋の農夫なら荷物を牛車に載せ、自分も牛車に乗って楽に家路についただろう。あれは私がこれまで見た風景の中でいちばん美しい風景だった」と述べたそうです。
 当時の韓国は世界最貧国の国。人間の食べ物にも窮していたはずなのに、鳥のために一部の柿を残しておいたり、一日中農作業を手伝ってくれた牛のために、自分で重い荷物を背負うなど動物を思いやる韓国人の生き方に感銘を受けたそうです。

평상(ピョンサン)(平床):庭におく多目的縁台

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 韓国のドラマや映画にもよく出ている「평상平床(ピョンサン)」。日本の縁台を3つほど並べたような大きな多目的の台です。韓国人は平床(ピョンサン)の上で、食事をしたり、家族や近所の人たちとくつろいだりしてきました。
 小学校の夏休みのとき、母といっしょに母の実家を訪れました。まだ、電気も通っていない村だったので、夕方になると庭の薄暗い平床(ピョンサン)の上で食事を済ませ、みんなで夕涼みを楽しみました。
 平床の周りは잣나무(チャンナム)(朝鮮五葉松)の青葉などをくべて、燻した煙で蚊を追い払いました。今でもあのときの思い出が忘れられません。

記事を書いた人:チョ・ヒチョル
「お、ハングル!」主宰、元東海大学教授。
2009年~10年度NHKテレビ「テレビでハングル講座」講師。
著書に、『本気で学ぶ韓国語』『本気で学ぶ中級韓国語』『本気で学ぶ上級韓国語』『わかる!韓国語 基礎文法と練習』(ベレ出版)、『1時間でハングルが読めるようになる本』『1日でハングルが書けるようになる本』(学研プラス)など。





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