星の王子さまがみた世界
第1回 『星の王子さま』と第二次世界大戦
谷田利文(思想史研究者)
星の王子さまの世界の見方
このコラムでは、フランス語講読のクラスで読んでいるサン=テグジュペリの『星の王子さま』を題材にとり、そこで示される世界観、王子さまの世界の見方を紹介したいと思います。そして、そのことが私たちが生きている世界に対して、これまでとは違う視点を持つきっかけとなればと考えています。
『星の王子さま』は子ども向けの作品?
第1回目は、『星の王子さま』の献辞を取り上げ、この作品が書かれた背景、特に第二次世界大戦との関係について書きたいと思います。
『星の王子さま』といえば、世界で最も有名な児童文学と言っても過言ではないでしょう。しかし、有名すぎるがゆえに、子ども向けの甘ったるい理想論であり、大人の鑑賞に耐えないとして、読まずにすませている方もいるのではないかと思います。しかしながら、この作品には、サン=テグジュペリ自身が従軍した第二次世界大戦の影響が大きいのではないかと考えています。
『星の王子さま』の献辞
それでは、まず献辞を見てみましょう。『星の王子さま』の献辞は、レオン・ヴェルトというサン=テグジュペリの友人に捧げられています。子どもではなく、大人に献辞を捧げる理由として、ヴェルトが一番の親友であること、子ども向けの本であっても理解できること、そして、フランスで飢えと寒さに苦しんでおり、大いに慰めを必要としていることがあげられます。最後に、全ての大人は、昔子どもだったとして、「小さな男の子だった頃のレオン・ヴェルトへ」と献辞が訂正されます。
ナチス・ドイツの支配
『星の王子さま』は、1942年の夏頃に書かれたとされていますが、当時フランスは、ナチス・ドイツに降伏した後、傀儡政権であるヴィシー政府の統治下にありました。ユダヤ人であるヴェルトは、ナチスによる弾圧を恐れ、ジュラ山地の山荘に隠れ住んでいる状態でした。
敗戦の経験から、近代社会自体に対する批判へ
一方、サン=テグジュペリは、空軍の偵察部隊の一員として敗戦を経験し、亡命先のアメリカで『星の王子さま』を執筆しました。故国に残してきた親友を思いながら、ナチス・ドイツへの批判だけでなく、あっさりと降伏してしまったフランス政府への失望、そしてナチスの台頭を許すことになった近代社会自体へも反省や批判の眼が向けられていったのではないかと思います。
サン=テグジュペリの死
『星の王子さま』の執筆後、フランスの解放のため部隊に復帰したサン=テグジュペリは、1944年7月31日、偵察任務中に消息不明となりました。『星の王子さま』は、まさに戦争の只中で書かれた作品だと言えるでしょう。
次回は、『星の王子さま』の中の、大人の社会、考え方への批判的な視点を見ていきたいと思います。
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