ママたちの反逆-保育士による不当な扱いに立ち上がったママたち(後半)
夫と私のAさんへの不信感が強まってきたころ、3人の子どもが保育園を変えた。いずれも引っ越しが原因ではなかったから、さすがに何かあったのだろうと思った。
★最初に耳にした事例はKちゃん。
夫が子どもを保育園に送った帰りに、Kちゃんのママと立ち話をしてきたのだ。夫によれば、Kちゃんのママはとても憤慨しながら、Aさんについて語ったという。
そのママによれば、AさんはKちゃんについて、長らくネガティブな評価をしてきたという。それは、私たちも想像ができた。うちの子もなんだかんだとネガティブなことばかりを指摘されるようになっていたからだ。
ただ、それだけならまだしも、AさんはKちゃんを盗人扱いしたということだった。そのママは、別のママ友からの電話でそのことを知ったらしい。
これは私たちにとっても決定的だった。
私は個人的にKちゃんのことを知っているわけではない。けれど、4歳の子どもを盗人扱いする、というのは保育士のすることではない。それだけで、Aさんが保育士失格なのは明らかだった。
そのママは保育園に苦情の手紙を書いたが、改善されなかったために、保育園を変えることを決めたという。
★同時期に保育園を変えたRちゃん。
Rちゃんのママの話では、保育園内で行われた誕生日パーティーで、RちゃんがなにかAさんの気に入らない行動をとったらしく、Rちゃんはそのパーティーから締め出されたのだという。一人だけ別室に入れられ、パーティーが終わるまでそこで一人で待たされたらしい。
この出来事がどのように明らかになったのかはわからない。
ただ、現実に、Aさんと、その場にいたという別の保育士さんは、「病気で」ずっと保育園を休んでいる。二人がこのことを認めたことは明らかだろう。
★そのうち、すでに夏休み前に、特別な支援が必要だからと保育園を変えていった子のママも、苦情の手紙を保育園に書いていたことがわかった。同様に、Aさんが子どものことをネガティブにしか語らないことに嫌気がさしたらしい。
★また、うちの子の親友Cちゃんも別の保育園に通うことになった。
そのママとは子どもを通して家族ぐるみで仲良くしており、常に保育園のことも話題にしてきたから、なんとなく予想はしていた。
彼女はそこの保育園の方針に納得していなかったし、Cちゃんが保育園に行くのを嫌がっていて、保育園では一言もしゃべらない(らしい)こと、Cちゃんが発達上の支援が必要な子であることに保育士さんたちがまったく気が付いていないこと、それを伝えてもなかなか配慮した保育をしてもらえないことに不満を持っていた。
ただし、私は彼女の愚痴を聞きながら、もともと彼女自体がなんにでも批判的なコメントをするタイプであること(ただし、ユーモアを交えたものだから、聞いていて嫌ではない)、Cちゃんに発達上の問題があって、その問題(集中力に問題あり・周りが騒がしいと混乱する)と保育園の方針(3クラスの子どもたちが園内の空間<演劇・ブロック・算数など空間ごとにテーマがある>を自由に行き来する=多くの子どもが雑多に入り混じる)がどう考えてもあっていなかったことから、保育園とCちゃんとのいわば相性の問題であって、Aさんの問題とは別のものとして考えていた。
しかし、年に1回行われる保育士さんとの面談では、AさんからCちゃんに関してずいぶんネガティブなことを言われたという。それこそ、自閉症の傾向があるとまで言われ、ママもさすがに堪忍袋の緒が切れたらしい。
確かに、Cちゃんは保育園でしゃべろうとしない、保育士さんに心を開かない、保育園のお昼ご飯をあまり食べない(家でも決まったものしか食べないらしい)、うちの子がいないと保育園に行きたがらない、など、問題があった。けれど、Cちゃんは、その発達上の問題を克服すべく、セラピーに通っていて、そういう場所ではちゃんとした対応ができているという。つまり、場所が違えばちゃんと普通に人と接することができることがわかっている。私も、頻繁にCちゃんを預かってきたが、うちの子と2人で遊んでいる限りにおいては、発達上の問題があることにはまったく気が付かない。
また、情報通の彼女は、Aさんの「悪事」をいろいろな人から聞いたらしい。子どもをトイレに行かせない、お昼ご飯を食べるのが遅かった子にはデザート抜き、など、、、。
さて、Cちゃんのママは、その面談を機に本気で保育園探しをする気になったらしい。もともと、セラピー先でも、Cちゃんにあった保育園を、とアドヴァイスされていたようだ。そして、本当にたまたま、こじんまりした、Cちゃんによさそうな保育園に空きを見つけたということだった。
ただし、私立なので、月謝は高い。それでも、あと1年、子どもが楽しく通ってくれるのなら、安いものかもしれない。
こうして、夏休み明けにも3人がごそっと、保育園を去っていった。
他の人に追随したいわけではないが、こうした事例から、Aさんの保育士としての在り方に問題があることは確かだったし、私もAさんの態度・やり方が変わらないのであれば、別の保育園を探すこともナシではない、と思い始めていた。
一方で、保育する人数が少なければ、一人一人にきめ細やかに目が行き届くようになるはずだ。まずは様子を見てもいいだろう、と自分を落ち着かせた。
ただ、クラスから親友を含めた多くの子どもがいなくなって、うちの子がさびしかっていないかということは心配だった。
そこで、子どもを迎えにいったとき、プライベートでも遊んだことのあるママ友に、「ねえ、あなたの子どもはここからいなくならないわよね?」と聞いてみた。すると、彼女はきっぱりと、「いなくならないわよ。でも、私、保育園に苦情の手紙を書いたわよ」と言った。「まだここに残るけど、今後、なにかあったらやめさせるわよ」と、園長にくぎを指したらしい。確かにこのママ友も、以前、子どもを公園で遊ばせながら話した時、Aさんのことが好きではない、と言っていた。
そして、園長から直接、Aさんはもうここの保育園には来ない、と告げられたという。
園長も、口裏を合わせたわけではない苦情や苦情の手紙がここまで出てきたら、もはやAさんをかばいきれなかったに違いない。
私は、Aさんがいなくなったことを、半分ほっとし、でも、まだAさんのことを好きだといううちの子のことを考えて、半分悲しいような気持ちで受け止めた。コロナのロックダウンで、緊急託児のみとなっていた時期、うちの子はもうすぐ就学前児童になるのだから、うちの子には他の子と遊ぶことが必要、と、積極的に受け入れてくれたのも彼女だった。私にとってこれがどんなに大きな助けになったかわからない。無論、これが、Aさんのえこひいきによるものだった、と分かった今、ちょっと複雑な気持ちにもなるが、それでも、ロックダウンで他人との接触を断絶され、子どもの成長に不安を感じ始めていたときに、時短でも定期的に保育園に通わせることができたことは、本当にありがたかった。
でも、同時に思った。確かにうちの子は長らくAさんのお気に入りで、直接の被害にはあっていないだろう。けれど、これまでAさんが他の子に対して厳しくあたったり、ネガティブな発言をしたり、不当な罰を与えたりしているのを見てきたはずだ。これは、うちの子にとって悪影響であることは間違いない。だから、やはり彼女がいなくなったことは、長い目でみていいこと違いないのだ。
この数日後、保育園からの連絡メールで、Aさんと、もう一人の保育士さんが「病気で」休んでいるとあった。噂を変に独り歩きさせないためにも、保護者に事実関係をすべて説明するべきだろう、と思ったが、これについては指摘する人ももういないようだった。ドイツにもこうした「隠ぺい」体質があるのか、とちょっとびっくりしたが、Aさんともう一人の保育士さんの(もちろん、反省・改善したうえでの)職業上の未来のためにも、そこは言うまい、ということなのだろう。
Aさんたちがプロとして失格なのは言うまでもない。ただ、ちょっと同情をするなら、コロナで保育士さんたちも本当にストレスフルな労働を強いられた。慢性的な人材不足もあり(この点は保育士のせいではなく、行政のせいだ)、労働が給料に見合わないと思った瞬間もたくさんあっただろう。その中で、心がすさんでいったのもちょっとは理解できる。
それでも、その矛先を子どもに向けては絶対にならない。どうか、子どもたちが変なトラウマを抱えませんように、と祈らずにいられない。