「聞く前に自分で調べなさい」という指導方法について

私はコールセンターでマネジメントをしています。以前に在籍していたコールセンターのスーパーバイザー(SV)で「分からないことがあったときは、聞く前に自分で調べなさい」という指導をする人がいました。

必ずしも誤った指導法であるとは言い切れないのですが、この指導がいい方法だと思えるケースの方が少ないと思っています。なぜ、いい方法だと思わないのか、それにはいくつか理由があります。

■「自分で調べなさい」がいい指導法だと思わない理由
 ①保留中であれば待たせすぎてしまう
 ②調べるより、教えた方が正しい知識が定着する
 ③オペレーターのストレスになる
 ④教えなかったことによる負の影響がある
 ⑤目的は「自分で調べる事」ではない

①保留中であれば待たせすぎてしまう

シチュエーションが、コールセンターで電話を保留してお客様を待たせてしまっているときであれば、SVはすぐに回答できるよう指示することが求められます。保留中であっても、自分で調べなさいというSVは少ないと思いますが、たまにいるので注意が必要です。

②調べるより、教えた方が正しい知識が定着する

では、保留中でなければいいのかというと、それでも私だったら、自分で調べなさいとは言わないと思います。

自分で調べさせるSVは、知識は自分で調べることで定着するもの、人から聞いてばかりいたら身につかないと思い込んでいて、ともすれば知識の定着は自分で調べること以外ではありえないとすら言わんばかりです。

対して私は、知識は人から聞いたことであっても定着する、また、正確なインプットをしてくれればいいが、誤った理解をされる可能性もあるのだから、しっかりと教えたほうがいい、インプットはその後に時間を取ってもらうほうが有効であると考えます。

③オペレーターのストレスになる

オペレーターのなかには、たまに責任感がなかったり、努力しているようにみえない人もいますが、ほとんどの人は一生懸命やってくれています。おそらく質問をしている時点で、自分なりには調べたけど、それでも分からないから教えてもらおうと聞いてきていると思います。

もしそうだとしたら、その人に「自分で調べなさい」と言ってしまったら、相手はどう思うでしょうか。とてもストレスを感じてしまうことでしょう。

なお、自分で調べなさいと言う前に「自分で調べてみましたか?」と質問をするとしても、注意が必要です。オペレーターからすると、SVは上司です。上司から「調べたのか?」と言われると、もし調べていたとしても「自分の調べ方が足りなかったのではないか」と、まじめな人ほど悩んでしまい、「いいえ」と回答してしまうかもしれません。

④教えないことによる負の影響がある

上述したように、オペレーターは調べた結果、それでも分からなくて、勇気をもって質問をしているかもしれません。その時に「教えてもらえなかった」「自分で調べろと怒られた」と感じてしまっていたら、そのオペレーターは次から質問をしにくくなります。

質問がしにくい職場、意見がいいにくい職場はリスクを抱えています。

質問がしにくければ、オペレーターが不明なことでも適当に答えてしまうかもしれません。お客様から「~でしょ?」と質問をされたときに「念のため確認したほうがいいかもしれないな、でも聞きにくいし、たぶん合ってるからいいや」と考えてしまう人もいるでしょう。

「もし間違っていたら後から叱られるだろうけど、どうせ今質問をしにいっても調べなさいって叱られる、たぶん大丈夫だから、このまま流してしまおう」という心理になるかもしれません。

⑤目的は「自分で調べる事」ではない

オペレーターの仕事は、お客様と向き合うことにより信頼を得ること、お客様に満足していただくことです。知識の定着や、自分で調べるということは目的ではなく手段です。

オペレーターが汗をかくべき場所は、お客様と向き合うこと、お客様の心情理解に努めて、お困りごとを解決したり、お客様に思いを伝えることです。そのための手段である、知識定着のために汗をかきすぎてはいけません。

オペレーターの知識定着のサポートや、知識がそれなりにあれば対応できるようにサポートすることがSVの役割です。自分で調べなさいと突き放す方法は受験勉強のころのクセでしょうか。仕事は受験と違ってカンニングOKなので、暗記を前提とする受験勉強の頃とは、教育の在り方を切り離して考えてみてもいいかもしれません。

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