グレーのなれの果てに

白黒はっきりさせたい性分だ。姉は「世の中の95%がグレーなことで、何でも白黒つけたいあんたにとっては生きにくいから、グレーなことも受け入れた方がいい」と仕事や人間関係でうまくいっていなかった当時の私に言った。

社会で生きていくためにはグレーであることも必要だと数々の出来事で思い知って、結果的にグレーを受け入れた。そしてグレーの中でもがき苦しみ、取り込まれた。

この十年くらい周囲に忖度し続けて、あたりさわりなく接することを心がけて、相手にどれくらい気持ちよく仕事をしてもらえるかだけを考え、一生懸命細心の注意を払ってきた。自分のことはいつも後回しにして粗末に扱って、常に他人の目を気にし続けて勝手に萎縮し、目に見えない何かに遠慮していた。そんな自分が大嫌いでいじめ続けた。隠し持った刃を己に向けることしかできず、そうすることでしか愛せなかった。

伝説の防具一式と武器を装備していると思っているのは自分だけで、裸でひのきのぼうしか装備していなかったことに微塵も気づかず、自分のことを殺しに殺し続けたある日、ついにHPが1の瀕死状態になった。 

そんな中、ふと手にしたしいたけ占いの本で「鶴の恩返しの鶴みたいに、自分の羽を全部使って織ってしまう」という一文を目にして、立ち読みなのに不覚にも涙がボロボロとこぼれて止まらなくなった。気づいたら、本当に羽がなくなっていて何も織ることもできず、飛ぶことすらもできない自分がいた。それから謎の体調不良もあって2年もかかってしまったけれど、体調も全快ベースになってきて、やっと身体の不調を考えずにすむようになってきた。

私の中ではもうグレーに徹する必要もないし、何よりも自分のためにグレー地獄から白黒はっきり性分に戻る。シンプルに、私が嫌だからやらない。でもやりたいことはとことんやる。他人へ注いでいたまちがった愛情やお膳立てのすべてを、自分のために生かすことに決めた。

大嫌いだった自分のことも、被写体を濃厚に賛美する全盛期の加納典明のごとく甘い言葉をささやきかけ、自虐三昧だった己を今更ながら少しずつ少しずつ励ましている最中だ。不思議と典明ちっくな己も、それを受けいれる今の自分も嫌いじゃない。

姉はさらに「あんたは変人なのに、なぜそれを認めようとしないで普通の世界にいるの? なぜ変人の頂点を目指さないの?」とも問う。確かに私は変人か変人じゃないかと問われれば、変人だと答える。でも変人界ではまだまだ下っぱで、上を見たらキリがない。誰が頂点でどうやって目指していいのかもわからない。

それでも、他人から悪意のある「変わってますね」という言葉を投げかけられても、「そうですね」と笑って全肯定できる自分でありたい。そう思いながら泣いてこの文章を綴っている。泣いていることで生を実感する。そうやって今日も生きている。生きていく。

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