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100m以上は有りそうな廊下 空気が濃くて重い
照明が暗くて圧迫感が半端ない

床には絨毯が敷いてあり足音は消される
左右には、ずらっとブラウンのドアが並んでいる

廊下の突き当りには出口が在るはず
見えないけれど必ず在るはず

ゆっくり歩いていた僕が早足になる
走り出すと床の絨毯が僕の脚を押し返す感じがする

後ろから何かがやってくる、怖くて振り返れない
腕を広げ、恐ろしいスピードで追ってくる

数倍も大きくて力が強くて
捕まったら引き裂かれて殺される

奴の足音が絨毯にくぐもる
やたらに重くて速いドラムみたいに

奴の手が僕の肩を掠める
恐怖は尾骶骨から背筋へ頭頂へ抜ける

もっと早くもっと早く走らなきゃ
脚がもつれる水の中を走ってるみたいだ

捕まる 殺される 助けて助けて助けて

「涼次」
揺り起こされた目を開けると大好きな優しい顔が在る

「こたつで寝ると乾いちゃうよ」
ポットから暖かいお茶を淹れてくれた

僕はnotePCを閉じて、お茶を飲む 午前2時
「ほら、ベッドで寝るよ」

アヤに手を引かれ寝室へ、キングサイズのベッド毛布に潜り込む
アヤの香りを嗅ぎながら
「はい、頭を上げて」

バスタオルを巻いた氷枕、僕はこれが無いと安眠出来ない
向かい合う横臥、唇が触れる、アヤの手が僕の頬を包む

「怖い夢見た?」
アヤの瞳に僕が映っている、情けない顔だ

「ここに居るよ」
力いっぱいハグされた、抱きしめ返す、ふぅうっと息を吐く
あぁ呼吸が楽だ 二人の匂いが混ざっている

「追いかけられる夢 大きな生き物に追われた」
「私が居るよ」

口角が上がった 息が楽なのが嬉しい
好きで居ると恐怖に打ち勝てる

アヤを愛する気持ちが僕を強くしてくれる
恐怖と闘うのではなく恐怖を無視出来る

怪物は僕の父親
独り暮らしをするようになって怪物は現れなかったのに

暴力衝動を開放したら出た我ながら解りやすい
アヤと香りを混ぜる事で思考のチャートに取り込めるくらい客観視している

子供の頃の僕は嫌な奴だ
相手の要求を先読みし良く思われたくて上手く立ち回った

顔色を読むのに長けていて
不味いシチュエーションはとことん避けた

父が暴君だったから、一年の内300日くらいは殴られ罵られていた
母は毅然と父に立ち向かい理非曲直を示し戦ってくれたけれど

そんな母の態度も僕に責任転嫁して父は僕を責めた
父の手は、やたらに大きくて指なんかでかいバナナみたいだった

それが見えたと想うと頬がぱぁんっと鳴った
ちょっとはしゃいだ、食事で飯粒を零した、ほんの少し言う事が解らなかった

全部懲罰の対象だった

父は会社を経営していた、イタリア人の友人が提供してくれた商品のおかげで商売は繁盛していた、それでも思い通りに為らないことが有ると家に帰ってから僕に憂さ晴らしをした

変に期待を寄せていたのか、学習環境だけは整えられていた
でも、日々怯えIQ=情報処理能力が下がっている僕は いつも成績が悪かった

成績が悪いと詰められる

高校を卒業するとき家を出ようと自衛隊と警察を受けた
両方、不合格だった、成績が悪い訳じゃない、父が手を回していた

大学だけは出ておけと母に勧められ、入学金をだしてくれたので、学資のリーズナブルな今の学校に入学、住み込みのアルバイトを探して家を出た

家を出て半年くらいの頃から悪夢を見なくなった、実家に居る時は毎晩、追ってくるものこそ違え苛んで居た悪夢

大学の講義は面白かった、足りなかった知識も智慧も日々補っていった、情報処理能力は上がった

父から連絡が有った、母が出してくれた入学金を自分に返せと嫌がらせ、期限まで切って来た、新宿2丁目のバイト先に相談したらシークレットサークルを紹介された

「ずっと怖かったんだ、毎日殴られて逆らえない相手だと思ってた」
「2歳の時から、怖かったね、でも克服できた」

「母が闘えと言った、四谷の寺の坊さんが体術を教えてくれた」
「肉体的にクリア」

「でも、父が怖いままだったけど、父が僕を恐れているのも朧気ながら解った」
「そして、経済的に痛めつけて来る」

「肉体の恐怖をクリアするよりは楽だった」
「そうかぁ」

「女の子の始めて見たいなものさ」
「あとは皆同じ?って違うからね 涼次じゃなきゃ嫌だから」

「有難う、 でさ、気付いたのさ」
「情報処理をして?」

「プレッシャー、抑圧から抜けたら見えた、親父はバカなんだって」
「同じDNAを持っているのに?」

「差をつけるにはEQを磨かなきゃって思った、あいつは祖母祖父からの愛に恵まれず、配偶者である母から初めて愛されて舞い上がった、嬉しかったんだろうね」
「何となく解る気がする」

「で、だ」
「うん」

「その愛してくれる配偶者を奪った奴が居る」
「あ~ 涼次か」

「無力な赤ん坊に叶う奴は居ないのさ」
「愛を注がないと死んじゃうものね」

「父も、最初は協力しているふりをした」
「でもEQが低く、感情を抑えられず虐待に向かった?」

「石原慎太郎のスパルタ教育が愛読書だもん、たまりませんがな」
「お父様は涼次の反面教師?」

「そうだね、愛されたいは後回しで良いと想った、愛したい愛するを最優先に、好きな相手の楽しいと楽を最優先に」
「んっ ナイトメアを見たのは五十嵐たちをぶっ飛ばしたせい?」

「トリガーになって瘡蓋が剥がれたんだろうね、力で抑えつけるのは愚の愚だと知っていながら我慢が出来なかった」
「クラウゼヴィッツ曰く」

「戦争も政治だって?」
「私は涼次が闘ってくれて嬉しかった」

「軽蔑してない?」
「してない、ご褒美に抱かれてあげる」

唇を合わせて、二人に隙間が出来ないくらいハグ

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