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日々育っていくものは愛しい、美しい。
仔猫だったミケは日々大きくなっていく、舞子が小学校に入り、送り出すと、僕の趣味部屋から起きてきて、違法建築50度の階段の上から、僕を見ている、ダスキンを掛ける間、とんとんと階段を着いてくる。
PCを立ち上げて、海外とやり取りをする、客先からのメールに返事をし、動きを組む。

ミケは僕が使っていない方のデスクで香箱になり待機する。

家事を終えた母が出社してきて、宮田さんが来て、僕が珈琲を入れる間、会社のカウンターに移り、出入り口を見ている。

親父が自分のマグを持って珈琲を汲んでいる間は、CRTディスプレイの影に退避する。

親父は3階の書斎に籠もり、「嫌だな辞めたいな死にたいな」を歌って、月に100万がとこ会社から持っていく。

Windowsはどんどん進化して、パソコンも進化していく、CRTは15インチの液晶になり、98が98SEになり、自作ブームだった当時、ヨドバシ、ビックで部品を扱っていたし、もっと至近にツクモの新宿支店も有ったから、どんどんモディファイをしていく。
余った部品でもう一台組めるくらい、余ったので学校から戻った舞子が遊べるPCを組んだ。

セックスレスは続き、本当に求められて、千尋が趣味部屋に襲来したときだけ応える。

睦み事もコツがある、糜爛に数の子天井だの、みみず千匹等と言うが、有る意味、全ての女性がそうで、天井はGスポットと呼ばれるもの、千匹の方は女性が満足すると起きる蠕動、子宮が降りてくる状態。

だから、女性に粗器なんて言う雄は短小か早漏、自分勝手、あるいはその全部だ(笑)

一所懸命、コツを使おうと想うのは愛しいと想うから、子供が出来て、やり直せるか? 愛情に優る媚薬は無い、子が可愛いから、妻も愛する事を努めようとしていた。

睦んだ後、千尋は動けなくなるので、僕とミケは12畳の寝室で眠ることが出来る、舞子と二人と1匹で眠り、翌日布団を干すのと、シーツの交換洗濯が必要になる。


求められるのは月に一度も無く、僕のメンタルが けっこうしんどかった。セックレスが離婚事由に為るのが身を持って解る(笑)
PCとネットを手に入れた僕はバーチャルラバーに出会い、ネットの中でやりとりをするようになった。

ルナというHNの女性で半年のやり取りの後、電話をするようになった。

16も年下だったけど、舌を巻くくらい賢く、チャットのやりとりで始終やりこめられて凹まされた。 ネットの事、何かと教えてもらい、仕事に生かせるように為ってくる。

彼女と話すために、僕のPCスキルはどんどん上がった。


ネットが珍しくて、文字だけのやりとりなのに、どんどん盛り上がって、中学生の頃に戻った様な、プラトニックなだけに純愛(笑)

でも、ルナは絶対に逢ってくれなかった、不倫は絶対に嫌だと言う。実際に逢ったら…
実際に逢えたのは知り合って10年後僕が離婚が決定してから ワイルドな別嬪だ(笑)

女の子を育てる上で、困っている僕に簡潔で適切なアドヴァイスをくれた、特に舞子を自分の思い通りに押さえつけようとする千尋と僕が揉めないようにソフトランディング出来るよう方策を考えてくれる。

ルナとの交流は僕の精神を安定させた。


客周りをして、夕方会社に戻った。ミケが液晶ディスプレイの前に香箱座り、僕のデスクで舞子がドリルをしていた。
「パパ、おかえり」
「うん、どうした?」
雰囲気が違う、うつむきがちだ。

「おい」
こっちを見ると眼底出血している、目の奥が紅い。
「どうしたの?」
「なんでもない」
「怪我してるじゃん、痛くないの」
「ちょっと痛い」
「ママは?」
「寝ている」
準夜勤明けか?

「医者へ行こう」
「いいよ、もう終わってるでしょ」
僕は自分が心臓を切った病院に電話して、知り合った内科の医師に繋いでもらった。 眼科の医師が残っていると言うので舞子を車に乗せて、走り出した。

夕方の甲州街道が混んでいる時間でも9分で到着した。
パーキングに入れて指定された診察室へ行く。
女医さんだった。
「硬いものが当たった」
「はい」
「学校で?」
学校なら、校内の保険が有るらしい。
「家で」 
「どうしたのかな?」
舞子が泣き出した。 映像が浮かぶ僕のパソコンデスク、椅子背もたれに舞子のカーディガンが掛けてあった、僕が英国で買ってきた、綺麗な金属のボタンが着いている、ごっつくて重い。
「そんな感じの傷ですね、ちょっとごめんね、お父さん、外のソファで待ってくれる」

僕は診察室の外で待った。
看護師に呼ばれて戻る。

医師がカルテに書き込んでいた、人型の数カ所にマーキング。
「眼は大事になっていないので、目薬で治療します」
「はい」
「問題は痣や傷がありますけど、どういう事でしょう」
女医は僕の目をまっすぐ見てきた。

「ママだよ」
舞子が言う。
「舞子ちゃんに話は聞きましたが、お母さんのストレスが舞子ちゃんに向いているようですね」
「あら」
僕は物凄く間抜けな反応をした。
「眼は宿題を済ませてパソコンを弄ってたら、怒られたの、宿題はやったもんって言ったら、カーディガンを振り回してぶたれて、ボタンが目に入った」
「普段から、ぶたれていた?」
「つねられたり」
「ごめんな気づかなかった」
「パパには絶対に言うなって言われてて」

頭がブリザードみたいに冷たくなった。

「お父さんは暴力に訴えたりなさる方じゃないと想いますので、カウンセリングを奥様ともどもお受けになることをお勧めします、心療内科を紹介しますか?」
「はい、一度子供を隔離して、妻と話し合ってみます、その後、連絡させて頂きます」
「では、こちらに電話を」

名刺を貰って辞した。

新宿で夕食を摂った、家に戻りオフィスの灯りを点けて、エアコンを入れた。
舞子にパソコンを許可した、トイ・ストーリーのソフト。
「目薬をさして、5分たってからな 15分遊んだら休む」
僕はタイマーを掛けて、3階へ、ミケが階段を降りてきた、抱いてオフィスに戻り、舞子の側に降ろす。
「舞ちゃんと遊んでてよ」
ミケはデスクの上でグルーミングを始めた、舞子が撫でてミケは目を細めている。

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「さてと」
ゆるっと階段を上がっていく、タイを緩める。
しゅうしゅうと変な音が聞こえている、あぁ僕の吐息だ。 いかんいかん、呼吸法を変えた、感情がすっと静まる。

トリガーを絞る時は感情をどこかに置いておく、感情はブレットに込めたら良いんだ(笑)

千尋は寝室に居た、洗濯物を畳んでいる。 僕はタイを壁のハンガーに掛けた、乾かさないとね。
「おかえりなさい、遅かったね」
「ですね」
「舞ちゃん知らない?」
「病院へ行ってきたよ」
千尋の顔が青くなった。

「パソコン、止めないから」 
「宿題終わっていて、明日の分のドリルしてたよ、けっこう怯えていた」
「言うこと聞かないから、ちょっと叱ったの」
「カーディガンで?」
「軽く叩いただけで」
「金属のボタンが当たって眼底出血していた」
視線を合わせた、頭が冷たい、知らずに奥歯を噛んでいた。
「やめてやめて酷いことをしないで」
千尋は洗濯物を抱きしめて叫んだ、畳んだのに台無しだ。
「騒がないでよ、酷い事をしたのは おまいさん、舞子に怪我をさせたね」
「言うこと聞かないから」
「思い通りにならないと暴力、僕も振るわれた」
「ごめんなさい、許して」
「やだよ、未来永劫赦さない、僕の大切な娘を傷つけた」
「仕方ないじゃない、躾だもの」
「宿題が終わって遊んでいただけだ、おまいさんは自分が動かせないPCを子供が弄っているから嫉妬しただけ、僕の親父そっくりだな」
「お義父さんと似てない」
「うん、おまいさんの感想は聞いてない、未来永劫赦さない、それだけ覚えておいて」
「何をするの?」
「何もしないよ、舞子が困るもの、履き替えたほうが良いよ、いい年して、お漏らしなんて恥ずかしいね」

僕は階下のオフィスに戻った。 3kgしかないミケが舞子の膝に乗ってグルグルと喉を鳴らしていた。

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