神皇区、旧教会の礼拝堂、ロッソはマントラを書いた樫の板に縛られている、肉を打つ音がする。

 カノンが留守の間、人の形をしたアキュラがロッソをサンドバッグにしている。どすんっ、がきんっと音がする、殴られるとそちらに顔が行き血が飛ぶ。
 ロッソの顔は腫れ上がり、腹を殴られて胃液を戻す。万歳の形に縛られた腕に体重が掛かりぐったりとしている。
「どうだ、思い知ったか、紅い豚め」
 アキュラは得意になって今度はまわし蹴りの爪先をロッソの腹に入れた。
「ヲレは強いのだ」
 蹴り損ねて、突き指気味の右親指を気にしながら吐き出した。うつむいているロッソの口から舌がせり出す。
「おまえの国の疎開所はアモンに密告してやったのだ」
 嘲るようにアキュラが言う。俯いていたロッソが腫れた顔を上げた。目に力が戻ってきた、蒼い炎がちろちろと立ち上がる。
「なんだその目は、もう、アモンの軍団はクロノスの包囲を解いて北へ向かっているぞ、明日の朝には皆殺しだな、金山もおまえの手から離れる、ヲレと同じ貧乏になるのだ、国民は皆殺しだ」
 アキュラはおはやしを入れるように、ワンツーパンチを顔面に叩き込む。ロッソの頭の中できんっと音がした、首の骨がぐきりと言う。その中でルナの声を聞いた。
『馬鹿!!!マリアが死んだわ、早く帰りなさい、あなたの国を守りなさい、ロッソ聴いているの?』
 身体に力が戻る、アキュラを睨みつける瞳に力が戻っていた。
「やばい」
 アキュラは慌てて竜に変化(へんげ)しかけ、その途中で竜の爪をロッソにたたきつけた、ロッソが身体を捻ると、それは上手に縛っている縄を切り、ロッソは間一髪身体を沈めた。
 ロッソが右手を伸ばすと魔方陣からグラムの宝剣が飛び出した。
「なんだいったい」
 アキュラの細い目が丸く開かれた
「魔法を使えるのは自分たちだけだと思ったか?」
 腫れ上がった顔でロッソが笑った。
「なんの、竜になったヲレは不死身なのだ」

 4mの竜と化したアキュラが爪を振るう、ロッソが飛びすさると、竜がオレンジの炎を吹き付ける。剣を横にして炎を防ぐ。剣が正眼に構えられた、そのまま摺り足で剣を突く、あっという間だった。
「剣など跳ね返せる・・・」
 言いかけて、アキュラがのけぞった。突き出されたのは並の剣や刀では無い、特別頑丈に鋭く、そして重く創られた神剣、グラムは柄まで胸にめり込み背中から切っ先が飛び出す、刺す瞬間に90度曲げたから、黄金色に輝く剣が水平になっている。

「ぎゃあああああああああ」
 痛みに炎を吐き、羽をばさばささせる、暴れるたびに赤い血が飛び散り、ロッソを赤く染めていく、全身を紅に染めながらロッソは全身に力を溜める。
 ロッソの腕に力瘤ができる、アキュラを突き刺したまま持ち上げると、そのまま今まで縛られていた樫の板に突き刺した。
ずどんっと音がしてアキュラはグラムの神剣で縫い付けられる。

「痛い、痛いよぉ痛い」
 炎を吐く口を目にも留まらぬ速さで殴り続ける、、ニのような口を落ちていた帯で縛った。
「痛みに、だいぶ身体が縮んできたな、今、俺と同じくらいじゃないか」
 ロッソが笑った。竜のヤギの目が、返り血を浴びたロッソを睨んでいる。
「ジークフリートは竜の天敵だって知らなかったのか? どこのアカデミアを出たんだ、中退か? 勉強していないのか?恥ずかしい・・・。ついでに教えてやる、竜の変化(へんげ)が解けたとき、、お前は死ぬのさ、竜殺しのグラムに刺されているんだ。ノートゥングという神剣を鍛えなおした竜殺し用の特別な剣だ。カノンの魔法も利かない、刺した俺以外抜くことも出来ない。気合で竜のままでいないと即座に死ぬぞ」
 ロッソは落ちていた服で顔の血を拭いた。髪が赤毛に戻っている。

「長生きしろよ」
 ロッソは魔方陣に飛び込んで消えた。アキュラは脚をバタバタするしか出来なかった。

 カノンが教会に帰ってきた。マントラのボードを見て目を丸くする。
「アキュラ!!どうしたの?」
「ロッソにやられた」
「酷い、痛いでしょう、でもどうして魔法が解けたのかしら」
 カノンは首をひねる、アキュラは、ばつの悪そうな顔をする。
「ロッソは逃げたのね」
「逃げたと言うか・・・魔方陣からどこかへ行った」
「そう、まぁ良いわ、アキュラ、剣を抜いてあげるから抜けたらボードから退いて頂戴」
カノンは手を合わせて目を瞑り呪文を唱える、目を開け呪文を唱えながらグラムの柄に手をかける、グラムはびくともしない。
「困ったわアモン元帥が戦を終えて、明日か明後日には儀式をしたいって言うのに」
「カノン、嬉しそうなのはどうしてなのだ?」
「いい男なのよね、ロッソよりイケメン、ロッソの金山も手に入れるって言っていたし、今、彼は独身だから元帥夫人?」
 カノンはウキウキしている。
「ヲレのことは心配じゃないのか」
「アキュラのことは愛しているわ、大丈夫、夫があっても恋は出来るから、ドラゴンのままなら不死身でしょう。そのまま抜いて、治ってから人に戻れば大丈夫よ」
「大丈夫じゃない、ドラゴンから戻ると即死だと紅い豚が言っていた」
「即死?大変、埋葬にお金がかかるわ」
「ヲレはまだ生きているのだ、グラムが抜けないだけだ」
「グラムなの?これ」
 カノンは顔色を変えた、竜殺しグラムではアキュラは助からない。気が抜けて人に戻るときがアキュラの死だ。だけど竜で居る限り死なない。カノンはパラドックスに陥った。
 アキュラは心臓に差し込まれたグラムに痛みを感じて苦しみ続ける、痛みが気を張るのを助け竜の形を保持しているから死なない。
「心臓が鼓動を打つ度に痛い、左の肺にも刺さっているから息も苦しいのだ」
 竜は口から煙を吐きながら言う。 どうやって退けたらよいのだろう。カノンは必死に考えた。アモンが来たときに儀式が出来ないと、今後、彼を操りにくい。ボードごとアキュラをどけて新しいボードを新調しようか?
 明日までに間に合うだろうか? アモンと都へ上って宮廷に出入りして、皇妃と不仲なハドリアヌス皇帝を・・・そうしたら私が皇妃?
 思案に気持ちが、またウキウキしてきた。アモンとのコネクションで願っても居ないチャンスが巡ってきて、成功と富を纏えそうなのに・・・フォーチューンエンブローブを邪魔するのは誰?
 その邪魔者は口から小さな炎を吐き、自分の痛みに頭が一杯でカノンのことなど一つも斟酌していない。
『あたしを愛していないのねアキュラ』
 カノンは心で言い、深いため息をついた。

 シヴァの城館、一番大きな風呂の湯船、なみなみと張られた湯の中でロッソが泳いでいた。 ざばぁっとホエールジャンプをすると、赤毛が後ろに鞭のようにしなり、透明な水滴がその延長の様に湯が飛んでいく。

「きゃっ」
 悲鳴を聞いて振り向いた。
「やぁ、マリア」
 湯船の中にマリアが立っていた。
「お行儀悪いんだから、相変わらず、やんちゃですね」
「うにゃ♪」
 マリアは黒髪を解き、腕をクロスさせて胸を隠している。
「魔法が解けたんですね、おかえりなさい」
「ただいま、俺の分まで頑張ってくれたんだね有り難う」
「頑張りました、ご褒美をくださいな」
 しなやかな腕がロッソの首に廻り、裸の胸に美しい乳房がひしゃげる、黒髪が傾いで唇を合わせた。
「私があの晩、竜の尻尾を掴んでいたらって、ずっと思っていました」
 マリアの目が悲しげだった。
「マリアの責任じゃないよ、俺がだらしなかった」
「でも、指令所に立たずに居られなかった」
「悪かったな、俺が悪い」
「いいえ、楽しかったし」
「あらまぁ」
「騎士の娘ですもの」
 ロッソがうなじを撫でた。マリアはくすぐったさに少し身を捩る。
「お支度は、あがりに置いてあります、剣はバルムンクしかなかったから」
「ありがとう、いつも気遣ってくれたね」
 ロッソは礼を言った。
「3人であなたのお世話をするのは楽しかった、これからは2人にお願いしなくちゃいけないけれど」
 ロッソが頷いた。
「ここへ置いていただいて嬉しかった、女に生まれてよかったとも思えた」
「マリア・・・」
 ロッソの手が左の乳房を包んだ、顔をそっと近づけていく。
「綺麗な胸だね」
 乳房に息がかかる。ちゅっと乳首にキスをして、口に含む。
「あんっうれしい」
 マリアの細い顎が上向く、黒い髪が揺れる。
「俺もだよ」
 黒い瞳と蒼い瞳が見つめ合う。
「本当はお情けを頂戴したいのですが・・皆が殿を待っています」
「うん」
「さぁ、お行きなさい、あなたの戦場へ、私は霧の国へ参ります」
 ロッソが微笑んだ
「ロッソ、生まれ変わってまた逢えたら・・」
「逢えると良いな」
「生まれ変わっても私だと判って頂く為に」
「ん?」
「私も、あなたの魂に歯形をつけたい」
「良いよ」
 ロッソが笑う
「だめだわ、やり方がわかりません」
 ちょっと寂しそうに言った、
「きっと逢うよ、わかるさ」
「はい、歯形は諦めます、その代わり」
「どうした?」
「私を埋めたら、花を植えてください」
「何がいいの?」
「キルシュボイメ」
「春に美しく咲いて、はらはらと散る、ひんやりとした花・・」
 マリアが嬉しそうに頷いた、もう一度抱きしめられて、くちづけを交わす。離れて見詰め合う。

「さようならマリア」
「さようならロッソ、逢ったときも裸、お別れも裸ね」
「一番綺麗な貴女だよ」
 マリアは恥ずかしそうに頬を染める、ロッソが出て行った。 黒い甲冑をつけたロッソが城壁の一番高所、指令所に顕れた。
「殿様」
 周りの声に、ルナとヒルダもロッソを見つめる
「身体をここに置いて行っちゃったんだね」
 家来の間を抜けてロッソがマリアの遺体に近寄る。
「ヒルダ、ごくろうさま、ルナ、魔法を解いてくれてありがとう」
「ロッソ」
 ルナとヒルダがロッソにしがみついた。腕をひろげて2人を抱きしめる。黒い甲冑を着た男女。
「マリアとお別れしてきたのね」
 ルナがロッソをみつめた
「うん」
「湯上りの匂いがする。お風呂場か・・・3人で初めて入ったときマリアが一番恥ずかしがっていたのに」
 ヒルダが頷いた。 ロッソがバルムンクを抜いてマリアの胸の鏃だけを斬り飛ばした。
「抜いてやりたいけど、血がこぼれるから」
 そっと表情だけで笑いながら、マリアを抱き上げる。
「部屋に寝かせてくる、戦が終わったら、中庭に・・・キルシュボイメを植えようと思う」
「ステキね」
 ルナが緑色の右の目から涙をひとつ零した。ロッソはマリアを抱いて階段を降りていった。 初冬の風が空を泣かせていた、木の葉が舞い散り吹き溜まりに山になる

 黒いグラーネに跨る赤毛のロッソ、黒い甲冑に身を固め冑は脱いで紅い髪をさらしている。
 紅く紅く誰よりも紅い、竜の血で染められた紅い髪を靡かせて三千のイノシシ軍団を従えている。 城壁の大門の内側、グラーネの馬首を返して軍団に向き直る。
「我がシヴァ国の同胞(はらから)よ」
 バリトンの大音声
「うーんと」
 急にくだけた
「とのさまぁ」
家来から声がかかる
「石打ちをしようぜ、ラッセルは騎馬で俺たちの3倍居る。でも、俺たちは石打ちをして一度も負けたことが無かった」
「そうだぁ」
 家来が皆、気勢をあげた。馬が足踏みをする槍を、弓を振り上げる。ロッソがにこにこ笑っている、小さな声で言う。
「神光なり、神我とともに在り」
 なんどもなんども、小さな声で、にこにこ笑いながら。

 家来たちは気勢を上げるのを止め、ロッソに注目を集めた。
「神皇庁に税金を払ってきた」
「殿様は俺たちの分も、カウントベリーに払ってくれた」
「みんなが働いてくれる御蔭で、金があったからさ」
 ロッソが笑う
「そんなことをしてくれるのは、シヴァだけだ」
「でもさ、その金、坊主にやらないで、皆で使いたくないか?」
 家来衆はあっけにとられた。
「俺はさ、周りの国とも上手くやらなくちゃならないから、神皇庁に頭を下げて、税金払って、教会を作って礼拝に行って、城にも礼拝堂を造った、それでうまく行くなら、教会に頭を下げるのもやぶさかじゃない」
 皆が耳を傾けている、騎馬の後ろに歩兵、そして市民も。
「時間が無いから簡単に言う、既に俺たちは異端にされた。 降伏しても奴隷にされるか、殺されるかだ、俺はハドリアヌスをブッ飛ばす」
 ロッソが皆を見回す、誰も口を開かない
「俺に預けてくれ、破門されても地獄なんかへ行かないで済むと証明する」
 皆が真剣にロッソを見つめる
「必ず、戦が終わったら説明するから、神はどこにでも居る、この馬の吐息の中に、おまえの剣のなかに。空に、恋人の唇の中に、そして一つだ、唯一なんだ。神の声は力は、坊主に中継ぎしてもらわなくても俺たちの中に在る、それだけ信じろ」

 おぉーーーと気勢が上がった。
「合言葉だ、神光なり、神我と共に在り」
その場に居たものが斉唱した。
「神光なり、神我と共に在り」
 ロッソがにっこり笑う
「いつも、神は離れない、いっしょに居てくださる」
「神光なり、神我と共に在り」
 群集が叫んだ。
「坊主に破門にされても、神は破門なんかなさらない」
「殿さまぁ」
 伝令兵が駆けてきた
「どうした?」
「エイジアの兵隊が、アッチラス軍と思われるものがガリア王の後ろに、騎馬で一万」
 アッチラス軍はエイジアから、数百年前に大陸の神皇領に攻め込み神皇区の一番東の端に国を造ってしまった。
 その強さと苛烈さで悪魔の軍団と恐れられ神皇皇帝の力も及ばない。 騎馬の扱いが得意で、馬上での斬り合い、弓の使い方が巧みな軍を持つ。ロッソの騎馬隊もここのやり方を取り入れアレンジしている。
「ハドリアヌス、フォン、金でアッチラスを買ったか?」
 ロッソの闘志が燃える、アッチラス一万なら、ラッセル十万のほうが与し易い。
「それが殿様、アッチラスを率いているのはイシュタルさまで」
「あにゃ?」
 一瞬ロッソが固まった
「ぶっははははは、やるなぁ」
 ロッソが大笑いした。意味を察した家来が勝どきを上げた。
「それじゃぁ、挟み撃ちだ、面白くなってきたぜ、やろうぜみんな」
「おーーーー」
 ルナが駆け寄ってきた、ロッソはグラーネから身を乗り出してキスをする、ヒルダを右腕で抱き上げてキス。そして、宙に唇を突き出してキス。家来がひゅーひゅーと冷やかす
「門を開けろぉ」
 3千の紅いイノシシが飛び出した。 するすると門を一列で抜け出し、ヒースへ向かいながら、どんどんv字に成っていく。 土煙が立つ、坂の上からラッセル軍の騎馬が突っ込んでくる、ひづめの音が重なり地鳴りに聞こえる。
ロッソの軍が馬の上で弓に矢を番える、タイミングで放つ一本のはずれもない、巧みな騎射にラッセル軍がばたばたと倒れる。
北国の兵たちは落馬した兵をよけようとして馬が転ぶ、落馬する、シヴァの軍から矢が間断なく放たれる。

 イノシシ武者は誰も彼も鍛え上げた兵士だ、張り詰めた糸を滑るようにラッセルの将兵に矢が吸い込まれて行く。 ガリア王の一万騎が向かって左の街道から、戦線を離脱し始めた、なかなか見事な撤収だ。
アッチラス軍は黙って見送る、騎士がほとんどのガリア軍の撤退は驚くほど早かった。

 紅い髪の騎士が戦場を単騎駆けていく、グラーネは黒い槍のように、ラッセルの本陣に突っ込んでいく。 バルムンクを振るたびに敵が斬り飛ばされる。
「殿様、無茶だ」
 ゾルダート達が驚いた
「殿様を殺させるなぁ」
 黒い甲冑のイノシシ軍団は錐をねじ込むように、ラッセルの中央を突破する。北の兵が押し包もうとしても当たりの強さが桁違いだ、あっさりと跳ね返される。
 馬上で使い易いように反りの深いジャポネスクの刀、鉄もヘイバイトスが鍛えに鍛えている。カミソリのような切れ味に、しなやかな刀身が敵の甲冑ごと分断する。

 ロッソは選りすぐりの近衛兵に固められたラッセルの本陣に突っ込んだ、。グラーネが暴れまわる。十騎の近衛兵がロッソを取り押さえようとして、あっという間に斬り倒された。
二十人ほどで王を背負いロッソ一人を囲み、こちらに槍を向けてくる。

「スラビア国、ラッセル王とお見受けしたが如何?」
「逆賊、異端のシヴァ王か」
 ロッソはグラーネから降りた、ラッセル本陣の周りはイノシシ武者に囲まれた。外側のラッセル兵は囲みを破れず右往左往している。
「私の留守中、私の領内に入り込み、陣を敷き私の城を攻めたかど、ゆるすまじ、一騎打ちを所望いたす」
「小癪な若造が、神皇教会の勅旨により、生かして捕縛するつもりであったが、生意気千万ゆえ、討ち取ってくれる」
 ラッセル王はベルグマンの法則に従い、身の丈2m30を超える巨漢、白銀の甲冑に身を固めている。
 ラッセル王の小姓が剣を恭しく差し出し、恐ろしく大きな手で恐ろしく長い剣を抜いた。
 甲冑を着たままがしゃがしゃと突進してくる、速い、甲冑の重さをものともしていないようだ。ぶんっと刃風が起きる、ロッソの首の辺りを水平に薙いだ、ロッソの身体が沈む
 左手を地面に着き、軸にして身体を廻す、右足で相手の両膝の裏を蹴った。 ヒグマのようなラッセル王が仰向けに、つま先を上にしてぶっ倒れる、ロッソが振り下ろしたバルムンクが顎の下から入り首の後ろに抜けた。

 大きな頭が斜面をころころと転がる、髭と髪に泥が絡みつく、灰色の目をかっと見開いて斜面の下で止まった。
「我、一騎打ちでラッセル王を討ち取れり、仇討ちを所望するもの、相手になろうず。汝らの後ろのアッチラスは我が味方也、戦うのであれば、汝等、首のピラミッドを覚悟せよ」
 丘の上のアッチラスが馬上で穂先が銀色のジャポネスク式の槍をざぁっと構え、突撃体制を採った。

 あちらこちらで、がしゃん、がしゃんっと武器を捨てる音がするラッセル軍は全面降伏して、自ら武装を解除した。
 イノシシ軍団が勝ち鬨を上げる丘の上でアッチラスも勝ち鬨を上げた。ぶちの馬に乗った女武者が駆け下りてくる、シヴァの甲冑を着けている。黒の胴で紅いイノシシが後ろ手に踊っている。

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