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未完の母

こんばんは。id_butterです。

本日、宇宙人長女は帰宅するなり号泣しはじめた。
平常体温高めの宇宙人長女の顔は汗と涙でぐちょぐちょだった。
汗でじっとりと湿った体を抱きしめさせられる(…暑い!!)。

それで、ふと友人の家での会話を思い出した。

そのころ、わたしは小学校2年生になった宇宙人長女の抱っこが負担になっていた。立ってでの抱っこはもちろん、座っていての抱っこも辛くなっていた。痩せ気味の宇宙人長女のお尻の骨はわたしの太ももに刺さる。痩せてはいても体重は20kgを超えているのだから当然だった。

「ねぇ、普通はさ、いつまで抱っこするものなの?」
と聞いたわたしに
「え、いつまでとかあるの。まだまだじゃないの。」
そう笑いながら答えた友人の膝には、小学校4年生になったという彼女の娘がどっかと座り、絵を描いている。
その子の背はもう大きく、わたしからは友人の顔がその子の頭に半分隠されており、見えない。
その時のわたしには、それが異様な光景に見えていた。

だけどそう、この友人と娘には、それが当たり前なのだ。

いつも、わたしは子育てに迷った時に彼女に会いたくなる。
愛されて育った子の「普通」が知りたいから。
そのまま真似できないことも多い。
でも、わたしなりの「普通理想」を描くために彼女に会いに行く。

わたしは、座っても立っても抱っこが辛いので、寝ながら抱きしめることにした。ただ、暑いのはどうしようもなく許容する。

「普通」がわからないのは、わたしには母親に抱かれた記憶がないからだ。

記憶をどう遡っても、母親に抱きしめられた記憶がない。
赤ちゃんのころは抱っこされたはずだけれど、その記憶もない。
当然、その温もりや匂いや音の記憶もない。

そう気づいたのは、宇宙人長女が言うからだ。
「あ〜、ママの匂いほっとする。」
…恥ずかしかった。
何度も、「え、くさい?」と聞き返してそういうことじゃないと返される。

母は「末っ子だったわたしをお父さんもお姉ちゃんもお兄ちゃんも代わる代わるずっと抱っこしていた」というけれど、何にも記憶がない。
代わりに、「末っ子だったわたしをお父さんもお姉ちゃんもお兄ちゃんも代わる代わるずっと怒っていた」記憶ばかりが思い出される。

宇宙人長女が泣きながら、今日あった出来事を話してくれた。

・下校時、クラスのいじめっ子にヘアクリップを奪われた。
・奪われたヘアクリップはママのものだった。
・いじめっ子の家まで行かないとヘアクリップを返さないと言われた。
・怖かったけど、ママに怒られると思っていじめっ子の家に行った。
・今は泣いているけれど、いじめっ子の家では泣かないように我慢した。
・ヘアクリップは取り返したものの、とても悔しい。

我が家の宇宙人談

ツッコミどころがあって、素直に同情する気になれない…
わたしのものを使うな、とあれほど口酸っぱく言ったではないか?
作ったばかりのアロマオイル、買ったばかりの虫刺されの薬、お気に入りのヘアピン、、、なくしたときにあれほど怒られたやないか〜( ̄(工) ̄)
…という大人げない気持ちを押し殺して、母親を演じるべきだ、ここは。
がんばれわたし。

① 怖かったけど、がんばってヘアクリップを取り返してきたことについて
・よくがんばった。
・自分で自分を褒めてあげたらいいと思う。
② いじめっ子について
・その子は、宇宙人長女のおともだちが多いこととか、毎日楽しそうなこととかがうらやましいのではないかと思う。けれど宇宙人長女が悪いわけではない。(その子はほぼ全員から嫌われている状況にある)
・その子から宇宙人長女ばかりがいじめられるのは、最終的に宇宙人長女には許してもらえる、怒らないと思われているからだと思う。宇宙人長女地球人次女との関係と同じである。いじめっ子の前で泣かないのはいいと思う。(舐められている、と思うけど明言は避ける)
・今まで通り、いじめっ子をみんなでいじめ返すのはやらないでほしい。だが、そんなにいやなのであれば先生に相談してみてもいいかもしれない。
③ ものごとの捉え方について
・自分が悔しい、という気持ちを味わうのは大事。
・だけど、それだけじゃなくて遠くから自分を眺めてみたりするのも大事。
・いじめっ子のことが嫌いじゃないともだち娘の親友の真似をしてみたらどうか。
④ 【最重要事項】ママのものを使うな。いつも揉め事の元凶である。

宇宙人との会話 より

怖かった、と泣く宇宙人長女の涙でわたしのTシャツが濡れていくのをみながら、普通の母親を演じられているだろうか、と考える。

わたしは、娘たちを抱きしめてきた。
昔は、猫を抱きしめていた。
抱きしめることはいやじゃない、むしろ癒やされる。
MTG中とかでなければ、だけれど。
彼らは柔らかく温かく少し湿っていて、生きて呼吸している。
ふと体が緩み、胸から温かいエネルギーがこみ上げて、ほっとする。
こんな愛おしいものたちを、母は父はなぜ抱きしめずにいられたのだろう。

お風呂に浸かってほっとひと息つく瞬間に似ていると思う。

兵士とか暗殺者とか、シティハンターの冴羽獠とかゴルゴ13とかはお風呂にゆっくり浸かったりしなそう。
うちの両親は、もしかしたら戦士だったのかな。
24時間戦えますか、的な。
わたしも、仕事で焦っているときとか集中したいときにしつこく抱っこしてと言われるのはうざい。背後に立たれるのも確かにいやだ。

わたしは、両親をしあわせにしなかったのだろうか。

兄の8個下に生まれたわたしに、母はよく言っていた。
「〇〇ちゃんが産まれてくれたからがんばれた。もうあとはゆっくりと過ごすだけだと思ってた。」
その言葉をうれしく思えないことがすべて物語ってしまっている。

物心ついたころの記憶がふと蘇ってきた。
母はいつも疲れていて、いつも寝ていた。
ひとりで遊んでさみしくなって母を起こしたことを思い出した。
うるさいと言われたのか、起きてくれたのか、母の反応は覚えていない。
ただたださみしくて、起こしてはいけないことだけを覚えた。

母みたいになりたくないと思いながらも、その母を赦せないことは執着になるだろうこともわかる。
でも、はっきりとした「怒り」とかじゃないこういうモヤモヤしたものから手を放すのはけっこう難しい。

せめて。
宇宙人長女地球人次女を抱っこしつづけよう。
ゆっくりと普通理想の母を目指そう。
そう思いながら、今日も未完の母でいる。
でも、土曜日の朝だけはゆっくり寝かしてほしいので、抱っこではなく添い寝にさせていただきたい。(毎日土曜日説)

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