見出し画像

【読書感想文】『続あしながおじさん』ジーン・ウェブスター

2016年11月に個人サイトで書いた感想文をサルベージ+加筆しています

『続あしながおじさん』を読みました。
幼いころは無印の『あしながおじさん』が愛読書だったのに、続編の存在自体を長じて初めて知ったのです。一生の不覚!

読んだのはこの版。曽祖父の本棚で見つけました。

現在入手可能なのは、下の新訳です。

図書館の骨とう品みたいな翻訳(Daddy-Long-Legsに「あしながおじさん」という訳語を初めて充てた訳者による翻訳本…)で今回初めて読んだんですが、いやあ、とんでもなく面白かったです!
もっと早くに読んでいたかった!
……と思う反面、この面白さは仕事とプライベートの兼ね合いに悩んだりする「大人」になっているからこそ分かる部分がかなり大きいような気もするので、今出会うのがちょうどよかったのかもしれませんね。
本の紹介をしたいんですが、そもそもあらすじからして『あしながおじさん』の致命的なネタバレになりかねないので、どうすればいいのやら悩ましいところです。

ほら、軽度のミステリ好きとしてはですね、いくら人口に膾炙した有名作品だからといって、ネタバレしていいとはどうしても思えないんですよね。
だって未読の人は必ずどこかにいるわけで、そのお楽しみを私なんぞの手で奪ってしまうなんて罪深い罪深い、とてもそんなことはできません。

ただ、ネタバレを避けられる範囲で魅力を語るのであれば。

『あしながおじさん』の主人公ジュディ=アボットは孤児院育ちです。
しかし、優秀な成績と類まれな文章のセンスを匿名のお金持ち(孤児院の評議員さん)に見込まれて、特別に女子大学に進学させてもらえることになりました。
彼女に求められる条件は一つ、匿名の紳士に対して、毎月必ず手紙を送ること。
小説『あしながおじさん』はその匿名の紳士「あしながおじさん」(ジュディが命名)に対する手紙の束で構成される書簡体小説
…という形式になっています。

ここまでが前提です。

続編の醍醐味

孤児院で育ち、みじめな子ども時代を送ってきたジュディは、「あしながおじさん」によって外の世界を知りました。
けれど――みじめな子ども時代を送らされた大嫌いな「ジョン・グリア・ホーム孤児院」には、まだあと百人以上の幼い子らが残っているのです。

この『続あしながおじさん』(原題:"Dear Enemy")では、ジュディが大学で出会った親友・サリーによって、ジョン・グリア・ホーム孤児院の改革がなされていく過程が描かれています。
改革といっても、ひとつひとつはすごく温かいのです。
メニューの決まり切った味のしない食事を、毎日違う献立にしたり、デザートつけたり。
お金を渡して町までお使いに行かせ、お店の人と値段の交渉をさせたり。
ジュディがいつも笑われていた「孤児全員が同じものを着させられる、青いギンガムチェックのダサい服」を廃止し、一人一人の名前が刺しゅうされたいろんな色の服(それも子どもたちが皆で協力して作ります!)に切り替えたり。
女の子はみんな伸ばしてひっつめて無理やり結んだ三つ編みだったのが、似合うように髪もカットしてあげたりします。(やっぱり世界名作劇場アニメ版のジュディの髪型おかしくないですか? 孤児院を出られたジュディが真っ先にやめたいのがあの呪いの髪型じゃないんですか?)
そういう細かなたくさんのことが、前作の主人公・ジュディにとっていかに憧れてやまない「普通の子なら知っているべき体験」であったかは、あしながおじさんへの手紙にいやというほど書かれていました。

この続編では、ジュディのみじめな子ども時代がひとつひとつ救われていくようなワクワクドキドキ感と、涙してしまいそうな喜びを味わうことができるのです。
まさに続編の醍醐味です!

原題『Dear Enemy』からわかるとおり、今作も書簡体小説です。

今回はジュディの手紙ではなく、新院長・サリーがジュディを含む友人や関係者にあてた手紙によって構成されています。
手紙の相手は複数いますが、なかでもサリーの「親愛なる敵さん」であるところの寡黙で気難しいマックレイ嘱託医との、対立しつつも信頼し…な関係がまた宜しいのです(=悶えます)。 
作品が書かれた時代的に、古い「優生学」(ダメな遺伝子は受け継がれるので断種も検討すべき的なアレ)をベースに物語が構成されており、この作品が現代ではあまり知られていないのはそのためなのかなーと思います。
でもでもでも、それを差し引いても面白いんですよ!!
とてもおすすめなので、前作ともども、機会がありましたらぜひ、読んでみてください!

余談

翻訳の違いについてのお話。

基本的に入手しやすい新訳(畔柳和代版)の方が現代の読者にも読みやすくなっています。出版も2017年と新しいですね。良いことです!

が、『Dear Enemy』のEnemyの訳語は、新訳の『かたき』より『てきさん』の方が好きでした。

昨日もロビン・マクレイ先生と些細なことで言い争い(私の言い分が正しかったんです)、以来、先生に特別なあだなをつけました。本日「かたきよ、おはよう!」とあいさつしたら、ずいぶんおごそかに怒っていらっしゃいました。

新潮文庫『続あしながおじさん』畔柳和代訳/2017

 ドクトル・マックレイと私とは、昨日ささやかなことでまたけんかをしました(私のほうが正しかったのです)。それ以来、私はわがドクトルに特別の称号をたてまつりりました。
「敵さん、お早うございます!」というのが私の今日のあいさつでした。ドクトルはひどく閉口していらっしゃいました。

新潮文庫『続あしながおじさん』松本恵子訳/1961

「敵さん」ってかわいくないですか?
具体的には伏せますが、旧訳が「大好きよ!」になっていたのが「愛しています。」になっていたのも個人的にはちょっと残念……「大好きよ!」のお手紙、可愛かったのに~! とはいえ新訳ふつうにいいので、これは私の我が侭です。

おすすめです!

2016.11.19
(加筆修正 2022.12.17)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?