【読書感想文】『島暮らしの記録』トーベ・ヤンソン

2016年11月に個人サイトで書いた感想文をサルベージしたものです

トーベ・ヤンソンの大人向けエッセイ『島暮らしの記録』を読みました。

ムーミンシリーズの作者さんですね。
好きな海外文学感想ブログさんで紹介されていたので気になりまして…。
内容は、フィンランドのある小さな孤島に小屋を建て、二十年以上暮らした彼女が、小屋を建てる時のエピソードや、暮らしていく中であった出来事などを諸々つづったエッセイです。

ですが読んでいて、ちょっと引っかかったことがありまして。
明らかに、トーべ女史は一人で住んでいるわけではなく、トゥーリッキ・ピエティラさんという女性と一緒に計画を立て、島では二十年以上ともに創作に打ち込み、老境に至って孤島暮らしから離れるまでずっと一緒にいるんですよね。
いったい誰なんだろう? 本当にただの友達?(※訳者解説にはそう書かれていました)……と首をひねって調べてみましたら、同性パートナー(恋人)でした。
色々納得しました。
そもそもこの本、Amazonなどで「トーベ・ヤンソン」の名前のみで登録されていますけど、挿画はそのトゥーリッキ・ピエティラさんによるものであり、実質は共著に近いわけです。
二人で、二十年以上ともに暮らした島での記憶を、一冊の本にして出版したというかたち――その前提に基づいて読み直すとほんとうに「そう」なのです。おそらくこの本は「共に暮らした二人の愛しい記憶」の、「記録」なのでしょう。

トーベ・ヤンソンは冒頭2ページ目くらいから、相棒の「トゥーティ」がどんな人なのか、何を大切に思っているのか、説明を始めます。
なんの前情報もなく(ムーミンの作者が島で暮らすエッセイだよ~くらいの感覚で)読んでいた時はよくわからなかった記述が、ようやく、ひとつひとつしっくりきたのです。

読後、なんだか考え込んでしまいました。
ムーミンを日本に紹介し、作者の信頼も厚かったとされる訳者さんが、公然たる恋人関係だったトゥーリッキを「親友」「友人」と本気で思っていたなんてことがあるでしょうか。隠すようなことでもないと思うのに、どうしてそう書かれていたんでしょう。
トーベ・ヤンソンの名前だけを前面に出して出版されているのにも、もやもやします。
出版社の要請?
一部の倫理的な拒否感に配慮した結果?

小説ならともかく、(多少の脚色はくわえられていたとしても)ノンフィクションの世界において、登場人物の情報を歪んで記載しておくのって、作品に対して失礼に当たらないんでしょうか。
……と、このもやもやを、どこにぶつければいいものかと思いつつ図書館に返しに行きました。
ついでに未読だったムーミンシリーズもせっかくなので借りてきました。
アニメでやっていたのはなんとなーく記憶にあるんですが、ちゃんと観たことはなかったんですよね。
というわけで、次は「ムーミンシリーズ」を読んでいます。

2016.11.24


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