第42話 チューベローズとミルクティー
そう、
あの夜
あなたのアパートの
小さな部屋に
チューベローズを
飾ったのだった
そのことを
秋の夜に
思い出すのだ
服をきたまま
抱き合うだけで
そう、あなたは
ただそうしているだけでいい
といった
布団の中で
あなたは
ほとんど
息をしてないみたいに
わたしにくるまっていた
どれくらい
そうしていたのだろう
どちらかが先に
起き上がると
どちらかが先に
ふたりぶんの
あたたかなミルクティーを
つくるのだ
そうしてそのあとは
どんな話をしたのだろう
チューべローズを飾ったあの夜
開いた窓から
夜の風が吹いて
花の香りがそっと
ミルクティーに
溶けていった
あなたは
わたしの胸を
みてみたい
といった
あなたはわたしの胸を
触って
少し
口にふくんだりもした
それから
そう、どれくらいそうしていたか
あなたは思い出したように
2杯目のあたたかいミルクティーをつくった
長い夜だった
あなたのたわいもない話をききながら
チューベローズは
キッチンの薄暗いところまで
うんと香った
行き場のないわたしたちは
そうやって
なぐざめあった
チューベローズの香が
ミルクティーに
溶けていく
そう、秋の夜に
わたしたちは
ひとりではなかった
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