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今日もアーケードにいます

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2021年9月の記事一覧

46話 キンモクセイ

帰れない 電車が動かなくなって 帰れないのだ 仕方なく、 待つ 人々の群に混じって じっと待つ だんだん、待ちつかれる 待ちつかれて コンビニで ビールを買う お腹も減って 枝豆も買う ロータリーの階段に座って 空を見上げる 脚に虫が、とまる 寒くなって 体をさする 周りを見わたす 膝にあごをのせて しみじみとする 帰りたい と思う 夏の あたたかな風を感じる 汗で体が湿っている 少し眠い気もする 昨日と 今日と 明日の

44話 月とカレーライス

カレーやのカウンターには うす暗い光が 灯っていた 月の大きな夜だった 大きなカレーの皿を 注文すると わたしは手紙をかいた カレー食べてます お元気ですか 次の言葉を探している間に カレーライスは もう できあがっていた 手紙をよけて カレーを頬張った カレーを半分、食べ終えると わたしは再びこう書いた やがてやってくる いろいろな なにか それは なにかは わからないけれど 生きていかなければ ならないと 強く 思うのそ

43話 銀杏と自転車

自転車をぬすんだ なんてことないはなしだ 朝、はやく目が覚めて 白い空をみていたら 自転車を ぬすんでみたく なったんだ 鍋がふきだして 真っ赤なキムチの汁が こぼれた 目の前で わらっているあなたは どこまで ほんとう なんだろう わらいながら 鍋をつつき なにも残らなくなると 半分も片づけないまま 外へ出た 銀杏並木を ふらふらと どこかにむかって あるいている 街灯にてらされた 時計台の下で ふいに立ち止まったあなたは

第42話 チューベローズとミルクティー

そう、 あの夜 あなたのアパートの 小さな部屋に チューベローズを 飾ったのだった そのことを 秋の夜に 思い出すのだ 服をきたまま 抱き合うだけで そう、あなたは ただそうしているだけでいい といった 布団の中で あなたは ほとんど 息をしてないみたいに わたしにくるまっていた どれくらい そうしていたのだろう どちらかが先に 起き上がると どちらかが先に ふたりぶんの あたたかなミルクティーを つくるのだ そうしてその

第41話:飲食と電卓

アーケードが 改装された年 アーケードに  東館ができた 東館には 吹き抜けのある 階段があり ワークスペースや 団らんスペースには 緑があふれていた 西館は 古いまま 残された 従業員の食堂と アーケードが所有する 大きな倉庫も そのまま 残された その食堂で わたしは毎日 昼食を食べている 電子レンジで 凍った弁当を 解凍して 水筒に入れた あたたかい お茶を飲む 他の従業員も だいたいは わたしと同じように なに

第40話

  まっくろな カラの桶が 高く 積まれている しんとした 作業場に 立っている あたたかいコーヒーや 芋の香りが 通り抜けていく 蛇口をひねって シンクを 濡らす まっくろい 桶を ひとつ 取って いきおいよく 出る水を そそいでいく 水が 冷たい デンワが鳴る きらさんだ 電話口では 声の小さい きらさんだが もくもくと 作業するひとだ 市場から アーケードまで 花を届けてくれるひとだ 都内の大きなお店を何軒かまわって 大半の荷を 下ろした

第39話

少しのあいだ 会っていなかった 秋に会おうと 約束もせずに 店には  われもこう が ならぶようになった 忘れたわけでは ないのに われもこう が 忘れるのと 同じくらい 遠くに行った 気にさせる 会っておけば よかった など いいたくないのだ なのに われもこう に 揺さぶられるのだ 月に一度くらいは 会っていた スーパーで待ち合わせ 冷凍のぎょうざと 鍋の出汁だけ 同じかごに 野菜は おのおの 好きなものを えらぶ