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勝ちたい、じゃあどうやって勝つか? 2023.06.03 湘南ベルマーレvsアルビレックス新潟 マッチレビュー

開始時の立ち位置と噛み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ。
新潟のSB、湘南のCBが空きがちになる。

■勝つための地道な作業

 雨上がりの平塚でキックオフ。湘南は出場停止の舘に代わって特別指定選手の髙橋がリーグ戦初先発。ベンチには怪我で離脱していた大橋が復帰と、数名のメンバー入れ替えを実施。新潟もDFラインとボランチのメンバーを4枚入れ替え。互いに連敗が続く中、メンバー変更も行いつつ悪い流れを断ち切りたい一戦となった。
 開始早々に湘南が大きなチャンスを得る。アンカーに入る奥野の横でボールを受けようとした伊藤に対し、杉岡が背後から忍び寄ってボール奪取。そのまま前線に上がり、受け直して上げたクロスがDF千葉の腕に当たってハンドの判定。開始1分でPKを獲得した。そのPKを町野がしっかりと決め、湘南が先制する。コンセプトであるボール奪取からの早い攻撃が久しぶりに久しぶりに実を結んだシーンだった。
 早い時間に先制を許した新潟は、いつも通りポゼッションからペースを握ろうとする。しかし湘南のプレス隊5人(2トップ+2IH+アンカー)は中央を締めて牽制、新潟のCB・GKにはボールを持たせてパスコースを塞ぐような守備を見せる。大外から前進する場合も湘南のCB・WB・IHが素早いスライドでマークを受け渡し、思ったようなボールを進めることが出来ない。開始10分ごろまでは脱出の糸口が見つけられない様子だったが、松橋監督の指示も含めて湘南の守備に綻びを作り出す作業を開始する。
 まずはFW谷口にDFライン裏を狙わせ、両WGが大外の高い位置をとる。湘南が前からの圧力とハイラインでプレーエリアを狭めていることから、繰り返しDFラインの裏をとる動きを見せてDFと中盤の間のスペース、いわゆるライン間を広げる作業に着手。CBからDFライン裏へのロングボールを送って三戸が走り込み、湘南DF陣に裏を取られる恐怖心を植えつけていく。そうして25分、三戸が杉岡の裏を取ることに成功。続く27分のセカンドボールの奪い合いでは湘南DFのライン設定が15分前よりも低くなっている状態が確認できる。ボールタッチが流れて大岩がカットしたシーンであるが、ミスがなければ決定機になりうるシーンだった。
 新潟は徐々に湘南のDFラインの位置を下げ、ライン間のスペースを広げることに成功。このスペースを有効に使うのが、小見や伊藤といったボールを持った時に力を発揮する選手である。29分、ボランチ1枚と伊藤がプレス隊の内側に立って中央に人を集め、WGが高い位置を取って湘南WBを最終ラインに釘付け。CBからのパスを受けたフリーの右SBから、広がったライン間で小見が前向きでパスを受ける。斜めのパスでアンカーの奥野が置き去りにされてマークのズレが発生し、石原一人が谷口・田上の二人を見る状況を作り上げた。伊藤のパスからフリーの谷口がシュートを決め、新潟が同点に追いつく。チームコンセプトをベースに、相手の対策を見ながら守備の綻びを作り出した狙い通りの得点だったと言える。

新潟が意図的に湘南の綻びを作り出した。

 ライン間を広げる作業の過程で、湘南のプレス隊が形作る五角形の内側でも圧力が弱く問題なくボールを経由させられることに気づいた新潟。中央に人を集めてからフリーのサイドバックへ展開、湘南陣内へ攻め込んでいく。失点後から奥野が厳しく伊藤をチェックするようになるが、人と人の間に立たれるとタイミングが遅れてしまう似非ゾーンディフェンスの体を晒してしまっていた。同点に追いついた後もこのルートで湘南陣内に繰り返し侵入していく。

■ウイングバックの出来

 湘南のボール保持は髙橋のボールスキルでチャンスを生み出す。新潟のプレッシングがさほど制限をかけてこないのもあり、幾度も縦パスを通して前線にボールを供給していた。中央で受けた選手からサイドに展開するが、ここから先に課題。左サイドでは畑が対面の新井に完封、右サイドでは石原のクロスと中の動きが合わずシュートまで至らない。若月やタリク、小野瀬がサイドの裏を取った場面でも、ゴール前にかかる人数が少なく新潟DFに防がれてしまう。スコアは1-1のまま前半を折り返す。  
 後半に入っても試合の様相は大きく変わらず、相手のビルドアップに規制ががかけられないまま互いにボール保持を許す状態。その状況で優位に立つのはポゼッションに一日の長がある新潟。繰り返し中央経由でサイドに展開し、ライン間で受けて湘南守備陣に圧力をかけていく。その流れで獲得したCKから谷口がこの試合2点目となるゴール。ニアでDFを釣って空間が開いたところ、正確な伊藤のキックと杉岡のマークを振り切った谷口の見事なプレーだった。
 逆転を許した湘南だったが、選手交代と配置変更で勢いづく。数ヶ月ぶりの実戦復帰となった大橋が前線で精力的に動き、町野を最前線に置いたままボール保持を可能にした。また左WBに移動した小野瀬とIHに入った阿部が積極的にゴール前まで顔を出し、新潟を自陣内に押し込む時間を長く取れるように。すると83分、右サイドを突破した石原のクロスをファーで待ち構えていた小野瀬が折り返し、ボールを受けた阿部のスルーパスを再度呼び込んでニアサイド上部に叩き込む。福岡戦でも見せたような難易度の高いシュートを決めて2-2のタイスコアに持ち込んだ。
 その後は新潟に決定機。CKからのヘディングシュートはボムグンのセーブで事無きを得た湘南。逆転を狙おうと前がかりになるが目立ったチャンスは作れずに試合終了。連敗同士の一戦は、勝ち点1を分け合う結果となった。

■失点が減らない原因(個人的雑感)

 湘南の守備をどう攻略するか?を探りながら勝利を手繰り寄せようとした新潟。空いているところ、繋がりの強度が弱いところを見つけたり、自分たちのアクションでスペースを作る動きを繰り返し実施。前半途中からDFラインを下げさせるために裏抜け担当FW谷口とドリブル突破が武器の小見のポジションを入れ替え、より危険な中央レーンで小見がDFラインと対峙。その後ろでフリーになったチーム最大の武器である伊藤の最大出力を発揮させる設計になっていた。試合後の松橋監督の言葉によればポジション変更について特に指示を出したわけではないようだが、目的意識を共有してその方法は選手が判断している点で統率の取れた良いチームと言える。
 ここで考えてみたいのが、湘南は相手が綻びを見つける作業の間に何をしていたのだろうか?相手の狙い通りライン間のスペースを開け渡し、スペシャルな能力を持つ選手に力を発揮されてゴールを奪われている。逆に言えば相手の狙いを読み取って、それを阻害するようなプレーが見られなかった。結果論ではあるが、1失点目付近の時間帯は新潟の思い通りにボールを回されており、割り切ってDFラインと中盤が下がってライン間のスペースを消すような判断が必要だったと思われる。
 失点が減らない原因はこうしたところにあるのではないか。つまり準備してきた対策を相手が攻略しようと変化してきたとき、それに対応する方法を打ち出せず、相手が攻略法を見つけたら一方的にやられるしかない点である。山口監督は守備の基本原則を守り続ければ失点しないという考えなのかもしれないが、守備陣が原則を守れない状況を相手が意図的に作り出そうとしている試合状況である。それであれば、選手の質も踏まえて守備原則をしっかりと守れる状態に変化する必要があろう。
 またボール奪取からの早い攻撃を信条としているのにもかかわらず、相手のパス回しの変化に対応しきれていない点も気がかりである。新潟がDFラインからプレス隊五角形の間を経由させるパスルートをなぜ許しているのか。本来であればこの空間にボールが入ったら複数人でボールに襲いかかる場所であり、悠々とサイドに展開させているのは違和感がある。徒らに前に出てスペースを相手に使わせるのであれば、いっそ自陣撤退する方が(後ろ向きな意味で)有益である。
 新潟が持っていた問題意識を湘南に置き換えるのであれば、どこで新潟のボールを奪うか?となる。現在のチームは事前に準備していた場所で奪えれば(開始早々の杉岡の奪取からPK獲得)チャンスに繋げられるが、そうでない奪取の場合は全体の配置がバラバラで効果的な逆襲に繋げられるシーンは少ない。相手がこちらの張った罠に飛び込んできてくれるのを待っていることが多く、少なくともどこに罠を張れば効果的か?という問題意識を共有できているようには見えない(個人の中にとどまる、あるいは前と後ろでズレがある)。
 70分の交代〜同点に追いつくまでの時間は、確かにチームの勢いを感じることができた。それは是が非でも1点を取る必要があり、チーム全体が前がかりの意識を共有できていたからであろう。つまりは前節広島戦と同じであり、試合展開という外的要因によってもたらされた意思統一の影響と思われる。山口監督は「勝ちたい」という意識を持つことを強調しているが、どうやって勝つかについてピッチ上で披露してくれることを期待する次第である。


試合結果
J1リーグ第16節
湘南ベルマーレ 2-2 アルビレックス新潟

湘南:町野(2')、小野瀬(83')
新潟:谷口(30',62')


主審 山下 良美

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