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転がっていくっきゃねえ、生まれ育った過去も連れて。 2023.09.24 湘南ベルマーレvs川崎フロンターレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの嚙み合わせ

■変容するかつての王者

 Jリーグ加盟30周年記念試合として、クラブ史上最多の5万人を超える観衆が集まった国立競技場でキックオフ。湘南のメンバーは前節の札幌戦と同じ。久しぶりに挙げた勝利の勢いそのままに、最下位脱出を目指してこのゲームに臨む。
 最近の川崎はかつての彼らと異なり、対戦相手に合わせて戦い方やシステムを変更して相手の長所を出させないような戦法にも取り組んでいる。直近に戦ったACL:ジョホール戦では並びは見慣れた4-3-3であっても、前線に入るウイング2枚が中央をケア。サイドにボールが出たときには中盤のIH2枚がプレッシングといった形を見せた。ジョホールの左サイドが立ち位置を変えてくることに対する策としては効果的だったように思われる。その前のリーグでは、セレッソ大阪戦で5-3-2に挑戦。悲願のACL制覇に向けて自分たちのスタイルに固執せず、相手に合わせて柔軟に戦い方を変えられるチームへと変貌を遂げようとしているのかもしれない。もちろん主力選手の負傷離脱といった台所事情も影響しているのだろうが。
 この試合も川崎は相手への対策を打ち出し、湘南と同じ5-3-2の配置で臨む。湘南が見せる横への揺さぶりに対して5人が待ち構え、ラフなボールや空中戦で長所を出せる2トップがゴールに襲い掛かる。中盤3枚は連戦でもシステムが変更されても面子は変わらず。ジョホール戦に続いてタフな内容が予想される試合でも、運動量と技術でチームの基盤を保てるという監督の信頼があるのだろう。


 川崎は試合開始からロングボールを蹴り、バックラインから丁寧に崩しにかかる様子はなし。2トップと中盤は左サイドに寄っているような印象があり、FWが舘との空中戦で優位に立つ見込みで人数をかけていたのだろう。また湘南としてもしっかりと繋いでくるという予想を裏切られる形になり、プレッシングからのボール奪取でリズムを出すチームとしては出鼻をくじかれる格好に。
 多少なりの戸惑いを見せながらも長いボールに付き合う展開の中、奥野のロングパスを跳ね返されダミアンがピッチ中央付近で収めると、ゴールに向かってドリブルを開始。平岡と奥野の二人がかりで制止を試みるがボール奪取にまでは至らず、フリーでサポートに走っていた瀬古、脇坂とワンタッチで繋がれて山田へスルーパス。角度のない位置から丁寧なキックでファーサイドへ流し込み、11分に山田のゴールで川崎が先制する。ボールが落ち着かない状況で湘南の両WBは高い位置を取っており、奥野はリスクのある斜めへの長いボールではなく近くの味方へ安全に繋ぐか、相手DFに後ろ向きの対応を強いるようなライン裏へのボールを選択してほしい場面だった。
 一方の川崎からすると、奇襲を仕掛け相手が対応に追われているうちに先制点を奪うといった理想的な展開。まさに戦略勝ちといったところか。片方のFWがDFを引き付けて中盤に前向きでフリーの選手を作ったのは狙い通りだろう。

川崎の先制ゴール。
2人引き連れてもなおキープしたダミアンを称賛すべきか。

 得点直後にも同じようにFWが引き付けて脇坂をフリーにする形から、今度はダミアンが決定機を迎える。シュートは枠を外れたものの、ここでも山田に奥野がかわされており、DFラインの前で川崎の攻撃を食い止められない厳しい時間帯が続く。

■この試合で出来たことは?

 ロングボールを蹴られる分、競り勝ってマイボールにできれば保持する時間は多め。主導権を取り返そうとボール保持の面で努力の様子がうかがえた。札幌戦ではプレッシングでWBの位置を高く取る意識が見えたが、この試合ではアタッカーとしてWBを高い位置に張らせる。その分IHが降りてボールを引き取り、相手のサイド担当を最終ラインまで下げさせることには成功。1stプレスを越えるところまではよいが、課題はそのあと。中央レーンでボールを受ける選手に対してサポートの位置が遠かったり、不在だったりしてポゼッションを失ってしまう場面が多く見られた。
 また素早く縦に展開してサイドの奥まで侵入したとしても、5人が構える川崎守備陣に対してのクロスボールはほぼ無力。もう一度IHが引き取ってペナルティエリア角あたりに起点を作り、FWとの連携で相手CBを引き出しスペースを生み出す作業が必要だった。

WBを高い位置に取らせて空いたスペースをIHが使う。
5バックに対して大外からのクロスはほぼ無力。
後半も同じように跳ね返され続けた。


 筆者が印象的だったシーンは、湘南がバックラインからボールを持ち運んだ際、川崎のプレス隊のうち2トップと中盤3枚の距離が開きすぎるところがあり、そのスペースを繰り返し使おうとした場面だ。28分、3バック+奥野で組み立て開始。舘がミンテからボールを受けて瀬古をかわすと中央へ運ぶ。脇坂とダミアンは平岡と奥野のケアがあるため持ち場を離れられず、山田はプレスバックが遅れている。彼らの距離が離れているため、舘から大野へのパスコースが開いていた。しかし大野が気づくのが若干遅く、舘のドリブルにもスピードがあったため呼吸が合わず。

舘が1枚剥がしてコースを開けたシーン。
もし大野に届いていたら…の図。
プレスをかわしてボールを届けられたはずだ。


 この時の舘はミンテに下げてやり直したが、同じシチュエーションが見られたのは41分。今度はゴールキックを繋いでボックス横の舘からサイドに張った石原へ。ファーストタッチで瀬古を振り切ると、FW-MF間の距離が開いた中央へ。今度は準備していたフリーの大野にボールを渡してプレスの網を脱出。この後大野は杉岡へのパスを選択してカットされるが、中央では奥野がフリーで待っていた。大野が一つ切り返しを入れて奥野に渡せていれば、ピッチ中央でフリーなパサーを作ることができ、先手を取って川崎を焦らせる状況を生み出せたかもしれない。
 奥野は間接的にボールに関与するシーンではチームを円滑に動かすための働きを見せたが、自らボールに関与する場面では呼び込む動作も少なく物足りなさを感じるプレー内容だった。影に収まらず、もっと陽の当たる方へ出てきてくれないだろうか。

先ほどと同じくFW-MF間のスペースを横断。
対面の大野も今度は準備万端。
大野のパスは川崎にカットされてあわやカウンター。
ビルドアップの出口として、よりパスが得意な選手を配置したいところ。

 アタッキングサードまで迫るもののボックス内に上手く侵入できず攻めあぐねていた湘南だったが、33分に右サイドから突破された流れから小野瀬のファールで川崎にPKを与えてしまう。キッカーであるダミアンのキックを一度は馬渡がセーブするが、ゴールラインから両足を離していたとして蹴り直し。二度目のキックは真ん中に蹴り込んだダミアンのゴールで0-2。内容的にはやや盛り返した時間帯だっただけに痛い失点だった。

■ヒーローの条件

 ハーフタイムで奥野に代えて田中を投入。立ち位置で相手を困らせたり味方を助けたりは不得手なものの、目に見えて効果のあるボールハント能力と鋭いパスを持った選手の力で中盤守備とカウンターの強化を図る。後半に入って川崎がショートパスを繋ぐようにしたのも手伝って、田中がボールを引っ掛けて奪うシーンが早速見受けられた。

 一方で相手を動かすのではなく自分たちが動いてボールを進めるため、川崎の5バックはゴール前に鎮座したまま。サイドからのクロスは跳ね返され、裏のスペースはほとんど空いていない。ミドルシュートもブロックに遭い、ボール保持率の割にはチャンスが少ない時間を長く過ごすことになった。川崎は試合中に怪我人が連続したこともあり急造バックラインを形成。新システムと不慣れなメンバーたちが声を掛け合って集中したディフェンスと破壊力のあるカウンターを見せ、湘南はなかなか相手ゴール前に侵入出来ない。
 試合はそのまま0-2で終了。普段平塚では入りきらないような緑と青の大観衆は、ゴールの熱狂を得られないまま帰途に着くことになった。


 さて、相手を押し込んでいるのにも関わらず崩すところまで至らなかったこの試合。札幌戦のように早い攻撃を仕掛けられない状況も見込まれるのであれば、各ポジションに求められる役割やキャラクターにも変化が合って然るべきと考える。とくにWBはサイドの高い位置を取る関係で、よりドリブルでの突破を重視してもいいのかもしれない。今年はゴール前に"ウェリントン・バズーカ"が不在のため、頭で競り合うようなクロスよりもポケットを取ってマイナスのクロスの方が得点確率は高いはずだ。
 すると期待を寄せたいのが中野・若月といった一芸に秀でた選手。スタートからは守備面で難しいところがあるとしても、相手を押し込むシチュエーションを作ってボックス脇で一仕事してもらえれば万々歳だ。逆サイドからのクロスに飛び込むという点も込みで考えれば、福田の起用も検討の余地があるし、小野瀬をサイドに回すことも可能だ。
 反対にIHは守備意識の高さや、低めのハーフレーンでの仕事の重要度が上がるだろう。ボールを奪われた際にWBの戻りが間に合わないシーンのカバー、構えられたDFラインの手前からファーに落とすクロスといったようなプレー。タリクや池田が輝くシーンが思い浮かぶはずである。あるいは流れの中でポジションを入れ替え、杉岡をインサイドレーンでプレーさせるのも一手だろう。


 残り6試合、一躍ヒーローとなる選手は現れるだろうか。他チームに比べれば少ない積み重ね。とはいえ確かに存在するそれが、実になるか否かのタイムリミットは残りわずかだ。

各ポジションで求めたい役割


試合結果
J1リーグ第28節
湘南ベルマーレ 0-2 川崎フロンターレ

湘南:なし
川崎:山田(11’)、レアンドロ ダミアン(39’)

主審 木村 博之

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