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唸れ、徒花。 2023.09.30 セレッソ大阪vs湘南ベルマーレ マッチレビュー

開始時の立ち位置と噛み合わせはこちら。

開始時の立ち位置
各ポジションの噛み合わせ

■穴が空いた互いの網

 天気は雨予報から曇りに変わり、アイドリッシュセブン Re:valeコラボも実施された大阪でキックオフ。湘南は敗れた前節川崎戦から大幅にメンバーを変更。累積警告による出場停止の舘に代わり、久しぶりに大岩が右CBで出場。WBは石原に代わり岡本、IHは小野瀬に代わって池田と右サイドのユニットを総入れ替えしてきた。アンカーは奥野に代わって田中、GKは馬渡に代わって富居、FWは鈴木に代わって阿部がメンバー入り。湘南のエースと砦を担う大橋とキムミンテ、左サイドの3人=大野、杉岡、平岡は継続して出場する。
 対するセレッソも前節神戸戦から若干の変更あり。GKにキムジンヒョンが怪我からの復帰、CBは鳥海に代わって西尾が出場。中盤の顔ぶれは変更なしで、FWは北野に代わり奧埜がレオセアラと2トップを組む形で臨む。
 互いに前節負けたくない試合を落としており、セレッソは上位進出、湘南は最下位脱出に向けて勝利が必須となるリーグ終盤の一戦となった。

 勝利した札幌戦を含め、開始直後は相手の勢いに飲まれる試合を繰り返してしまっていた湘南だったが、この試合はボールに食らいつく姿勢を見せて互角の戦いを繰り広げる。序盤にボールを握るのはセレッソ。日本代表でも活躍した毎熊がいる右サイドからビルドアップをスタートする。プレッシングで相手のビルドアップを引っ掛けてカウンターを繰り出し、リズムを掴みたい湘南からすればおあつらえ向きの相手ではあった。だが香川と喜田の2DHを捕まえきれずに中央を経由しながら右から左へと展開され、セレッソの前進を許す。
 しかし降りてくるFWに当てるのがメインパターンなのは準備済みだったのか、3バックによる迎撃や田中との挟み込みでセレッソの攻撃を食い止めて反撃に繋げていく。20分には田中のパスカットからショートカウンター。ボックス内に侵入した平岡の落としを池田がシュートにまで繋げた。セレッソの下部組織育ちであるIHの2人は攻守に渡って躍動。特に池田は積極的なミドルシュートとランニングで存在感を示した。

 23分には自陣の繋ぎから相手ゴールを脅かす。セレッソのプレッシングの圧がさほど強くなかったというのもあるが、3バック+アンカー+WBでボールを回し、ミンテのミドルパスで池田へと渡してプレスを回避。タイミングよく右サイドを上がってきた岡本がボールを受けてフリーで低いクロス。ボックス外から放った阿部のシュートはポストに弾かれるが、組み立てからフィニッシュまでスムーズに持ち込めたシーンだった。この場面以外でもセレッソが敷く4-4-2ブロックの外に立つWBを有効活用し、2列目のサイド担当がサボり気味なところを突いて相手守備ブロックに綻びを生みだすことに成功。単純なシステムの噛み合わせではあるが、位置的な優位を活用してチャンスを作り出す。

噛み合わせで位置的な優位を得ている図


 しかしDHの喜田・香川に通されるとプレスを回避されてしまうのは変わらず。33分にはボールホルダーのCBにプレスに出たところ、香川に通されて毎熊に展開。杉岡はクルークスのマークで毎熊にアプローチできず、中央に降りたFWを経由して逆サイドから深い位置まで侵入される。クロスは身体を寄せてシュートには持ち込ませなかったが、あわやというシーンを作られた。またある程度プレスがハマった盤面を作り出せても、GKキムジンヒョンからロングキックで逆サイドまで一気に通されてプレス回避されたうえ、陣形を押し込まれてしまう。

湘南のプレス隊形
湘南のプレスを回避するセレッソ



 セレッソのビルドアップに中々対応できない時間が続いていたが、36分に策を講じる。IHの後ろで余っていた田中が、平岡が担当していたDHのマークにずれる。平岡がプレッシャーをかけてもフリーの選手が出来ないため、ボールホルダーの選択肢に制限をかけることができた。DHに出るパスを対人に強い田中が連続してカット。ビルドアップを引っ掛けてショートカウンターでゴール前まで侵入できた場面で先制点が取れていれば、理想的な試合展開だった。
 だがこの後の時間、セレッソはゴールキックを繋ぐのをやめてロングキックを選択するようになっているため、より確度の低い選択を強制させたという意味においては利を得たとも言える。

前半の終わり際、湘南はボールの奪いどころをSBとDHに設定する


■試合を勝たせたプレーは?

 後半に入っても互いのゴール前に迫り合う展開は変わらず。セレッソは手前で繋ぐ素振りを見せて湘南のプレスを誘いつつ、プレス隊の頭を越すパスで打開を画策する。
 しかしその狙いを阻んだのは池田。50分と52分のシーン、GKがボールを持ってビルドアップの位置に移動するセレッソ。それに呼応して湘南のプレス隊が配置に着くところ、池田は中央の香川とサイドの船木の2枚を1人でケア。ジンヒョンが船木へのキックを選択し、ボールの移動中にアプローチをかけて船木に制止をかける。52分にはそのままボール奪取に成功、パスミスで再びボールをセレッソに渡してしまったが、船木に突破を許していれば決定的なシーンを作られていた可能性が高い。セレッソの狙いを折りつつ湘南の狙いを実行し続けた池田の働きは、この試合を勝たせたファインプレーだったと考える。

セレッソの保持の狙い
湘南が捨てた逆サイドに通してズレを誘う
セレッソの狙いを阻む池田の守備
攻守に良いプレーが随所に見られた


 鈴木のゴールが生まれるコーナーキックに繋がったプレーは、この試合のプレッシングが積み重なった結果である。76分のセレッソの組み立ては左サイドのスローインを右サイドに蹴り出して開始。湘南は2人のDHに前を向かせないよう中央を封鎖、ボールを戻されたGKからのロングキックは池田と岡本が素早くスライドして逆サイドに立つセレッソの選手を消してしまう。すると近場のパス交換をせざるを得なくなった最終ラインから、降りて受けようとするFWへの縦パスが出るためミンテと田中で挟んでボール奪取に成功。奪ったボールを丁寧に右サイドへ展開してクロス、コーナーキックを獲得した。そして79分、杉岡のコーナーキックに鈴木がヘディングで合わせて待望の先制点を挙げる。


 前線からのプレッシングに関して言えば、試合中に相手が手法を変えてきても柔軟に対応出来ていた点は評価したいところだ。プレスがはまりきらない状況から田中にDHのマークを担当させてセレッソにショートカウンターを受ける恐怖心を植え付け、逃げのロングキックが届く先にも素早いアプローチで蓋をする。それが機能したのは田中の守備能力と池田の走力が支えになったのは言うまでもないが、札幌戦から形になったWBを奪取の起点とする守備方法が結実したからだとも言えるはず。トレーニングの結果なのかピッチ上での判断なのか、はたまた偶然なのかはわかりかねるが、いずれにしても相手が見せた二の手に反応できる下地が敷かれていた点は前向きに捉えていいだろう。とはいえセレッソの2CBが、プレスを剥がすための持ち運びや引きつけといった作業を90分通してほとんど行わなかったのも加味して考える必要はあるが。

 平岡と池田の守備が良かったあまり、選手交代しにくい状況が生まれたのは難しくも嬉しい悩みである。先発の彼ら2人を引っ張っているうちに先制点が奪えたのは、監督が博打に勝った結果とも言えるはず。反対にセレッソに先制されていたら、いつも通り交代が遅い!と言われていたところであろう。昨シーズンは池田のような守備をタリクが行なっていた記憶があり、準備次第で同じ役割が担えるはずなので今後はそちらにも期待したい。
 先制点を待っていたかのように83分に選手交代。平岡と池田に代えてタリクと福田が投入される。左IHはタリク、右IHはゴールを決めた鈴木が担当、福田はFWに入った。

 同点に追いつこうとするセレッソの攻撃はほとんどがサイドからのクロスで、ミンテを中心とした守備陣が危なげなく跳ね返し続ける。すると87分に追加点が生まれた。
 コーナーキックの跳ね返りを拾って杉岡が左サイドから低いクロス、走り込んだ福田がゴールを背にして収めてマイナスのパス。ボールを受けて小刻みなステップを踏み、相手守備陣の虚をつくようなふわりと浮かせたパスを出したのはなんとキャプテン大岩。そのパスに反応した大橋が左足ボレーでゴールネットに突き刺して点差を広げる。ゴールよりもその前のパスに注目したくなるような一連のプレーから、湘南が勝利を決定づけるゴールを奪った。

 試合はそのまま0-2で終了。前日の横浜FCはドロー決着だったため、勝ち点2差をひっくり返して18節から続いていた最下位を脱出した。

■沸き上がった右サイド

 この試合最大のトピックはメンバー総入れ替えを行った右サイドの躍動だろう。池田がスプリントで最前線まで駆け上がってスペースを作り、岡本は対面のカピシャーバを抑えつつ自らはフリーな場所に走り込んで起点となった。そして大岩は前二人が作ったハーフレーンのスペースを活用しながらスルスルと前線に顔を出してチャンスメイク。そのタイミングの良さと走るコースどりは、かつての山根(現:川崎F)を想起させるプレーぶりだった。たった一試合ではあるが、自らのプレーで評価を覆した彼らには賞賛を送りたい。

右サイド躍動の図
池田のダイナミックな動きがチームを活性化させた


 また輝きを見せていたのは復帰戦となった富居もである。要所要所でのシュートストップもさることながら、自陣での組み立てに参加してセレッソの1stプレスを越えるパスを通していた。ジンヒョンに勝るとも劣らない配球で味方を助けていたのも見逃せないポイントだ。
 先発復帰した阿部も得点こそなかったものの、チームの守備戦術が整理されたことで本来の力を発揮できそうな雰囲気がある。プレッシングにおいてFWは方向づけと相手DHのマークが主な役割で、スプリントしてボールホルダーにプレッシャーをかける場面が減少。その分中央レーンに止まる時間が長くなって体力の消耗も少なくなり、ボールを受けた後のクオリティも今季の出場試合の中では上位の方だった印象だ。
 また池田が上がって出来た中盤のスペースに降りてボールを引き取り、活性化している右サイドの循環とボール保持にも関わってチームを助けた。一度危ないロストがあったが、そこは意地を見せて自ら取り返したのでご愛嬌といったところか。シュートのフィーリングも合いつつあるようなので、ここぞというときの一発を見たいところである。

 システム自体の相性や相手の出来を考慮に入れる必要があるとはいえ、久しぶりに攻守両面で躍動感のある試合を見せられた湘南。リーグ最終盤を前にしてようやくメンバーの最適解が見えたような感覚もある。
 比較的自分たちの得意な面を出せる相手には良い戦いが出来たが、次節の京都は逆に苦手な面を露わにしてくるような相手である。その後の対戦(神戸、名古屋)を考慮すると是が非でも勝ち点を取りたい試合になるだろう。


 このチームは決して死んでいない。残り5試合、すべての試合が正念場だ。



試合結果
J1リーグ第29節
セレッソ大阪 0-2 湘南ベルマーレ

C大阪 :なし
湘南 :鈴木章(79')、大橋(87')

主審 池内 明彦

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